アクション映画
飛行機に乗ればハイジャックに遭うのは、必然?
「あたしは、母親の墓参りだけど、こうしてヤヤ達と飛行機に乗るのも何回目かな?」
飛行機の座席に座る較達の中学時代のクラスメイトのハーフの少女、エアーナが訊ねると良美が首を傾げる。
「竜魔玉時とか、世界各国に行っていたからね」
「まあ、今回は、大した用事でも無いし気楽に行こうよ」
較がぬいぐるみ用の生地のサンプルを取り出して手触り等を調べ始める。
「大した用事じゃないと本気で思っているのか?」
呆れた顔をするエアーナの叔父、風太。
「ミサラ王国のミスリルの魔王の封印の確認でしょ? 大した用事じゃないじゃん」
良美が気楽に言うと風太が大きなため息を吐く。
「そうだな、お前達が関わってなければ単なる確認作業なんだろうながな」
エアーナが首を傾げる。
「ヤヤ達が関わると違うんですか?」
風太が較達を指差して言う。
「この二人が絡むとどんな小さなトラブルでも大事になるんだよ」
「人を疫病神の様に言わないでよ」
良美が不機嫌そうな顔をするのをみてエアーナが笑いながら語る。
「でも、あたしがヤヤ達に始めてあったのも飛行機だったよね」
「そうだったな、あの時、ミサラ王国からの飛行機でお前達と同乗してなければ、こんな波乱万丈な人生を送る事は、無かっただろうな」
風太が遠い目をする中、較は、生地のチェックをしながら言う。
「いくらあちき達でもそうそう問題は、起こさないよ」
『乗員の皆さん、この機体は、今より『ミサラ解放軍』の支配下に置かれる事になった』
唐突の機内アナウンスに乗客が戸惑う中、較が無言で生地のチェックを続けるが、その頬に冷や汗を垂らしていた。
「まあ、お前達と一緒で平穏無事な空の旅は、期待していないがな」
風太が肩をすくめる中、エアーナが真剣な顔になっているのに気付いて良美が訊ねる。
「エアーナ、奴等の事を知ってるの?」
エアーナが頷く。
「ミサラの民主主義化を求めて活動しているテロ組織です。かなり過激な行動が多く、ハイジャックもこれが初めてじゃなくって、多くの被害者を出した事もあります」
その言葉に較が生地を片付け始める。
「さて被害が出る前に排除しておきますか」
立とうとする較を風太が睨む。
「ヤヤ、お前は、動くな。状況は、直ぐに八刃にも伝わるから、向うからの指示を待て」
「そんな事を言っている間に被害が出たらどうするの?」
反論する良美を風太が睨む。
「お前達が動けば確実に大事になって、その後の後始末でどれだけの人間が苦労すると思っている。言っとくぞ、人の命は、尊いからってその為に何百何千人に無理させ、何千何億円の被害を出す理由には、ならないんだよ」
不満そうな顔をする良美に較が言う。
「昨日まで自分が原因のトラブル処理をやっていたあちきは、強くいえないよ」
風太が重々しく頷く。
「そういう事だ。それに相手だって政治的主張を持っているテロリストだ、そうそう人的被害を出す筈が無い」
「本当に大丈夫でしょうか?」
不安そうな顔をするエアーナに較が言う。
「人が死にそうな気配を感じたら動く。それがあちきの我慢の限界だよ」
風太も頷く。
「それ以上の期待していない。とにかく、落ち着いて行動してくれ」
そうしている間にも拳銃を持った男達が客席を警戒に来る。
「拳銃なんてどうやって持ち込んだんでしょうね?」
不思議がるエアーナに風太が言う。
「上空に上がってからの時間から考えて、手荷物でなく貨物に紛れ込ませた可能性が高いな。さっきのエアーナと話から考えて、ハイジャック慣れしている。逆にこういう奴等の方が被害が少なくて済むかもな」
そう言いながらも風太は、周っている男達を解らない様に観察する。
そんな中、男の一人がエアーナに目を付けた。
「お前、ミサラの人間だな?」
「違います! 今は、日本で暮らしています!」
エアーナが抗弁するがその腕を掴む男。
「日本政府にも有効な人質、丁度良い」
「嫌!」
抵抗しようとするエアーナの頬に男が拳銃を押し付ける。
「大人しく言う事を聞かないと最初の犠牲者になるぞ」
「馬鹿、止めろ!」
制止の声をあげる風太を男が見下す。
「口の聞き方に気をつけろ! この飛行機は、もう俺達の……」
男が言い終わる前に較の手が男の手首を握りつぶしていた。
「ギャー!」
叫ぶ男に残りのテロリストの拳銃が向けられるが、それよりも先に較が髪の毛を放つ。
