第6話 魔人スカーレットは私服がダサい
魔人にもセンスが必要だ。おしゃれな方が絶対いい。
休日。
「スカーレット様、休みだからってグータラして!」
スカーレットの部屋に来たじいやが小言を言う。
「またお母さんみたいなこと言ってる。だって、日曜日よ。たまの休みくらいゆっくりさせてよ」
ベッドの上でスマフォの動画を見ながら、彼女は抗議する。
「そんな休日のお父さんみたいなこと言って。先代が聞くと泣きますよ」
現在、この城の主はスカーレットである。先代はスカーレットの父で、人間からも魔人からも尊敬されていた偉大な魔人だった。そんな彼は仕事を娘のスカーレットに譲った後、趣味の放浪の旅に出かけている。
「そういや父さん帰って来ないわね。まあ、あの人のことだから、どうせ釣りとかキャンプとか楽しんでるんだろうけど」
「先代は休みの日でもきちんとした服装をされておりました。それなのになんです! あなたの格好は!」
じいやの言うことは事実だった。父は休日でもピシッとしたシャツを着て、スラックスも折り目がきれいだった。
一方のあたしは、よれよれのTシャツに学生時代のジャージ、髪もぼさっとしている。……じいやが嘆くのも無理ないか。
「わかったわよ。ちゃんとしたのに着替えればいいんでしょ!」
クローゼットに向かい、着替えを見繕う。
「それでいいのです。髪もちゃんととかしてくださいね」
彼はそう言い残し、部屋から出て行った。
「だからお母さんかって。……えーっと、これとこれでいいか」
スカーレットは取り出した服を合わせて納得すると、すぐに着替えることにした。
昼食時。
「お待たせしました、スカーレット様。昼食の準備が……」
「うん、今行く」
食堂に向かおうとするスカーレットの姿を見たじいやは唖然とした。
「……スカーレット様、何ですかそのTシャツ」
ちゃんときれいなTシャツとジーンズに着替えたのだが、何が問題なのだ。鏡で自分の姿を確認しても変なところは何もない。
「どこもおかしくないじゃない。Tシャツもかわいいし」
じいやはため息を吐き、残念そうに彼女を見た。
「……私が間違っていました。スカーレット様にはそもそもセンスがないのでしたね」
彼女の服には独特のキャラクターが描かれている。『スペースキャットル』という宇宙船とネコが合体したような奇妙なデザインだ。通販サイトを見ていた時に、衝動買いしたものだった。
「なによ! ちょっとサイズは大きいけど、かわいいんですけど!」
反論するがじいやは頭を抱えている。そして、諦めたように言った。
「……わかりました。食事に行きましょう」
腹が立ったが、おなかも空いた。二人は昼食にすることにした。
食後にスカーレットはファッションについて調べることにした。スマフォでおしゃれな人のSNSを見てみることにしたのだ。
清潔感、TPO、トレンド。服装のことだけでもたくさんのルールがある。さらに、アイテムの種類も合わせるとコーディネートの幅は無限大だ。
世の中のおしゃれ女子、侮りがたし。……あたしには無理かも。せめて、お手本になりそうな人が誰かいたら……。
その時、彼女はひらめいた。いるじゃない、人気でかわいい友達が!
すぐさまスマフォを操作する。電話帳から名前を探し、ボタンを押した。
「もしもし、ベロニカ! 突然だけど、今からあたしの家に来られる?」
「……こんにちは、スカーレットちゃん」
彼女の城にやってきたベロニカは、礼儀正しくお辞儀をしながら言った。
「こんにちは、ベロニカ! ささ、上がって!」
あいさつもそこそこに、二人はスカーレットの部屋に入った。
「ところで相談って何?」
スカーレットが詳しい理由も言わず電話を切ったので、ベロニカは事情を知らなかった。そんな彼女をじろじろとスカーレットは観察した。
落ち着いた黒のニットにグレーのロングスカート。彼女のスタイルの良さも相まって、知的で大人っぽさを感じさせる。まあ、中身は恥ずかしがり屋の小心者だけど。
「あの、スカーレットちゃん……」
「ごめんごめん。聞きたいんだけど、ベロニカは自分で服を選んでるの?」
急な話題にベロニカは困惑していた。しかし、質問にしっかり答えようと少し考えて答えた。
「うん。お店に行くと店員さんと話さないといけないから、通販でね。はやりとかはわからないけど、自分でかわいいなと思ったら買っちゃう」
同じだ、あたしと。それなのになんなのだこの差は。スカーレットは自分の着ているTシャツが恥ずかしくなってきた。
「そうなんだ……。ところであたしの服、どう思う?」
ベロニカはTシャツをじっと見つめ、笑顔で答えた。
「とってもかわいいと思う! 宇宙船のネコの表情がなんとも言えない!」
……いい子や。嘘でもうれしい。スカーレットはおずおずと尋ねた。
「……あのね、もし良かったらこの服いらない?」
迷惑かもしれないが、本当に気に入ってくれているかもしれない。すると、ベロニカは満面の笑顔で喜んだ。
「えっ、いいの! でも、気に入ってるんじゃ……」
「ううん、いいの。サイズもちょっと大きかったし、ベロニカの方が似合うと思うし」
「ありがとう! 大切に着るね!」
これでこのTシャツも浮かばれる。感謝の気持ちと同時に、ダサいTシャツを押し付けた罪悪感でいっぱいのスカーレットだった。
数日後。
SNSでは一枚の写真が話題となる。それはベロニカが休日に例のTシャツを着ていた際、ファンが無理言って撮ったものだった。いつもは写真を断るベロニカだったが、大好きな友達からもらった服を着ていたので、ついOKしてしまったのである。
珍しくベロニカが写った写真。それだけでファンたちは興奮した。そのうえ、彼女の私服姿である。話題が話題を呼び、『スペースキャットル』Tシャツもおしゃれだと爆売れした。
写真を見て、わなわなと震えるスカーレット。その姿を見て、紅茶をすすりながらじいやは言った。
「おしゃれとは、何を着るかではなく、誰が着るかが重要なんですなあ」




