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沈む船から逃げ出すネズミ

ヤヤに似た大人びた女性の正体は?

「智代、おそーい!」

 待ち合わせに遅刻してきた智代に文句を言う良美。

「ごめんごめん! ちょっと面白い人に見つけちゃって、その人を見てたら時間過ぎちゃったの」

 手を合わせて謝る智代に較が呆れ顔をする。

「もう、時間ギリギリ行動をしているからそうなるんだよ」

「解ってるって。でも、今回に関しては、時間ギリギリだからその人を見つけられたと思うけどね」

 満足気に言う智代に良美が興味が引かれる。

「そこまで言わせるなんてどんなの? もしかして手が四本あったり、髪が七色に変化したりするとか?」

「そういう面白いじゃないよ。因みにそれって人間?」

 智代が突っ込む。

「そうだったよね?」

 良美に聞かれて較が小さく頷く。

「遺伝子学的には、あちきよりよっぽど人間だよ。それより、問題は、そういうのじゃないってどういうの?」

 智代が較を指差す。

「ずばり、ヤヤを清楚な大人にした様なお姉さんを見つけたのよ!」

「おおそれは、確かに面白い! 何処で見たの? 今から探しに行こう!」

 俄然興味が湧いた良美が智代の案内で歩き出す。

「映画が始まるよ?」

 駄目元での較の問いに良美が笑顔で答える。

「映画なんて次の回があるよ。それより、ヤヤに似たお姉さんって言うのは、絶対に見逃せない」

「あちきだって似た人間の一人や二人居ると思うけどな」

 そうボヤキながらも後を追う較。



 暫く歩いた所で智代が人ごみを指差す。

「ほら、あれよ!」

「どれどれ!」

 楽しそうに問題の人物を探す良美に興味なさげに探す較。

 しかし、先に反応したのは、較だった。

「嘘……」

 較が困惑する中、良美が目的の女性を見つける。

「おお確かに較に似ているな!」

 良美の視線の先には、どうしても童顔が抜け切れない較と全体的な雰囲気が似ているのに大人びた雰囲気をもった女性が居た。

「そうでしょ! 似ているけど、ヤヤが大きくなってもああは、成らないよね」

「言えてる!」

 笑いあう智代と良美。

「あちきに似てると言うのは、あまり正確じゃない。どちらかと言うとあちきがあっちに似ているって表現の方が正しいかも?」

 較の言葉に智代が首を傾げる。

「それって違うの?」

「もしかして知り合い?」

 良美の言葉に較が眉間に皺を寄せた顔で答える。

「違う。でも、若い頃のあちきのお母さんに瓜二つなんだよ」

「へー、ヤヤのお母さんってあんな感じだったんだ?」

 智代が普通に聞く中、良美は、較の尋常ならざる雰囲気に気付く。

「ただ似ているって訳じゃないみたいだね?」

 較は、暫く躊躇した後に頷く。

「もしかしたら知り合いかもって気を飛ばして確認したから解るんだけど、あの気は、お母さんと同一だよ」

「えーと、ヤヤのお母さんって亡くなったんだよね?」

 智代が慎重に聞く中、較の周囲の人間がざわめき出す。

「間違いなく。そんで、お母さん側の親戚にあの年頃の女性は、居ない。偶然の一致なんてあちきは、信じない」

 較の声が普段のそれとは、異なっていた。

「お母さん!」

「なにか怖い」

「寒くないのに震えが止まらない」

 泣き出す子供、怯える女性、震える大人達。

 良美が較の頭にチョップを入れる。

「コラ、何を殺気を撒き散らしてるの!」

 チョップを入れられたところを擦りながら較が苦笑する。

「ありがとう。でも、実際問題単なる他人の空似ってレベルじゃない。ちょっと調べさせた方が良いかも」

