表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~

【短編】「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~3

作者: こじまき
掲載日:2026/05/24

本作は『「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~』および『「もう遅い」のその前に~失わせ屋へようこそ~2』の続編です。

本作だけでも読んでいただけるとは思いますが、前作も読んでいただけると、世界観やティナの能力がよりわかりやすいかと思います。

過労死回避のため魔塔を退職し、祖母が遺した家で田舎暮らしを満喫していた、私こと魔導士ティナ。


「人は後悔して初めて、大切なものが見えるようになる」という気づきを得て、暇つぶしも兼ねて「失わせ屋」を始めた。


口で言ってもわからない人たちに、「大切なものを失って後悔する未来」を見せる仕事だ。


「免責事項は、これでよし」


「失わせ屋」をして気づいたのは、後悔を体験した人が、必ずしも変わるわけではないということ。


そして「変な幻覚を見せやがって」とか「恋人との仲を引き裂きやがって」とか、私が恨まれることもあるということ。


なので依頼時に「対象者と依頼人の間にいざこざが起きた場合、自分たちで解決します」と一筆書いてもらうことにしたのだ。


「商売っぽくなってきたなぁ」



がらんがらんと鈴が鳴る。


「いらっしゃい」

「ローウェンといいます。町はずれで剣術道場を開いています」


入ってきたのは背の高い男性だった。温和な口調だが、威圧感で店が狭く感じる。


「幻影というのは、子どもが見ても大丈夫なのでしょうか」

「まあ…幻影の内容によっては傷を残すかもしれませんけれど。悪い内容でも、まあ悪夢のようなものだと思ってもらえれば」


彼はふっと思案する。


「とりあえず椅子をどうぞ。子どもに未来を見せたいのですね?」

「ええ。素晴らしい才能をもつ弟子を預かったのですが、当の本人は自分の才能を過信して、いくら言ってもろくに練習しないのです」


なるほど。


私が魔法の師匠についていたときも、同門にそういうタイプがいたな。


「私の道場では基本動作の繰り返しを重視しているのですが、彼は『量より質だ』と反発して、話にならなくて」

「質をどうこう言えるのは、量をこなした人だけなのに」

「…!」


彼はぱあっと目を輝かせた。


「まさにそうなんです!!けれど言葉では伝わらず」


「周囲に一目置かれる彼が鍛錬を怠り続ければ、他の弟子たちにも悪い影響が及ぶ。このままだと道場を辞めてもらうしかないが、それは彼のためにもならないと思うので」と、その師範は説明した。


「わかりました」


免責事項にサインしてもらい、念のため彼の親にも同意してもらって、町はずれの道場まで歩く。


十二歳くらいだろうか、件の弟子と思われる少年は、他の弟子たちが師匠の留守中も懸命に素振りをしているのに、ひとり壁にもたれている。


「ルーク、素振りは終わったのか?」


彼はぺろりと舌を出す。


「素振りなんて、なんの意味があるんですか?僕はその気になったら、全部みんなより上手にできるんです。だから練習は効果があるものだけに絞って、本番で出し切れるように力は温存しておかないと」


