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闇の経典

漆黒の館編の開始です

「平和だね」

 呑気な良美。

「まあ、平和だね」

 同意する較。

「私が習った日本語の平和と貴女達が言う平和とは、違う気がします」

 金髪の少女の言葉に良美が聞き返す。

「そうなんだ。そっちの平和ってどういうの?」

 金髪の少女は、周りに倒れる火器等で武装した集団を指差して言う。

「少なくともこんな連中に襲われている状況は、さしません!」

 較が微笑む。

「馬鹿だね。邪神の復活を企む奴らに狙われていて、普通の武装集団に襲われている状況なんて平和な内よ」

 沈痛な表情を浮かべる金髪の少女。

「私は、助けを求める相手を間違えたのかしら?」

 金髪の少女が較達と出会ったのは、ほんの数時間前であった。



 金髪の少女、マッキー=メルソンは、一冊の本を抱えて走っていた。

 他にも荷物があったが、それらは、もう手元には、無かった。

 その荷物の中には、財布やパスポートといった大切な物があったが、それを探しに戻る余裕など無かった。

 そして、そんな物よりも抱える一冊本の方が重要だったのだ。

「この本だけは、あいつ等に渡せない」(英語)

 息を荒げながら走っていたマッキーだったが、元々運動が得意では、無い彼女が長時間走り続ける事は、難しく、限界が来て立ち止まってしまう。

「なんとか撒いたでしょうか?」(英語)

「無駄な真似を。大人しく、闇の経典を渡せ」(英語)

 そいつは、マッキーの目前の影から浮き出てきた。

「誰が渡すものですか!」(英語)

 背を向けて走り出そうとしたマッキーの頬を闇の刃が通り抜けた。

 頬から滴る血、ハラハラと落ちていく金髪の髪に周囲の人も異常を察知するが、遠巻きに見ているだけだった。

 足を止め、傷口をなぞり、血がついた指先を見てマッキーが振り返る。

「こうなったら、この本だけでも!」(英語)

 いざという時の為に用意しておいたライターで本に火をつけようとすると周囲から悲鳴が上がる。

「本を燃やすのは、駄目だ!」

「止めてくれ!」

「何ですの?」(英語)

 予想外の過剰な反応にマッキーが戸惑っていると影から出てきた奴がにじり寄る。

「無駄な足掻きを」(英語)

「ここは、本の町、神田だよ。そこで本を燃やそうとすればこうなるよ」(英語)

 マッキーの前に較が現れた。

「貴女は?」(英語)

 マッキーが突然の登場に戸惑っている間も影から浮き出た者は、その闇の刃を振り上げていた。

「あちきの名前は、白風較、戦いを続ける?」(英語)

 較の忠告を影から浮き出た者は、無視して闇の刃を振り下ろした。

「あぶない!」(英語)

 マッキーが叫ぶ中、較は、振り向き様に手刀を放つ。

『オーディーン』

 闇の刃は、砕かれ影から浮き出た者を両断して、消滅させる。

「術で生み出した仮初の存在みたいだね」

 較は、改めてマッキーの方を向き合う。

「貴女は、何者?」(英語)

「おーい、ヤヤ、見つかったか?」

 良美がマッキーの置き忘れた荷物を引っ張ってやってくるのであった。

「詳しい事情は、近くのお店に入ってからしましょう」(英語)

 較の言葉にマッキーは、従う事にした。



「詰り、その闇の経典って奴を狙われているんだな」

 喫茶店の名物、ジャンボナポリタンを食べながら良美が尋ねるとマッキーが頷く。

「はい。これは、うちの家で代々護って居たものでした」

 日本に来るに前に日本語を覚えたと言うマッキーは、良美に合わせて日本語で答えた。

「それを貴女が持っていると言う事は、ご家族は……」

 言葉を濁す較にマッキーが複雑な顔をする。

「母は、私が小さい頃に亡くなっていて。父親は、考古学の研究で南アフリカの奥地、連絡もつかないんです。私も家を襲撃されるまで、この本がそれ程重要な物だとは、思ってもいませんでした」