 較が携帯を取り出し連絡を取ろうとした時、その前で車が止まり黒服の連中が降りてくると問題の女性に近づく。

「なんか事体が急変してきたけどどうする?」

 良美の問い掛けに較が携帯をしまって言う。

「ここで邪魔されるのは、嫌だから排除しておきますよ」

 そんなやりとりを知らない黒服達は、女性に囲い込み告げる。

「大人しく組織に戻るんだ」

「駄目だ! 彼女をこれ以上あんたらの好きには、させない!」

 女性に隣を歩いていた眼鏡をかけたどちらかと言うと頭脳労働タイプの男性が間違いなく筋肉労働タイプの黒服達の前に出る。

「裏切り者め、お前は、殺して良いと言われている」

 軍人が持ってそうなナイフを取り出す黒服の一人。

 ナイフの輝きに眼鏡の男性は、足を震わせるがそれでも引かなかった。

「死ね!」

 突き出されるナイフに眼鏡の男性が目を瞑ってしまう。

 その瞬間、問題の女性が前に出て、黒服の男のナイフを持つ手を掴むと引っ張り、体勢を崩して投げた。

「逃げましょう!」

「うん!」

 眼鏡の男性と問題の女性が黒服を突っ切り、駆け出す。

「逃がすと思っているのか!」

 投げられた黒服が立ち上がって怒鳴った。

「事情の説明する気ある? あるんだったら危害は、加えられなくても良いかもよ?」

 黒服達の後ろに立つ較の言葉に黒服達は、ふりかえり一斉に怯えた。

「ホワイトハンドオブフィニッシュ! 白風の次期長が何でここに?」

 較はにこやかに微笑む。

「あちきの事を知っているんだ。やっぱりあの女性があちきのお母さんに似てるのには、訳ありだね?」

 沈黙する黒服達に較が苦笑する。

「しゃべらないんだったらそれでも良いんだよ。事情は、あっちに聞くから」

 較の一方的な暴力が撒き散らされる。



 逃げた問題の女性達だったが、暫く走った所で眼鏡の男性が息切れを起こす。

「早くして、あいつらからそうそう簡単に逃げ切れる訳が無いから」

 問題の女性の言葉に眼鏡の男性が頷く。

「解ったよ。それにしても僕達の居場所がこんなに早く見つけられるなんて?」

 問題の女性が苦虫を噛み潰した顔になる。

「私には、発信機が仕込まれているのよ。私と一緒に居る限り、いつかは、追い詰められるわ」

 眼鏡の男性が苦笑する。

「だからって君から離れる事は、出来ない。そんな事が出来るくらいなら君を連れて逃げたりしないよ」

 顔を赤くする問題の女性。

「おー、何処かのドラマみたい!」

 感嘆する智代の声は、二人の後ろから聞こえた。

「そうだね。でも先に息切れするなんて男としては、失格だよ」

 厳しい突込みをする良美の声は、前から聞こえた。

「貴女達も組織の人間?」

 問題の女性が隠し持っていた小型ナイフを構えながら問い掛けてくる。

 しかし、隣の眼鏡の男性が良美を見て驚く。

「資料で見た。その子、常に白風の次期長の傍に居る少女、ウエイトオブアースだ!」

 その名前に問題の女性も反応する。

「それじゃまさか白風の次期長も傍に?」

「そういうこと。因みに黒服連中は、半殺しにしてうちの奴らに回収させてるから来ないよ」

 較が智代の後ろからゆっくりと歩み寄る。

 脂汗を垂らす問題の女性と眼鏡の男性。

 緊張を打ち破ったのは、眼鏡の男性だった。

「……取引をしませんか?」

 較が眼鏡の男性を見る。

 全身を恐怖に全身を震わせ、それでも問題の女性を背に庇い、怯える瞳の奥に熱い想いの炎を燃やした男性に較が答える。

「安心して、あちきは、噂みたいに同じ空気を触れただけで相手を終らせる事は、しない。事情次第じゃ協力もするよ」

 眼鏡の男性が寿命を削る思いで告げる。

「彼女には、何の罪は、ありません。罪があるとしたら、彼女を生み出した僕が所属した組織、『ブラッドムーン』です」

