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魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第5話 魔人スカーレットは早く帰りたい

 魔人だって早く帰りたい。プライベートも大事だ。




「ふー、なんとか片付いた」


 召喚に応じ、大量に湧いて出た魔物の討伐を終えたスカーレット。あとは報酬をもらって城に帰るだけ。


 何より今日は見たいテレビ番組があるのだ。『魔人ランキング 一番人気がある魔人は誰だ!』である。以前の回では、またしてもペロニカに負けていた。だが、最近のあたしの人気ぶりを考えれば今回こそは勝っているはずだ。


 くっくっくと笑いをこらえられないでいると、人間たちが近寄ってきた。さてと、もらうもんもらって帰りますか。


 しかし、彼らは申し訳なさそうにこう言った。



「スカーレット様、お話があるのですが……」


「どうしたんですか? 何か問題でも?」


 魔物はすべて倒したはずだ。いくら面倒くさがりのあたしでも、与えられた仕事はきっちりとやる。


 すると、人間たちは誰が切り出すか相談し、一番年長であろう男性が話し出した。


「いやその、魔物の調査を行っていた者から連絡がありまして……。どうやら、ここから少し離れた場所に魔物の巣があるようなのです」


 ふーん、そっか。まあ確かにどこにでもあるからな。さてと、さっさと報酬を……。


 ……いや待て、よく見ると誰もお金や宝石が入った袋を持っていない。まさか……。



「できればその、今からそこに向かい魔物を倒し、巣も破壊してはもらえないでしょうか」



 嫌だ! 今日は早く帰ってテレビが見たい! だが断れる雰囲気ではない。スカーレットはしばらく悩んだあと、しぶしぶ了解することにした。


「……わかりました。場所を教えてください」


 待ってましたとばかりに、人間たちは書いてきた地図を彼女に渡し感謝した。


「本当にありがとうございます! 報酬はもちろん弾ませていただきます!」


 ……なんかいいように使われている気がする。文句を言ってやろうかと思ったが、困っていることには違いない。渡された地図で場所を確認し、スカーレットは魔物の巣に向かった。




 召喚による移動なら一瞬で目的地に着ける。しかし今回は目的地に召喚士がいないため、彼女自身が飛行して向かう必要があった。


「あー、さっきの魔物退治で魔力結構使ったからなあ。飛んでいくの疲れるー」


 空から地上を見ると、一面砂地が広がっており代わり映えしない。まして、暗くなり始めているから集中していないと場所を過ぎてしまいそうだ。


 一時間ほど飛び続け、目的地にたどり着くころには疲れてくたくただった。


「あった! あれね!」


 以前は人間が拠点として使用していたのだろうか。魔物の巣になっていた場所は、石や土で固められたドーム状の建物だった。その建物を中心に何匹も魔物の姿が見える。


「さてと、一発ぶち込みますか!」


 スカーレットは詠唱もなしに、ドームを飲み込むほどの大きさの火球を頭上に出現させた。地上の魔物たちはまさか奇襲を仕掛けられるとは思っていないのか、逃げるものは一匹もいなかった。



「くらえー!」



 彼女は残業の恨みを晴らすように、火球をドームに向け放った。暗くなった周囲に閃光と衝撃音を響かせ、大地をえぐるような巨大な跡を残し魔物と巣を消し飛ばした。


「ふいー、任務完了。って、あれ」



 空に浮かんでいたスカーレットは徐々に高度を下げ、地面に落ちた。……魔力切れか。


 疲労のため、動かなくなった体で彼女は考えた。


「どうしよう。力が入らない。このままじゃ、城や人間たちの街にも帰れない」


 仰向けになり、星だけが輝く夜空を見る。あーあ、残業なんてするんじゃなかった。テレビ見たかったのに、これじゃ間に合わないじゃない。


 静まり返った砂地は彼女の気持ちを不安にさせる。どうしよう、このまま帰れなかったら……。


 自然と涙が流れてきた。幸か不幸か、『お嬢様見守りカメラ』は修理中だ。じいやも誰も今のあたしを見ていない。……スマフォも電池切れか。


 諦めがよぎったその時、ざっざと砂を踏みこちらに近づいてくる音が聞こえた。



「いたぞ! スカーレット様だ!」



 たいまつを掲げ、何人かの男たちが駆け寄ってきた。


「……えっ、誰?」


 涙のあとを急いで隠し、スカーレットは尋ねた。


「私たちは魔物の調査隊です。街に通信機で連絡をし、スカーレット様に来ていただいたのです」


 ああ、そういうことか。おそらく先ほどのあたしの魔法で、遠くから巣を見張っていた彼らが何事かと様子を見に来たのだろう。


「スカーレット様には申し訳ないことをしました。お疲れのところを無理に来ていただいたのですから。本当に助かりました」


 調査隊の面々は全員でこちらに頭を下げた。再び涙がこぼれそうになるのをこらえ、彼女は答えた。



「いいえ、気にしないでください。仕事ですから。それに助かったのはこちらも同じです。……動けない私を放っては帰らないでしょう?」



 彼女の軽口を聞いた彼らは声を出して笑い、動けなくなったスカーレットを優しく背負うと、街に向かって歩き出した。




 数日後。


「それで結局、帰ってくるのに三日もかかったということですか」


 久しぶりに城に帰ってきたスカーレットを、じいやはカンカンに怒って出迎えた。


「しょうがないじゃない、体力も魔力も空っぽだったんだから!」


 スカーレットをおぶって歩いた調査隊は夜通し砂地を歩き続け、太陽が昇り始めた朝方に街にたどり着いた。


 そこでは彼らとスカーレットを待ちわびていた住人たちが、早朝にも関わらず大勢いた。彼らは皆スカーレットに感謝し、休むための宿も用意してくれていたのである。


 宿屋でひと眠りし、目を覚ました彼女を待ち構えていたのは、歓迎の宴だった。豪華な食事に一級品の酒、住民の笑顔は疲れた体に染み渡り、気を良くした彼女はすぐには城に帰らず、てんこ盛りの報酬を抱え、ようやく今日帰ってきた。


「だからって連絡もしないで……。じいはもう知りません!」


 ぷんぷんと怒ったじいやは部屋を出て行った。しかし、スカーレットはメイドさんから聞いていたのだ。じいやは彼女を心配してほとんど眠っていなかったことを。いつもすぐに出迎えてくれる彼が、今日は少し遅れたのはそういう理由だった。



「ごめんね、じいや。今後は気をつけるね」



 久しぶりの自宅にほっとしたのか、彼女はあることを思い出した。


「あー! 『魔人ランキング』見逃したー!」




 その後、じいやに「スマフォで見逃し配信がありますぞ」と教えてもらったスカーレットは、さっそく番組を見ることにした。


 彼女のランキングは七位。五位のベロニカにはまたしても及ばなかったが、スカーレットは満足していた。なぜなら、こんなコメントがあったからだ。



『私はスカーレット様が一番好き! だって、とってもがんばり屋なんだもん!』


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