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ベターマン

強力な戦闘力を持つベターマンとの対決

「私は、何故祖国に戻ってきてしまったのでしょうか?」(ドイツ語)

 ドイツの空港でアドルが祖国の空を見ながら呟く。

「本当だよ。どうしてついてきたの? 問題の研究所を潰すのは、あちき達だけで十分なのに」

 較の指摘に沈痛な表情でアドルが告げる。

「研究所全部がベストマン計画に関わっている訳では、ありません。中には、先進医療にも関わる研究をしている所もあります。出来るだけ被害を少なくする為に仕方なかったのです」

「ヤヤって破壊魔って思われてるね」

 良美の無責任な一言をアドルが訂正する。

「白風較と大門良美の所在地は、少しでも裏に関わる人間なら調べれば直ぐに解る様になっています。それだけ危険視されているんです」

 少しきつめの言い方に較が以前見せられたネット上での自分達の移動予測とされる台風情報みたいなサイトを思い出す。

「本気で災害扱いされてる」

「それだけの被災者が多いって事じゃないんですか?」

 アドルの突っ込みに良美が反論する。

「被災者も多いかもしれないけど、助けた人間だって多いんだぞ」

「まあ、私も助けられた一人になるんですかね?」

 疑問系のアドルの言葉に較が告げる。

「出来るだけ被害を出さない様に気をつけるよ」

「そうしてください」

 アドルが釘をさして、移動を開始するのであった。



 研究所が見える喫茶店。

「意外と街中にあるんだね?」

 良美の疑問にアドルが頷く。

「はい。広範囲の研究を行っているので、どうしても郊外にという訳には、行かなかったそうです。危険な研究は、地下でやっています」

「すると、あちき達が行くのは地下って事か。地下だと、破壊しすぎると建物そのものが倒壊するかも」

 不安を呟く較をアドルが睨む。

「倒壊させないで下さい」

「前向きに検討させてもらいます」

 玉虫色の回答をする較に不安を感じながらアドルが説明を開始する。

「改めて説明しますがベストマン計画は、人間を進化の限界まで推し進め、最高の能力を持たそうとした物です。地下施設には、その進化を促進する装置があります」

「そこで疑問なんだけど、アドルが持っているVクリスタルってどんな役割を持っているの?」

 良美の疑問にアドルが答える。

「進化促進装置の性能を飛躍的に向上させる触媒なのです。これが無ければとてもベストマンを生み出す事は、出来ません」

「進化を促進させる装置か。まあ、それは、理解したけど。問題が一つ。そのVクリスタルの出所。こっちで調べたけど、それって神話時代まで遡れる神器の類だよ」

 較の指摘にアドルが神妙な面持ちになる。

「V計画というのをしていますか?」

「ガンダムの話?」

 良美のボケを較が訂正する。

「確か第二次世界大戦時にドイツ軍がたてていた戦況を一変させる程の新兵器の開発計画じゃなかったっけ」

 アドルが頷く。

「正確に言えば、多少は、違うのですが、その様な物だと思ってください。V計画は、一部で成功例があるものの大半が失敗でした。Vクリスタルは、そんな失敗作の中にあったものです」

 較が納得する。

「悪名高かったドイツ軍が非常識な真似をして手に入れた神器って訳だ。下手したらどっかの民族を皆殺しにして奪ったものかもね」

 嫌そうな顔をするアドル。

「そうかもしれませんが、詳しい履歴は、戦後のゴタゴタで失われています。このVクリスタルがあるからこそ、ドイツ軍は、ベストマン計画に協力していると言っても過言では、ありません」

「過去の軍が開発に関わっていた計画の復活ってイメージだね」

 較の確認にアドルが強く頷く。

「過去の悪夢を繰り返す訳には、いかないのです」

「了解。必ずその進化促進装置を破壊してからアドルを亡命させ、計画を白日の下に晒して、終止符を打たせるよ」

 較の言葉にアドルが頭を下げる。

「よろしくお願いします」



 そして深夜、較達は、研究所に侵入した。

「通常警備は、普通の人達だったね」

 較の問い掛けにアドルが告げる。

「地上部の警備は、一般の警備会社の人がやっています。しかし、地下部には、軍や研究成果による警備が張り巡らされている筈です」

「今更軍隊が来ても平気だよ」

 良美が平然と言うのを聞いてアドルがため息を吐く。

「軍隊と平然と戦うって言う人達を連れてきて本当に良かったのかしら?」

「出来るだけ被害を出さないように約束するよ」

 較が視線を合わせずに告げた時、警備の軍人に発見される。

「侵入者発見、排除する」(ドイツ語)