才能を過信しているうえに、頭でっかちの子ども。


…疲れるタイプだな。


私はローウェンさんの後ろから顔を出し、ぴょいと術をかけた。


「その行く末を、味わいな」



僕はローウェン師匠の道場を、辞めさせられた。「やる気がないなら来るな。みんなの邪魔になってしまう」と。


「でも本当にやる気になったら、いつでも来なさい。待っているから」


戻るもんか。あんな古臭いやり方の道場に、戻るわけがない。


お母さんに頼んで別の師匠のところに行ったら、天国みたいだった。


「やっぱり習い事は楽しくなくちゃ、っていうのがうちのモットー!楽しくないと続かないからね」


とにかく「君は天才だ」って褒めてくれるし、「効率よく」「自分に必要なことだけ」っていう僕の考えも理解してくれる。


頑固なローウェン師匠とは全然違うんだ。


「ルークは一回言うとすぐ覚えちゃうからすごいねぇ。新しい構えもすぐできるようになるんだもの」


そう。だから素振りの繰り返しだなんて、天才である僕には必要ない。


そうやって楽しく練習を続けて、十五歳。


僕は騎士団の入団試験を迎えた。


ここから天才騎士の華々しい人生が始まるはず…


「不合格」

「え…」


信じられない。この僕が不合格だなんて。


「試験官様、どうしてですか!僕は誰より才能があるのに…!」

「才能だけで騎士をやっていけると思うな。基礎体力不足。剣を振ってきた量が少なすぎる。忍耐力もない」


唇を噛む僕の横で、ローウェン道場から来たテオが、「合格」と告げられて拳を突き上げる。


泥臭く素振りと体幹トレーニングとランニングばかりしていたテオが…


「ルーク、残念だったね。でもまた来年頑張ればいいさ」


テオに慰められて、顔が熱くなってくる。


悔しい。こんなはずじゃなかったのに。


師匠に泣きついたら、「大丈夫大丈夫」と、笑顔で励まされた。


何とか立ち直って次の年も挑戦してみたけど、また不合格だった。


ローウェン道場からは、僕よりひとつ年下の合格者が三人も出たのに。


みんな、僕よりずっとずっと下手で、才能なんてなかったはずなのに…


二年連続で不合格になった僕に、師匠は言った。


「ルーク、ちょっと言いにくいんだけど…別の道も考えてみたら?騎士団の試験は、十六歳で合格できないとちょっと厳しいから…」

「わかってます」


そうして僕は、道場を辞めた。


あっけなかった。


「…ルーク?」


とぼとぼと歩いていると、前の師匠に出くわしてしまった。両手にいっぱいの食べ物や飲み物を抱えている。


「みんなと合格の祝賀会をするのだ」と気づいた。


「ルーク、聞いたよ。今回は残念だったそうだな」

「…はい」

「騎士を目指すなら、もう一度うちに来ないか。ルークなら、きっと今からでも間に合う」


僕は唇を噛んだ。


今からじゃ遅い。十七歳で試験を受けて合格する人は、ほんの一握りだ。


それに合格できたところで二浪だなんて…格下だったテオより二年も後輩になるなんて、まっぴらだ。僕はテオに顎で使われるような人間じゃない。


自分がテオたちより劣ってるだなんて、認めたくない。


だったら、もう剣術なんてやらない。騎士にもならない。


「他の夢を見つけたので、騎士にはなりません。もう、なりたくないので」

「…そうか」


そう嘘をついてからの人生は、まるで坂道を転げ落ちるようだった。


田舎を出て「騎士団の最終試験まで残ったんだ」という小さな自慢だけを肴に、適当な地方都市の酒場でくだをまく日々。


たまに遠征に来た騎士団の連中が店に顔を出すと、慌てて壁を向く。あのなかにテオやローウェン道場の弟子がいたらと思うと、恥ずかしくて泣きそうだから。


生活のために道場を開いてみたものの、「子どもを通わせたけど全然上達しない」という評判を立てられ、あっけなく潰れた。


ぼんやりと自分の手のひらを見つめると、まともに素振りもしてこなかった手には、マメひとつない。


…あの人の手は、潰れたマメだらけだった。


きっと、テオや他の道場生の手も、そうだったんだろう。


《ルーク、口うるさいと思われてるのはわかってる。だけど俺は、お前に後悔してほしくないんだよ》


《お前には、羨ましいほどの才能がある。だからこそ誰よりも基礎が大事なんだ。盤石な基礎の上にこそ、華々しい才能が咲くんだから》


「ほら、練習するぞ」と何度も何度も僕の背中を押してくれた、大きな手。


《またやる気になったら、いつでも来なさい。待っているから》


《もう一度うちに来ないか。ルークなら、きっと今からでも間に合う》


何度も差し出されたその手をとらなかったのは、自分なんだ。


そして自分に手を差し出してくれる人は、もういない。


叱りながらでも手を差し伸べてくれる人がいることが、どれほどありがたかったか…


「ローウェン師匠、ごめんなさい…会いたい…」



現実に戻ってきて、ルークは顔を上げる。


そして自分の手を見た。まだマメのひとつもない、幼くて柔らかい手を。


「ゆ、夢…?」

「魔法の未来シミュレーションだよ。今のまま楽をしてると、十中八九ああなるんだけど、さてどうする?」


ルークはローウェンさんにおずおずと近づく。そしてばっと頭を下げた。


「師匠、ごめんなさい!僕、あんな風になりたくないです!」

「ルーク…!」

「これからは練習サボりません!師匠に言われたことを、全部守ります!」


ローウェンさんは深く息を吐き、弟子の肩をがしっと掴んで引き起こした。


「投げ出すなよ」

「はい!」


素晴らしい師弟愛だ。


頭でっかちなお子ちゃまが、苦言を呈してくれる人のありがたさに気付いたところで…


「今の幻影を詰め込んだ『初心忘るべからずカプセル』というオプションがありまして。これを飲ませると『弟子思いの師匠を捨て、才能を枯らした後悔』がフラッシュバックします。今なら一ダース銀貨一枚。明日以降は二枚になります」

「あ、ああ、もちろん…いや」


ローウェンさんはポケットに手を突っ込んで、止まる。


「…?」

「いや、また今度にする」

「なんで?今買うほうが安いですよ?」

「いや、今度でいい」

「結局買うなら、今買わないと後悔しますよ」

「後悔はしない。今度でいい」


顔を真っ赤にして、変な人。絶対後悔するのに。


それとも「今度からは魔法に頼らず俺が止めてやる」みたいな脳筋発想?


「幻影を見せてやろうか」と思って、私は踏みとどまった。


「押し売りされた」とか言われたら嫌だし。


「そうですか。じゃ、失礼します」

「ああ、本当にありがとう…ティナ殿」


「師匠が買わなかった理由、僕わかる!」というルークの声は、私には聞こえなかった。


「貧乏でお金がないから?」

「違うよ。別の日に買いに行ったら、またあの魔法使いに会えるからだよ!」

「いや、違…っ!」

「わ、師匠真っ赤ぁ!」

「あの魔法使いのこと、好きなの?」

「お前たち、師匠を揶揄うのはやめなさい!」



「師匠か…大事だよね」


自分の師匠のことを、思い出す。


天才ひらめき型の破天荒な魔導士で、急に鬼のような修行メニューを考えついては、朝から晩まで弟子を振り回す人だったけど…


一緒にいると楽しくて、思い出すのは笑える出来事ばかり。


それに今思うと、締めるところはしっかり締めてくれていたような。


「癖の強い魔法式の解読に苦労しないのも、魔力量が増えたのも、師匠のおかげだもんな」


それは彼女が私のことを大切に育ててくれたからなのだろう、とようやく気付く。


「…久々に、手紙でも書いてみるか」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
乾坤一擲です!頑張ってローウェンさん!
新作お待ちしておりました…! 恋や金銭のことではなく、子供の成長という切り口でストーリーが展開していくのは予想していませんでした。 次回のティナさんの活躍もたのしみにしています。
今回に関しては、予備を買ってしまうと少年が再び堕落するだろうと考えていることになるから買えんだろう。 師匠であるからには弟子を信じる必要があるからな。 もっと別の私的な理由はしらん。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