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魔人スカーレットは過労でしんどい 〜異世界最強の魔人ですが少しお疲れ気味なので、休日くらいは楽しく気ままに過ごしています〜  作者: 鳴尾リョウ


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第8話 魔人スカーレットはお菓子を食べたい

 魔人だってお菓子が大好きだ。……太るけどね。





 バリバリ。ゴクッ。


 スカーレットは仕事から帰り、部屋でスマフォを見ながらポテチとコーラを楽しんでいた。スマフォがべたべたしないよう、ポテチは箸でつまむ。


「やっぱり、仕事終わりのポテチとコーラは最高ね!」


 仕事で汗をかき、それを補うためのしょっぱいポテチ。塩辛いものでのどが乾いたら、すっきりしたコーラで爽快感を得る。これぞ無敵の組み合わせである。


 お菓子タイムを終え、ゲームでも始めるかと思った時、扉の方から視線を感じた。


「……スカーレット様、お菓子タイムは九時までの約束では?」


 扉の隙間からじいやがこちらをのぞいている。


 約束を破っていたスカーレットは気まずさを隠すため、相手の行動を非難した。


「じいや! ノックくらいしたらどうなのよ。……全く、何度も言ってるでしょ」


 しかし、彼はひるむことなくスッと部屋に入ってきながら、言葉を続ける。


「ノックの件は申し訳ございません。ですが、約束を破ってお菓子を食べていた件は見過ごせません」


 くっ、ごまかせないか。今回はあたしに非がある。彼女は素直に謝ることにした。


「……ごめん。どうしても我慢できなくて。一生懸命働いたから、ごほうびでいいかなって」


 じいやはふうと息をもらすと、穏やかな口調でスカーレットに語りかけた。


「確かにごほうびは必要です。スカーレット様はがんばっておられますからね。問題なのは時間と回数です。ちなみに、夜のお菓子タイムは今週何回目ですか?」


 スカーレットは記憶を呼び覚ました。えーっと、今日が金曜日で月曜日からだから……。


 指折り数え、はっきりと答えた。



「月曜からで五回目ね!」


「……太りますぞ。というか、それ毎日じゃないですか」


 心なしか、じいやの目が冷たくなった気がする。


「だって、おいしいんだもん! 悪いのはおいしすぎるお菓子なのよ!」


 子どものような言い訳をする彼女に対し、じいやは心を鬼にすることにした。



 無言でスカーレットの部屋から出て、戻ってきた彼の脇には大き目な機械が抱えられていた。


「! じいや、それって!」


「体重計です。今からスカーレット様にはこれに乗っていただきます」


 なんだって! 女性が他人に知られたくない数字上位に入る体重を、男性の前で測れというのか! いくらじいやだからって、それは横暴だ!


「嫌よ! プライバシーよ!」


 すると、彼はしょうがないと言った様子で体重計を持ち、扉のノブに手をかけた。良かった、わかってくれた。


 そんな思い込みを粉砕するような一言を、彼はぼそりと言った。



「わかりました。それでは今後、じいや特製スペシャルお菓子は廃止させていただきます」



 じいやは休日のお菓子タイムに、腕によりをかけて特別なお菓子を作ってくれる。いちごショート、洋なしのタルト、ブルーベリーチーズケーキ等々である。器用な彼はその才能をお菓子作りにも発揮し、どのスイーツもプロ並みにおいしい。週末のスカーレットの楽しみの一つだ。


 それが奪われるというのか。そんなこと耐えられない。


 くちびるを噛みしめ、苦悶に満ちた表情で彼女はじいやを呼び止めた。


「待って! ……乗ればいいのね。そうしたらスペシャルお菓子は出るのね?」


 くるりと体をひるがえし、じいやは微笑みながら言った。


「ええ、もちろんです」


 彼は持っていた体重計を床に下ろし、彼女に乗るよう促した。


 スカーレットは覚悟を決めた。いくぞ!


 そろりと片足ずつ乗せる。測定中の表示となり、すぐに体重が判明した。



「ふ、太ってるー!」



 彼女は足元がおぼつかなくなり、床の上に崩れ落ちた。いや、わかっていたのだ。なんとなくおなか周りがぷよっとしていたことには。しかし、気づかない振りをしていたのだ。


 落ち込む彼女を気遣うように、じいやは手を差し伸べた。


「苦しいでしょうが、これが現実です。……週末のスペシャルお菓子、どうされます?」


 もちろん食べたい。だが、現実を知ったからには答えは決まっていた。


「……今週は遠慮するわ。悔しいけれど……」


 じいやはその言葉に満足し、体重計を持って部屋から出て行った。




 その後、スカーレットは運動した。



 腹筋、背筋、腕立て伏せ。ランニングにスクワット。休日は筋トレに明け暮れた。月曜日になると仕事でも全力を使い、カロリー消費にいそしんだ。……過剰な威力の魔法で、平原にいくつものクレーターを作り出したことに人間たちが困惑したのは言うまでもない。


 もちろん、夜のお菓子タイムも封印した。そして、金曜日の夜、再びじいやが体重計を持って、スカーレットの部屋にやってきた。


「覚悟はよろしいですかな?」


「ええ、もちろんよ! この一週間は地獄だったわ。お菓子は食べれないし、体はへとへと。でも、これだけは言える! 私は痩せた!」


 じいやが体重計を彼女の前に置く。スカーレットは自信を持って、一歩を踏み出した。そして、



「に、二キロも痩せてるー!」


「おめでとうございます、スカーレット様!」


 二人は抱き合って、喜びを分かち合った。この一週間の辛い日々、それが報われた瞬間であった。


「じいや、ありがとう! 晩ごはんもヘルシーメニュ―にしてくれたおかげね」


「いいえ、スカーレット様の努力のたまものです。これで心置きなくスペシャルお菓子が食べられますね」


 こうして、週末のお菓子タイムには、いつも以上の豪華なお菓子がテーブルに添えられるのであった。




 数日後。



 パリパリ。


 晩ごはん終わりにこっそりとポテチを食べるスカーレット。やはり、ポテチはやめられない。手に着いた油分を落とすためティッシュを探していると、横からすっと差し出される。


「ああ、ありがとう……」


 礼を言い、顔を向けるとそこには呆れた顔をしたじいやが立っていた。


「ち、違うのじいや! これは……」


「言い訳ご無用!」



 再びスペシャルお菓子を食べるための道のりは、そう甘くはないのであった。


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