第9話 魔人スカーレットはロボに頼りっぱなし
魔人もロボットを使う。技術の進歩はめざましい。
「ただいまー! あれ?」
城に帰ってきたスカーレット。しかし、普段と様子が違う。いつも出迎えてくれるじいやの姿がない。
気になった彼女は家事をしてくれているメイドさんに声をかけた。
「ちょっとごめんね。じいやは?」
「じいやさんは明日まで外出されるみたいですよ。あっ、そうだ。スカーレット様が帰ったら渡してくれって……」
メイドさんの手には手紙の様なものが握られていた。彼女はじいやとの約束を果たし、ほっとした顔をして家事に戻った。
スカーレットは手渡された紙を見ることにした。なになに……。
『スカーレット様へ じいがいなくて困惑されていることと思います。私がいないと、スカーレット様は面倒ごとを頼む相手がおりませんからなあ……』
こいつ……。手紙だからって、好き放題書いてるな。帰ってきたら注意しないと。
読むのをやめるかとも考えたが、一応最後まで読んでみる。
『ですが、心配ありません! こんなこともあろうかと秘密兵器を用意しておきました。部屋に戻ったら、話しかけてみてください じいや』
秘密兵器? なんだそれ? どうせメイドさんの誰かに自分の仕事を頼んでるんだろう。みんなじいやみたいに暇じゃないのに……。
部屋まで戻り、扉を開けながら部屋にいる誰かに話しかける。
「ごめんね、じいやに頼まれたんだろうけど……」
そこまで言いかけて、部屋の中央にいるものを見た。
ロボだ。
明らかに人ではない機械の物体がそこに置かれていた。
あまりのことにスカーレットは固まったが、ロボは空気を読まずに二足歩行で近づいてきた。
歩けるんだ! ガシンガシンとゆっくりロボは彼女に迫り、言った。
「おかえりなさいませ、スカーレット様」
しゃべれるんだ! 不思議なことに、だんだん彼(彼女?)は他に何ができるのかが気になってきた。
「えっと、あなたは?」
聞きたいことは山ほどある。どうやって動いているのとか。どうやって話しているのとか。でも、興奮のあまり抽象的な質問になってしまった。
「私はじいやに作られたロボです。じいやの代わりにスカーレット様のお手伝いをいたします」
すごい! すごいわじいや! もう一執事のレベルを超えているわ! これもう何らかの表彰されるレベルだわ!
叫び出しそうなくらい感動したが、じいや本人がいないので自重した。
「……そうなのね。それならえーっと、今日の晩ごはんはわかる?」
ロボは一瞬考えるように固まった。だが、すぐに答えが返ってくる。
「本日の夕食はマーボー豆腐です」
……理解した。このロボ使える!
晩ごはんのマーボー豆腐を食べ終えると、スカーレットはロボに色々頼んでみることにした。
翌日。
「ただいま戻りました。スカーレット様、じいがいなくても大丈夫でしたか?」
念のため自作のロボを置いてきたが、やはり彼はスカーレットが心配だった。用事もできるだけ早く終わらせ、なるべく急いで昼頃には帰宅した。
彼女の部屋に来たじいやは驚いた。面倒くさがりのスカーレットの部屋がきれいに整頓されていたからだ。
いつもならお菓子やジュースの缶、読みっぱなしのマンガなどが散乱していて見るに堪えない。しかし、今のこの部屋は掃除が行き届いており、ほこり一つ落ちてはいない。
これはいったい?
驚く彼を見て、スカーレットは満足そうにした。
「ふふん! どう? じいやがいなくても、きちんとやれるんだから!」
きれいになった室内を見せびらかすようにして、彼女は威勢よく言った。
「おぉ、スカーレット様も成長されたのですね。じいはとてもうれしく思います」
「すごいでしょ! って、泣かなくてもいいじゃない!」
目頭を押さえ涙を流す彼にスカーレットは言った。
「すみません、喜びが抑えきれませんでした。……ところで、私が作ったロボの姿が見えませんが……」
その言葉を聞いたスカーレットは胸がドキリとした。そして、言葉を選びながら彼の不在時に起きたことを話し始めた。
「えーっと……。それがね……」
前日の晩ごはん後。
「それじゃあ色々試してみましょうか。まずは部屋を掃除してくれる?」
「かしこまりました」
命令を受けたロボは、テーブルに置かれたお菓子の袋を片付け、マンガ本も棚に戻した。
ロボの動きを観察していたスカーレットは歓声を上げる。
「すごいすごい! それじゃあ、今度は私にマッサージをしてくれる?」
「かしこまりました」
ベッドにうつぶせになった彼女の背中を、ロボは腕を伸ばしグッグっと押し始めた。
「うーん、ちょっと手が硬いけど、刺激があって気持ちいいかも。……もっと色々できそうね」
それからスカーレットは試した。
ゲームの対戦相手、本の読み聞かせ、なくなったお菓子の買い出し等々。その全てにロボは対応した。
「なんでもできるのね! よし、明日は魔物の討伐もお願いしてみよう! これでちょっとは楽できるかも」
その夜期待に胸を膨らませ、彼女は眠りについた。
そして今日の午前中、彼女はロボを魔物討伐に連れて行った。
「スカーレット様、それは何ですか?」
「ロボです。今日はこの子が魔物を倒してくれます」
街の住民たちは不安そうだったが、彼女はロボを信じていた。この子はできる子だ。
城門の近くで、岩の巨人のような魔物にスカーレットとロボは向き合った。
「ゴーレムね。このくらいならわけないわ。ロボ行くのよ、あなたの力を見せてやりなさい!」
「かしこまりました」
ロボは勇敢にも魔物に向かって突進していった。そして、
「こんなのになりました」
スカーレットは部屋の奥から変わり果てた姿になったロボを持ってきた。
じいやは絶句した。精魂込めて作り上げたロボが、もはやガラクタとなっている。これまでの苦労が水の泡だ。
彼の思いを知ってか知らずか、スカーレットはあっけらかんと言う。
「やっぱり魔物討伐はロボには無理だったわ。でも心配しないで。ゴーレムはちゃんと倒しておいたから!」
じいやは答えない。彼女はなおも続ける。
「ロボ、壊しちゃってごめんなさい。でも、次はもっとパワーアップできるわよね?」
「……ええ、もちろんでございます。次は鬼のような改良を施します……」
「やったー! さすがじいや! 期待してるわ!」
それから彼は数日間、部屋に引きこもった。時折、叫び声の様なものが廊下まで聞こえてきたが、恐ろしくて誰一人扉を開くことはなかったのである。
そして、二代目ロボ完成の日。スカーレットは思い知ることになる。
鬼のようにパワーアップしたロボは彼女のわがままを全く聞かなかった。それどころか、静かに怒りの炎を燃やすじいやと共に、彼女のたるみ切った生活習慣をスパルタで矯正する地獄の様な日々を送ることになったのは言うまでもない。