 通信機で報告し、すぐさま射撃を開始する軍人。

 較は、二人を抱えて曲がり角まで逃げた。

「いきなり撃つとは、物騒な奴ら」

 良美の指摘に較が頷く。

「大抵は、一応は、警告してくるもんだけどね。まあ、返答する前に射撃を始める軍人も多いけど」

 慣れた様子の二人と違い慌てるアドル。

「どうするのですか?」

 較が不思議そうな顔をする。

「どうするって、排除するよ。『ヘルコンドル』」

 手を振って、カマイタチを生み出して、死角に居る軍人を撃退する較。

「どんどん進みますか!」

 良美が呑気に答える中、アドルが銃撃で穴だらけの壁を見て言う。

「さっきの言葉ですけど守っているつもりありますか?」

 較があさっての方向を向く。

「相手の攻撃までは、どうしようも無いと思うんだ」

 アドルが祈る。

「神よ、どうか大いなる慈悲で罪無き者を救いたまえ」

 較は、敢えて無視して先に進む。



 何回かの軍人の襲撃を撃退して較達が進むと、体育館の様な広いスペースに出た。

「ここで能力テストを行っています。進化促進装置は、この先にあります」

 アドルの案内に進もうとした良美を較が止める。

「ボスキャラ登場だよ」

 奥の扉が開き、異常色彩の男性が三人現れる。

「そんな感じだね」

 良美も納得する中、アドルが後退する。

「ベターマン。調整も完了したと言うの?」

「ベターマンって、中途半端な名前だけど強いの?」

 良美の失礼な言葉にアドルが怯える。

「ベストマンが完成していない現在、最強の人類。汎用的な強化をしたグッドマンとは、異なり。各能力に特化させた恐るべき兵器です」

 アドルが言い終わる前にベターマンの一体、青い奴がその体をイルカの様に変化させて突進してくる。

 紙一重で攻撃をかわした筈の較の二の腕が僅かに斬られていた。

「ウォーターカッターって奴だね」

 較が一気にギアを上げる中、青いベターマンがその指先に生み出して居た圧縮した水の刃を撃ち出す。

 較は、姿勢を低くして避けると一気に間合いを詰めに入るが、青いベターマンは、逆に大きく離れた。

 そこに赤いベターマンが竜の様になりその口から炎を噴出す。

「水の次は、炎って訳だね。『カーバンクル』」

 較は、撃術で炎を散らし、接近すると最後の黒いベターマンが甲羅を前後に持つ亀の様に変化して行く手を阻む。

『バハムートブレス』

 較の気が篭った掌打を喰らっても黒いベターマンは、微動だにしない。

 それどころか較を押さえ込みに入った。

 較は、後退する。

「スピード特化の青い奴に、火力特化の赤い奴、最後は、防御特化の黒い奴。組まれると面倒だね」

「ブルーベターマン、レッドベターマン、ブラックベターマンって呼ぼうよ」

 呑気な事を言う良美に較が苦笑する。

「はいはい。そうしますか。それじゃ、この連携の要、ブルーベターマンから何とかしますか!」

 較は、高速で接近してきたブルーベターマンを正面から迎え撃つ。

『オーディーン』

 胸に一撃を食らいながらも較がブルーベターマンの足を大きくを斬った。

 動きが止まったブルーベターマンを庇う様にレッドベターマンの炎が襲ってくる。

 較が間合いを空けている間にブルーベターマンは、傷を回復させてしまう。

「治癒能力は、グッドマン以上。中途半端なダメージじゃ意味無いね」

 ブラックベターマンが完全回復を待つブルーベターマンの前に立つのを見て較が眉を顰める。

「随分と仲間思いだね?」

 その時、スピーカーから男の声が聞こえてくる。

『当然だ。その三体は、実の兄弟だからな。病気の母親の治療費の為に実験体として志願した。正に日本人好みの浪花節だよ』

「シュバイツ博士!」

 アドルの驚く声に良美が舌打ちする。

「するとこの声が諸悪の根源だって事だね」

『諸悪の根源? 私は、生物学者として人間の進化の限界を探っているに過ぎない。軍がそれをどう使おうが、私の責任では、無い。ナイフが日常生活にも使えるが、人を傷つけるにも使えるのと同じ事だな』

