第7話 魔人スカーレットは月曜日がゆううつ
魔人だって月曜日がゆううつだ。そして、日曜日が過ぎていく。
日曜夕方。
「あぁー、日曜日が終わるー!」
じいやとテレビを見ているスカーレットが突然叫びだした。
「スカーレット様、びっくりするので大きな声は出さないでください」
じいやはこの時間になると、何十年も続くファミリー向けアニメを真剣に見ている。じゃまされたくないのだろう。
それでも彼女の愚痴は続く。
「だって、もう夕方よ! あとはご飯食べて、お風呂入って、寝るだけ。月曜日がやってくるー!」
毎週のことなので、じいやも慣れた様子で淡々と答える。
「『ブルーマンデー』という言葉もあるくらいですからね。日曜の夕方とはそういうものです」
もちろん彼女だってわかっている。でも、口に出して言わないと発散できないのだ。彼のテレビの時間をこれ以上じゃまするのも悪い。スカーレットはスマフォを操作し、時間をつぶすことにした。
三本立てアニメの二本が終わり、cmの間にじいやが話しかけてきた。
「ところでスカーレット様はウェブ小説をご覧になりますか?」
ウェブ小説。聞いたことはある。書籍ではなく、誰でも無料で読めるネットの小説のことだ。
「ううん、読んだことはないわね」
どうもスマフォで小説を読むというのがしっくりこない。スカーレットは断然紙で読む派だった。小さなスマフォで読むと目が疲れないのか?
じいやはため息を吐きながら、残念そうな顔で彼女を見る。
「まあ仕方ありません。スカーレット様はスマフォすら最近手にしたくらいですから」
スカーレットはお嬢様だ。普段電話さえ必要がない生活をしていた。以前にじいやがスマフォを作るまで、何の不便もなく生活をしていたくらいなのだから。
それでも、事実だからと言って馬鹿にされるのは腹が立つ。
「何よ! スマフォならもう使いこなしてますけど! 検索だってできますけど!」
言い返すほど彼は小馬鹿にした顔をした。
「それでは『ウェブ小説』と打ってみてください」
彼女はスマフォを操作する。……ウェってどうやって打つんだ?
手間取っていると、じいやがサッとスマフォを奪い、手早い指の動きで文字を打った。若者の自分よりも使いこなしている。
「こう打つのです。ちなみにこれがウェブ小説のサイトです」
彼は検索結果の上の方に出ているページを開いた。スカーレットはスマフォを受け取り、じっくり見てみることにした。
「へえー、こんな感じなのね。どれがおすすめなの?」
たくさんの作品があり、どれを見ればいいかわからない。じいやは少し考えてから言った。
「おすすめはたくさんありますが、やはり最初はランキングから見るのがよろしいかと」
ランキングか。確かに人気があるものなら間違いはないだろう。スカーレットはスマフォを操作し、ランキングページを開く。
やたらタイトルが長いのが多い。彼女の今まで見てきた小説はタイトルが短いものが多かった。疑問に思い、じいやに尋ねる。
「ねえ、なんでみんなタイトルが長いの?」
アニメの三本目が始まり集中を解かれたくないのか、彼はこちらも見ずに答えた。
「それが作法だからです」
作法か。以前茶道を学んだ際、お茶を飲む時は茶碗を二回半回すのが作法だと聞いたな。なるほど、どこの業界でも作法はあるものだ。
スカーレットは勝手に納得し、ランキング一位の作品を読んだ。
数分後。
「どうですか? おもしろいものは見つかりましたか?」
アニメを見終わったじいやが話しかけてきた。
すると、彼女は興奮したようにスマフォを彼の顔に寄せてきた。
「なんなのよ、これ! おもしろすぎるじゃない! 正直、なめてたわ。無料でそんなにおもしろいものが見れるわけないって」
「なかなか良いものでしょう、ウェブ小説も」
じいやの言葉に彼女は首をぶんぶん振って肯定した。
「くっ、続きが気になるわ! 部屋に戻って、集中して見なくっちゃ!」
そう言い残し、スカーレットは足早に自室へ向かっていった。
「スカーレット様、先にご飯を……。って、聞いてないか」
なんでもハマりやすい彼女のことだ。おそらく、数日はウェブ小説に夢中になることだろう。
じいやはふうっと息を吐き、彼女の部屋に食事を届けることにした。
じいやの思った通り、スカーレットはウェブ小説に熱中した。
仕事以外の時間は、こまめにスマフォで作品をむさぼるように読み漁った。どの作品もおもしろく、次々と興味を引かれたものを片っ端から読んでいった。
だがある時、悲劇は訪れた。
日曜日の夕方、いつものように二人はテレビの前に座っていた。
「あれ? どうしてなの?」
慌てるように何度もスマフォを操作するスカーレット。アニメを見ていたじいやも気になって声をかける。
「どうされましたスカーレット様?」
彼女は血の気が引いたような顔でスマフォの画面を見せた。
「お気に入りの作品の、更新が……ない」
じいやはピンときた。いつだったかハマっていると言っていた作品のことだ。
「まだ書き手が書いている最中なのでは? すぐに更新されますよ」
「そうね、作者だって忙しいものね。もうちょっと待ってみる」
そうして二人は一緒にアニメを見ていたが、スカーレットは何度もスマフォを確認するのだった。
結局、作品は更新されなかった。永遠に。
ウェブ小説ではよくあることだ。プロの作家でも書けなくなることはある。仕事でなく趣味で書いているならなおさらだ。残念だが仕方がないことである。
ウェブ小説に熱中していたスカーレットは、そこで我に返ったように適度に楽しむのが大事だと学んだのだった。
その後のある日曜日。
「あぁー! 日曜日が終わるー!」
スカーレットはいつものようにわめいている。
アニメを見ているじいやは心の中でこう思っていた。
「終わらないものはないのです。だからこそ、楽しめるうちに全力で楽しむのです」
彼はテレビの中で三角屋根の自宅に入っていくキャラクターたちを、目に焼き付けるように見るのだった。