『ベルゼブブ』
拳銃は、弾丸を打ち出す前に粉砕された。
「何で動いたんだ?」
風太が苦虫を噛んだ顔をして訊ねると良美が肩をすくめる。
「あの状況でヤヤが動かないわけ無いじゃん」
「ああいう場合、叔父である俺の出番じゃないか?」
風太の嫌味に較が拳銃を壊されてびびって居るテロリスト達を睨みながら言う。
「出番をとってごめんなさい」
風太も立ち上がり肩をまわす。
「それじゃあ、少し運動するか」
その場に居たテロリストを制圧するのに一分も掛からなかった。
「さて、これからどうする?」
テロリスト達を数人の乗客の上着で縛り上げた風太の問い掛けに較が言う。
「問題は、そこなんだよ。こいつら、この飛行機に爆弾積んでるみたいなんだよね」
「そうだ! 我々を解放しないとここで全員死ぬことになるぞ!」
そういったテロリストの指の一本を握りつぶす較。
「よく聞こえなかったけどもう一度言ってくれる?」
「痛い! 何を……」
テロリストが痛がりながら答えないで居ると次の一本を握りつぶす較。
「もう一度だけチャンスをあげる。何だって?」
較の冷たい視線にテロリストが涙と鼻水でグチョグチョになりながらも言う。
「お願いします! これ以上は、止めて下さい!」
風太が残りのテロリストに言う。
「ああ成りたくなかったら、大人しくしていろ」
テロリスト達が怯える中、較が言う。
「爆弾処理の経験は、あるよね?」
「八刃で何度かやらされたが、確実じゃない。お前だったら、簡単だろう?」
風太の確認に較が眉を寄せる。
「一通りは、出来るけど、最悪凍らせる事になるよ」
「それでも、安全第一だ。俺は、コックピットの方をどうにかするからそっちを頼む」
風太の言葉に較が頷く。
「了解、良美は、どうする?」
悩む良美。
「ヤヤと一緒に爆弾解体にいくのも良いかもしれないけど、敵のボスとの対面もしておきたいんだよな」
「ここで待っているという選択肢は、無いの?」
呆れた顔をするエアーナに較が悟りきった顔で言う。
「ヨシだもん。諦めているよ」
「こっちの方が人手がいるからこっちに来い」
風太の言葉に良美が応じる。
「了解。ヤヤ、爆弾の方は、頼んだよ」
「はいはい、怪我しない様にね」
それぞれ動き出す中、残ったエアーナが乗客への説得を始める前に呟く。
「実は、あたしが一番面倒じゃないのかしら?」
エアーナの予測通り、乗客への説明は、困難を極めるのであった。
コックピットのドアの前まで来た風太が説明する。
「こういったジャンボジェットでは、ハイジャック防止の為にコックピットの扉は、中からしか開かないようになっている」
「でも、もう中に居るんだよね?」
良美の言葉に苦笑する風太。
「まあ、どんなに優れたシステムや方法でも、使用しているのが人だと何かしらの抜けがあるもんだ」
そう言いながら風太がノックする。
「ここ以外は、鎮圧したハイジャックのリーダー、いい加減諦めないか?」
『ふざけるな! 貴様等が何者かは、知らないが、こんな事をしてただで済むと思っているのか?』
ドア越しに聞こえてくる恫喝にしたり顔で風太が囁く。
「こいつは、きっと爆弾って切り札をこっちが知らないと思って、これから脅すつもりだぞ」
良美も面白そうに囁き返す。
「こっちから言って、相手を驚かそうよ?」
「下手に刺激して直ぐにリモコンのスイッチを押されても困る。ここは、相手に合わせるさ」
そう囁いてから改めて相手に聞き返す。
「ただですまないってどういう事だ!」
自分の優位性を疑わないハイジャックのリーダーが余裕綽々な態度で答える。
『貴様等の命は、俺の指一本に掛かっているって事だ』
良美がリモコンを持ってる真似をするのを見せられ風太が笑いを堪えながら告げる。
「意味が解らないことを言っていないで、とっととそこから出て来い。俺は、これでも元軍役、映画でもハイジャック犯は、元軍人に倒されるのがお約束だろうが!」
茶化す風太にハイジャックのリーダーが切れる。
『舐めた口をきいていると爆弾のスイッチを押すぞ!』
「爆弾だって!」
相手に見えないだろうに驚いた顔真似をする風太に良美が口を押さえて爆笑する。
『そうだ! 俺がリモコンのスイッチを押せばこの飛行機がふっとんで皆殺しだ!』
ハイジャックのリーダーの宣言に風太が驚愕した声を真似る。
「ば、馬鹿を言うな! そんな事をすればお前も死ぬことになるぞ!」
