ベストマン
無限の進化能力を持つベストマンに勝てるのか?
「一つ聞いて良い?」
それを見た較の言葉にアドルが頷く。
「どうして、貴女が進化促進装置の中に入っているの?」
較の問いにアドルが答える。
『簡単ですよ。私こそがベストマンに成るに相応しい人間だからです』
良美がアドルが入った進化促進装置を叩く。
「詰り、あたし達を利用したって事!」
『ええ、ベストマンを産み出すのにどうしても最強の人類、白風較のデータが必要だった。その為にお芝居をしました』
アドルの答えに良美が睨むが較は、無表情になる。
「考えてみれば、おかしな点は、いくつもあった。貴女自身が言っていた様にあちきとヨシの居場所なんて少し調べれば解るのに、逃亡先に選ぶのも不自然。グッドマンが行動を起こしたのも貴女を見てから。多分、指示を出していたのは、貴女なんじゃないの?」
アドルが笑みを浮かべる。
『そう、シュバイツ博士を亡命させたのも留学中に接触した私。全ては、私の家に受け継がれたVクリスタルによるV計画を再開させる為』
較が舌打ちする。
「ナチスの亡霊がこんな所にも居たって所だね」
それを聞いてアドルが鼻で笑う。
『ナチスの亡霊? 私は、そんな者では、無いわ。私は、偉大なるアドルフ=ヒットラーの後継者。ドイツ、ゲルマン民族による人類統一を成す選ばれた人間なのよ』
呆れ顔になる較。
「はいはい。それで、この状態でどうするつもり? あちきがその気になればベストマンって言うのに成る前に殺せるよ」
『進化促進装置を破壊すれば可能ね。でもそうしたら、他の人間も皆死ぬわ。それが貴女達に出来るの?』
アドルの脅迫に良美が怒鳴る。
「そうしなくても殺すつもりじゃないの!」
『とんでもない。彼等には、先程の失敗作とは、比べ物にならない力を秘めたベターマンとして私の手足になってもらうつもりですので、殺しは、しません』
アドルの計画に較が良美の手を引く。
「ヤヤ、諦めるの!」
較は、アドルに背を向けて言う。
「隣で待っているよ。貴女が言うベストマン、その力を否定してあげる」
『それは、願っても無い事。ベストマンこそ真の意味で最強だと言う事を証明できるのだから』
喜ぶアドルを残して較と良美が先程までベターマンと戦っていた部屋に戻っていく。
数時間後、較達の前にアドルが元の姿のまま現れた。
「進化に失敗した?」
良美の嫌味にアドルが肩をすくめる。
「真に進化したベストマンは、その姿を変える事は、無いのです。地上最強の攻撃力をもつと言われるホワイトハンドオブフィニッシュがその様にね」
較は、前に出る。
「御託は、良いよ。さっさと始めましょう」
アドルが頷くと残像すら残さないスピードで較の前に現れた。
「貴方達には、感謝しているわ」
言葉と共に手刀を振り下ろすアドル。
較は、半身になってかわしながら返答する。
「そう。こっちは、これ以上ない位怒ってるけどね。『オーディーンカタナ』」
居合いの様に高速で放たれた手刀は、あっさりアドルの体を切り裂く。
しかし、傷は、あっさりと回復する。
「今の攻撃も記憶させて貰ったわ」
アドルも高速の手刀を放つ。
較は、胸を少し切り裂かれ、血を噴出す。
「浅かったわ。流石に、直ぐには、使えこなせないわね」
アドルの余裕たっぷりの態度に良美が怒鳴る。
「ヤヤ、手加減してやる必要ない。おもいっきりやってやれ!」
較が腕を掴む。
『コカトリス』
衝撃波が体を襲うが、アドルは、平然としていた。
「その攻撃も知っているわ。そして受け流す方法もね」
『フェニックスウイング』
両手を振り上げ炎の翼を生み出す較。
しかし、その炎を食らっても火傷をしてもすぐさま回復するアドル。
「無駄よ。どんなダメージも直ぐに適応、回復する。それがベストマンよ」
較は、間合いをあける。
「回復力が高い相手くらい、何度も倒してきたんだから大丈夫だよね?」
良美の問い掛けに較が面倒そうな顔をする。
「ただ、回復力が高いんじゃない。物凄いスピードで適応している。中途半端な攻撃をしても致命傷にならない」
「だったらホワイトファングだったら、一発じゃん」
良美の言葉に較が首を横に振る。
「どこにも撃つ方向が無い。周りは、市街で、上には、無関係な人達。下に向って撃ったら最後、地球がなくなるかもしれないよ。全部計算の上だったんだよ」
「ご名答。地上の警備に軍を使わなかったのは、そういう訳よ」
アドルが楽しげに説明する中、較は、躊躇していた。
正直の話、ゼウスやアポロンクラスの撃術連発なら倒せる可能性があると踏んでいたが、それを凌がれた後が更に面倒になるのが予測できたからだ。
「回復量を上回る大技を使うのを躊躇っているのね? でも、それ以外に勝つ手段があるのかしら?」
アドルの挑発に較は、敢えて乗ることにした。
『ゼウス』
電撃を纏った拳がアドルを吹き飛ばす。
アドルもこれには、全身が焼け焦げ、電撃のダメージで動きがぎこちなくなる。
『アポロン』
交差した手を中心とした超高熱がアドルを襲う。
黒焦げ状態のアドルに手を向ける較。
『ハーデス』
超重力がアドルの体を捻じ曲げながら引き付け、それを床に叩きつける較。