「生み出したって、どういう事?」

 智代が首を傾げると較が問題の女性を凝視して言う。

「やっぱり、その人は、お母さんの遺伝子から作ったクローンって事だね?」

 良美と智代が驚く中、眼鏡の男性が頷く。

「その通りです。『ブラッドムーン』は、闇の世界で一番の力、八刃れも白風の長の奥さんのクローンを使った暗殺を企んでいました。彼女は、その為に生み出され、急速成長させられてから戦闘訓練を受けさせられただけで何の悪い事もしていません!」

 その一言に較が頭を抱える。

「その組織、破滅願望あり過ぎだよ。そんな馬鹿な事をしたらお父さんの最大の逆鱗に触れる事になるってどうして解らないかな?」

「えーと、あの親馬鹿って怒らすと怖いの?」

 親馬鹿なところしか見てない良美の言葉に較がげんなりした顔になる。

「考えたくも無いよ。それより、あんたもその組織の人間みたいだけど、まさかと思うけど教育係だったのがその子を好きになって悪事に利用させる事が出来ないって逃げ出したの?」

 眼鏡の男性が慌てる。

「好きだなんてとんでもない! ただ、彼女は、生まれこそ普通では、ありませんが幸せになるべき人間だと思ったんです!」

 最後の台詞には、真摯な想いが籠められていた。

 較は、複雑な思いで問題の女性を見た。

「そうだろうね、お母さんもうちのお父さんと会わなければ、きっと普通に幸せな人生を送れたと思う。まあ、クローン技術の問題等を調べる必要もあるけど、まず最初にやらないといけないのは」

 較は、髪を抜くと投げた。

『ベルゼブブ!』

 影に隠れていた、八刃の一家、谷走の人間で、較が居ない時の護衛をやっている右鏡ウキョウが出てくる。

「白風の次期長! いきなり何をするんですか!」

 較は、睨みつけて言う。

「ここでの事は、他言無用。喋ったら、それ相応の対応をとらせてもらうよ」

 右鏡が問題の女性を見る。

「やっぱりそれだけやばいんですか?」

 較が深く頷く。

「この事実がお父さんの耳に入ったら、あちきが起こすトラブルなんて比べ物にならない大騒動になるよ」

 右鏡が顔を引きつらせながら何度も顔を縦に振る。

「絶対に他言しません」

 較が携帯を取り出しながら言う。

「とにかく、安全な場所に隠れないとね。ちょっと待ってて」

 電話を掛ける較。

「希代子さん? ヤヤです。かなり厄介な問題が……」

 較が事情を説明している途中で電話相手の希代子が割り込む。

『そこまでで良いわ。これ以上の会話も危険よ。近くに私の隠れ家があるからそこにその女性を連れて隠れてなさい』

「了解しました。すいませんがよろしくお願いします」

 較は、見えないだろうに頭を下げてから電話切る。

「そういう事で、希代子さんの隠れ家に身を隠すことになったから」

 較の言葉に眼鏡の男性が戸惑う。

「助けてくれるのですか?」

 較が眉を寄せる。

「あちき自身の心情からすると、ここで二人とも殺しても良いんだけど、そんな事をしても誰も得しないしね。第一、ヨシに嫌われる」

「当たり前でしょ」

 睨む良美にを見て眼鏡の男性が驚く。

「あの白風の次期長にあんな横柄な態度。やっぱり噂どおりの人だ」

「因みにどんな噂」

 興味半分で智代が尋ねると眼鏡の男性は、顔を強張らせる。

「えーとそれは……」

「私の聞いた話では、どんな男より肝が据わった漢だと」

 問題の女性の言葉に良美が怒鳴る。

「あたしは、女だ!」

 そんな会話を聞き流しながら較が祈る。

「どうかこの事がお父さんの耳に入らないように」

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