『元からミサラの未来の為には、この命は、惜しむつもりは、無い!』
朗々と語るハイジャックのリーダー。
「信じられないな! 単なるハッタリだろう!」
信じてない態度を装う風太。
『君達、止めるんだ! もしも本当に爆弾があったら大変な事になる!』
ここでパイロットが口を制止してくる。
「だからってこのままハイジャックされたままって訳には、行かないだろうが!」
風太の折れない態度にハイジャックのリーダーが苛立つ。
『おい、お前、ドアを開けろ!』
するとドアが開き、そのノブを持つ青褪めた顔をしたスッチーが居た。
「お願いします。これ以上、刺激しないで下さい」
風太は、ドアを押し開けて強引に中に入る。
「覚悟しろ!」
ハイジャックのリーダーは、パイロットの頭に拳銃を突きつけて言う。
「止まれ! さもないとこいつを撃つぞ!」
悔しそうな態度を見せる風太。
「卑怯者が!」
「さっきから散々の事を言ってくれたな! そいつをそいつのベルトで縛れ!」
ハイジャックのリーダーの指示に従いスッチーがおずおずと風太の手首を彼のズボンのベルトで縛り、同じ様に縛られているコパイロットの横に連れて行く。
「さっきから散々な事を言ってくれたな。どんな目に合わせてやろうか!」
ハイジャックのリーダーの注意が風太に移った時、ドアの影に隠れていた良美が動いた。
ハイジャックのリーダーに駆け寄るとその拳銃を蹴り上げた。
「よし!」
風太がまだ自由な足でハイジャックのリーダーの足を払い転がし、馬乗りになる。
「チェックメイトだな!」
しかし、ハイジャックのリーダーは、まだ余裕の笑みを浮かべていた。
「まだだ! これを見ろ!」
そういって取り出したリモコンを見て良美が言う。
「予測通りの爆弾のリモコンだね」
「馬鹿、ここは、相手に脅迫させるのが筋だろうが」
風太の言葉にハイジャックのリーダーの顔が強張る。
「貴様ら、どうしてこれが爆弾のリモコンだと解るんだ?」
「さっき、自分で爆弾だって言っただろう?」
「それと指一本に掛かってるっても言ってたしね」
風太と良美の説明に戸惑いながらもハイジャックのリーダーが脅迫する。
「まあいい、解ってるんだったら、大人しくしていろ。このボタンを押せば貨物に紛れ込ませた爆弾が爆発するぞ」
その時、較が入ってくる。
「爆弾の解体は、終ったよ。はい、信管」
投げ渡された信管を受け取って風太が言う。
「だそうだが、お前は、信じるか?」
「じょ、冗談は、よせ!」
信じられないって表情をするハイジャックのリーダーを他所に良美が興味津々の様子で尋ねる。
「どんな爆弾だった? ほら漫画とかである様に色付きのコードを切るなんて事をしたの?」
手を横に振る較。
「ああいうのは、解体を想定される奴だから。今回のは、見つけられないことが前提の破壊力重視の爆薬の塊で、リモコンと繋がってる信管を抜いたからもう爆発しないよ」
ハイジャックのリーダーがリモコンのスイッチを凝視する。
「えい!」
良美がハイジャックのリーダーの指を押してスイッチを押させる。
「「「「わー!」」」」
ハイジャックのリーダー、スッチー、パイロット、コパイロットが叫ぶが何も起こらない。
「これで一件落着だな」
風太が縛り上げたハイジャックのリーダーを連れて他のハイジャック犯と一まとめにし、スッチーと協力してくれるそこそこ腕に自信がある乗客に引き渡すのであった。
席に戻ろうとする風太が背伸びをする。
「ヤヤが関わってる割には、普通に終ったな」
較が視線を逸らす。
「何があった?」
「爆薬のすぐ隣に、何体かの寄生型の妖怪の類が封印されていて、どうみても数対が解放されていたの。もしかしして今回の本命ってハイジャックじゃないかも」
較の説明に風太が頭を抱える。
「無関係じゃないよな?」
較が頷く。
「十中八九、寄生した人間の不信な行動をハイジャックのトラウマって誤魔化す隠れ蓑にする予定だと思うよ」
「さっきの奴等から情報は、引き出せないの?」
良美の言葉に較が眉を寄せる。
「あちきの勘だとただ利用されただけ。だって、あの人達自身には、なんら寄生に対する対策が行われていなかったからね」
大きなため息を吐く風太。
「甘かった。ヤヤが絡んでいて普通のハイジャックで終る訳が無かった」
こうしてまだまだこのトラブルは、続くのであった。