『タイタンパンチ』
強烈な衝撃波がアドルを粉砕した。
「やったー!」
歓喜の声をあげる良美だったが、較が否定する。
「やり切れてない。復活する」
油断無く構える較の後ろにアドルは、元の姿を取り戻す。
「凄いパワー。これが欲しかったのよ」
アドルの手から雷撃が放たれ較を吹き飛ばす。
「ヤヤ!」
駆け寄る良美に較が立ち上がり制止する。
「大丈夫。今ので勝ちが見えたから安心して」
「どういう事?」
不安そうな顔をする良美に較が笑みを浮かべる。
「あちきを信じて」
良美も笑顔で返す。
「ヤヤを信じる」
そんな二人のやり取りをみてアドルが呆れた顔をする。
「なんて根拠が無いやりとり。だいたい、今ので解ったのは、貴女の力では、私を倒す事が出来ないって事実ですよ」
較が無造作に近づき言う。
「そう? あちきには、どうしようもない弱点を見つけたと思うよ」
「ベストマンにそんな物は、無い!」
超重力を放ち、較を引き寄せようとするアドルに較が告げる。
「適応の不一致。ほら、自分の腕を見てみなよ」
アドルが拉げている自分の手を見て戸惑う。
「馬鹿な、どういうこと?」
超重力に耐えながら較が解説する。
「さっきのゼウスモドキを放った時に匂ったんだよ、手が焼ける匂いが。技の威力をコピー出来ていても、技を放つ体への適応がまにあっていない為に、攻撃の為に体がダメージを受ける。そして、攻撃を終えればダメージが回復するが、攻撃をしている間は、攻撃を優先してダメージが回復がされない」
アドルがハーデスモドキを止めると腕が戻っていく。
『ヤマタノオロチ』
八方からの連続攻撃、全身にダメージを受けるアドルに渾身の一撃を放つ較。
『アメノムラクモ』
体の中心を打ち抜かれるが、傷は、直ぐに回復するアドル。
「今のを真似できる?」
較の微笑みにアドルが戸惑っている間に次の攻撃が始まる。
『タイタンキック』
床を蹴り、その破片をアドルに命中させる。
「これは、どう?」
更に問い掛ける較にアドルが叫ぶ。
「そのくらい!」
床を蹴りつけ、較と同じ様に破片を飛ばすが、床を蹴った足が折れて、床に倒れるアドル。
「何故よ! 何故適応されないの!」
較がゆっくりと近づいて言う。
「適応は、されている。さっきのハーデスモドキの適応で技を放つ時に体を硬質化した。でもね、タイタンキックの時は、逆に衝撃を受け流す柔軟性が必要なんだよ。ハーデスモドキに適応した所為で、タイタンキックの技使用の体の適応状態がマイナスになってしまっているだけ。多分、次に技を放てば、柔軟性が適応されている筈だよ」
アドルが冷や汗をかくのを見て較が答える。
「解ったでしょ。どんなに技自体をコピーして、技を再現出来た所で、その本質を知らない限り、使いこなすことなんて出来ない。今の貴女は、自分自身にダメージがくるかもしれない技を使いかねない危険な状態なんだよ」
アドルが叫ぶ。
「それでも相手の攻撃に対する適応と回復能力は、完璧よ」
較が頷く。
「それが、貴女に敗北を与える」
較がアドルに触れた。
『タマテバコ』
何も変化が起きない事にアドルは、逆に戸惑う。
「何をしたの?」
「時間経過を加速した。生物である限り時間の経過と共にエネルギー消費される。当然、この攻撃に貴女の体は、適応するんだよ」
較が説明している間にもアドルの体がどんどん石のように変化していく。
「嘘! 何が起こっているの!」
悲鳴を上げるアドルに較が答えた。
「エネルギー消費を抑える為の進化を始めたんだよ。石の様に動かなければエネルギー消費が抑えられる」
「冗談じゃないわ。そんなのは、進化じゃない!」
アドルの感情的に叫ぶが較が淡々と言う。
「動物である筈の珊瑚が動かなくなったのと同じ様にそれも進化。さっきまでの攻撃の使用の適応と違って、これでマイナスになる防御は、皆無。動けるように進化する必要性は、最強の人類になった貴女には、存在しない」
「嫌よ、嫌よ、嫌よ! 動けないまま生きるなんて絶対に嫌!」
アドルが泣き叫ぶが石化は、全身に及び、本当の石像の様になってしまった。
数日後のドイツの空港で、較が進化促進装置から被験者を助ける為に呼んだ八刃スタッフからの報告を思い出す。
「Vクリスタルは、もっと一般的な名前があるんだけど解る?」
良美が眉を顰める。
「そんなの解るわけないじゃん」
較は、売店で買ったりんごを投げる。
「アダムの林檎。始まりの人間、アダムが食べた知恵の実。進化を促す力を持つと言われる禁断の果実。過剰な進化は、人間以外の別の者へと変化させる。自己弁護って訳じゃないけど、あちきがああしなくても遅かれ早かれ、ああ成る可能性が高かったらしい」
りんごを受け取った良美が複雑な顔をする。
「進化が悪いことだって事?」
較が首を横に振る。
「進化は、自分達の力で一歩ずつしなければいけないんだと思う。神器なんかに頼って楽に進化しようとすれば、アドルみたいに望まない進化をする事になるだよ」
良美も頷く。
「そうだよね。よし、あたしも頑張って自分を鍛えて進化するぞ!」
そう切り替えられる良美を見て較が微笑むのであった。