 眉を顰める良美。

「それをどうして命懸けで護ろうとしたんだ?」

 マッキーは、俯く。

「これを奪おうとしてやってきた連中から私を護る為に死んだ人が居るんです。その人がこの本だけは、奴らに渡さないでくれって……」

 ばつが悪そうな顔をする良美を横目に較が問題の本を見る。

「確かにかなり力を持つ本みたいだけど。逃げるとしてもどうして日本に来たの?」

「日本に来たのは、この国の神田という町にこの経典と対を成す影の経典があると情報を得たからです」

 マッキーの答えに較が窓の外を見る。

「随分と大雑把な情報だね。この神田に本屋がどれだけあるか知ってる?」

 マッキーが恐る恐る尋ねる。

「もしかして十軒以上あるんですか?」

 較がため息を吐き良美があっさりと答える。

「百軒以上あるぞ」

「百軒!」

 思わず大声を出すマッキー。

「それにしても闇の経典と影の経典ね。面倒な話になりそうだね」

 較は、闇の経典を開く。

「何、この子供の落書き?」

 良美がそう言うのも当然の、意味不明な記号と無秩序な線の集まりがそこには、あった。

「私もそう思うんですが、この本自体に意味があるんじゃないんですかね?」

 マッキーが悩む中、本を凝視していた較が言う。

「これって邪神って言うか、一部の神々が使う高密度言語の写しだね。内容からして召喚に伴う契約内容が書かれていると思うよ」

「読めるんですか!」

 驚くマッキーに較が頷く。

「この手の本は、結構巡り合うから、簡単な解読法を身につけたよ」

 手を叩く良美。

「そういえば、先月も似たような本を偶々手に入れて、狙われたっけ」

「よくある事なんですか?」

 強い疑問を抱くマッキーに較が頷く。

「よくある事だよ。でも影の経典を手に入れてどうするつもりだったの?」

 マッキーが闇の経典に触れながら答える。

「うちの伝承にあるのです。闇の経典は、影の経典と合わさる時、その力を失うだろうって」

「面白い伝承だね。それで影の経典を探す為にここに来たんだ。それで、どうやって探すの?」

 良美の言葉にさっきのショックが蘇ったのかマッキーが遠い目をする。

「地図では、そんな広くないと思ったので、本を扱っている場所も少ないと思っていたんですが……」

 較が諦めた表情をする。

「了解、手伝うよ。この手の本を取り扱う場所って限られているからそこを調べよう」

「手伝うって、さっき出逢ったばかりなのに」

 意外そうな顔をするマッキーに良美が笑顔で答える。

「日本には、袖触れ合うも多少の縁って言葉があるんだよ。それに、命の恩人の為にイギリスからやって来たその心意気を無視できないよ」

「ありがとうございます」

 頭を下げるマッキーであった。



 そして、頭にあった襲撃を含む、何度かの襲撃を潜り抜け、較達は、一軒の古本屋の前に立っていた。

「……随分と趣きがあるお店で」

 顔を引きつらせるマッキーに良美がストレートに言う。

「はっきりとボロいって言ったらどう? こんな所に貴重な本があるの?」

 較が頷く。

「ここは、業界じゃ有名な本屋なんだよ。まあ、店主の偏屈さも有名だけどね」

『誰が偏屈じゃ、白風の小娘』

 地の底から聞こえてくるような声にマッキーが震えるが、良美は、平然と言う。

「聞いてたのか。それじゃ、質問だけど影の経典って本ある?」

『さあね、欲しければ自分で探しな、地球の重し』

 偏屈な声に較が補足する。

「ここの店主、自分の所の在庫のチェックすらまともにやってないから、何があるか本気で知らないよ」

「よくそれで古本屋をやってるね」

 良美が眉を寄せながらお店に入ろうとした時、影から複数の闇が盛り上がる。

『この中には、入らせないぞ!』

 それは、空気を震わせない邪悪な心の声。

「こいつら何なんですか?」

 怯えるマッキーに較が答える。

「襲撃の本命。魔術で生み出された『暗黒の雫』って魔法生物だよ。さっきのより、かなり強く実体化しているよ」

 暗黒の雫は、影よりゆっくりと歩み出て、較達を囲み、闇の刃を放ってくる。

 較は、マッキーと良美を抱えて包囲を飛び越える。

『この中に入る前に、闇の経典を貰い受ける!』

 にじり寄る暗黒の雫に畏怖するマッキー。

「どうしてお店に入るのを防ごうとしているのですか?」

 較がお店の角を指差して言う。

「こいつら程度じゃ、とうてい破れない強力な結界が張られているの。入られたら最後、二度と手に入れられないと思ったんじゃないの?」

「だからってここで襲ってくるっていうのもなんだよね」

 失笑する良美に較が二人を地面に降ろして言う。

「まだあちきを甘く見てるって事でしょ」

 暗黒の雫に向かって飛び掛る較。

『邪魔者には、死を!』

 一斉に闇の刃が較に迫る。

『ホーリー』

 較が懐中電灯を使うと、その光に触れた闇の刃と暗黒の雫が消えていく。

「嘘、懐中電灯の光で消せるんですか?」

 驚くマッキーに良美が手を横に振る。

「多分違うよ。懐中電灯の光にヤヤが自分の気を籠めて、聖なる光にしてるんじゃないの?」

「そんな所だよ。発光から自力でやるのが本式なんだけど、こっちの方が楽だから『ホーリー』」

 次の一撃で暗黒の雫を一掃を終える較。

「これで影の経典が手に入……」

 店に入ろうとしたマッキーを良美が腕を引いて止めた。

「何を……」

 マッキーの直前に闇の壁が生まれた。

『今のを察知するとは、流石は、百戦錬磨の『ウエイトオブアース』と言った所ですね』

 ローブを纏った男が空中に現れる。

「あんたが、今回の件の紡ぎ手?」

 較の問い掛けにローブの男が頷く。

『『漆黒の館』を蘇らせる為に蠢く者。『ダークバトラー(闇執事)』と名乗っています』

 較の表情が鋭くなる。

「噂だけは、聞いたことがある。漆黒の館に仕える者達。しかし、いまの襲撃は、ともかく、さっきまでの無粋な連中は、あんたららしくないね」

 ダークバトラーが肩をすくめる。

『こちらにも色々と浮世の義理があるのですよ』

「なるほどね。それで、まだ続ける?」

 較の挑発にダークバトラーは、首を横に振る。

『残念ですが、『ホワイトハンドオブフィニッシュ』と遣り合うには、準備不足。今の不意打ちで決められなかった以上、引き上げさせてもらいます』

「逃げられると思ってるの?」

 良美も挑発するが、ダークバトラーが微笑する。

『ええ、最初からそちらには、伺っていませんから』

 その言葉を最後にローブだけ残して消えていた。

「中々強かな奴みたいだよ」

 較が不敵な笑みを浮かべるのを見てマッキーが激しい後悔に襲われていた。

「絶対に助けを求める相手を間違えた」

「とにかく、お店にGOだよ」

 良美に引っ張られて問題の古本屋に入るマッキーであった。

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