 雄弁なシュバイツ博士にアドルが必死の声で訴える。

「シュバイツ博士。この研究は、軍に等に悪用させては、いけないのです。どうか目を覚まして下さい!」

『アドル君。君には、期待していたのに残念だよ。我が最高傑作のベターマン、そこの人外を殺し、Vクリスタルを奪還しろ!』

 シュバイツ博士の命令に従い、レッドベターマンが、今までの中で最強の炎を吐き出す。

『カーバンクルミラー』

 炎を弾き返す為に動きが止まった較にブラックベターマンがタックルをかける。

 較が跳び避けた時、ブルーベターマンが刀剣の様にした水の刃で斬りかかった。

『イカロスキック』

 較は、空中で方向転換する。

「いい連携だったけど、常識に囚われ過ぎ。あんたは、空中で方向転換できる?」(ドイツ語)

 ブルーベターマンが身を捩るがそれが限界だった。

『オーディーン』

 較の手刀でブルーベターマンが袈裟切りにされる。

 床に叩きつけられたブルーベターマンをブラックベターマンが庇う。

「どんなに強固の防御も至近距離なら無効化出来る」(ドイツ語)

『バジリスク』

 両手を当て、超振動で内部からブラックベターマンに甚大なダメージを与える較。

 そんな較に残ったレッドベターマンが全身に炎を纏ってタックルしてくる。

「慣れない接近戦の技が通じると思わないで」(ドイツ語)

『インドラ』

 較の手から放たれた雷撃がレッドベターマンを感電させる。

『馬鹿な、三体のベターマンを単独で打ち破ると言うのか?』(英語)

 愕然とするシュバイツ博士を無視して較達は、進化促進装置がある部屋に入っていった。

 数十本の透明のケースがあり、その中では、異常進化をさせられている人間が入っていた。

「一度、装置を停止して、この人達を解放します。時間が掛かりますが、一度ここに入ってしまえば大丈夫です」

 アドルがそういって非常シャッターを閉じる。

「これで核ミサイルが落ちてきても平気です」

「ところで、さっきの博士って何処に居るの?」

 良美の質問にアドルが隣接した部屋を見る。

「あの部屋に居ると思います」

「あたしは、きっちり教育してやる必要があると思うんだけど?」

 良美の問い掛けに較が微笑む。

「何、当然の事を言っているの。アドルさん、あちき達は、ちょっとシュバイツ博士とお話をしてくるから、何かあったら呼んでね」

「あまり、酷いことは……」

 アドルの言葉を無視して較と良美は、シュバイツ博士が居る部屋に入っていった。



「浪花節が解るんだったら、日本人がこういう場合にどうするか解るよね?」

 良美が朗らかに尋ねるとシュバイツ博士が必死に言い訳をする。

「私は、悪くない。悪用しようとした軍がいけないのだ!」

 後退るシュバイツ博士に較がゆっくり近づく。

「ノーベルさんは、ダイナマイトが悪用された事を後悔してノーベル賞を作ったそうだけど、あんたは、そんな良心は、存在しそうもないね」

「この研究が完成すれば、人類は、更なる高みを迎えられる。これは、全人類の未来の為に必要な犠牲……」

 シュバイツ博士の顔面を掴み較が言う。

「他人の体を実験体にして、何が必要な犠牲だ! 『コカトリス』」

 手から放った衝撃波で全身の骨を打ち砕く較。

 床で泡を吹くシュバイツ博士に較が宣告する。

「これで楽になれると思わないでね。あんたが犠牲にした人間を元に戻す研究の実験材料として、死ぬまで奉仕してもらうからね」

 小さくため息を吐く較に良美が言う。

「さっきの人達、元に戻ると良いね」

 較が俯く。

「改造するより元に戻す方が何倍も難しいから可能性は、かなり低いよ。せめてあの人達の母親だけは、ちゃんと対応してあげないと」

 良美は、そんな較の背中を叩く。

「とにかく、これ以上被害が出なかった事をよしにしときましょう」

「そうだね。さて、あとどれくらい掛かるのかな?」

 較と良美は、そういってアドルの元に戻るのだが、そこでは、想定外の展開が待っていた。

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