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魔人スカーレットは過労でしんどい 〜異世界最強の魔人ですが少しお疲れ気味なので、休日くらいは楽しく気ままに過ごしています〜  作者: 鳴尾リョウ


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第4話 魔人スカーレットは省略したい

 魔人だって無駄は省きたい。働き方改革だ。




「はあー、今日もがんばりましたよっと」


 さっくり魔物を倒し帰ってきたスカーレット。


「お疲れ様でございます、お嬢様」


 じいやがねぎらいの言葉をかけるが、彼女はすかさず注意する。


「だから、お嬢様はやめてってば。……このやりとり省略できないの?」


 じいやはいつも通りの謝罪をし、反省した様子もなくのんびりと言う。


「そうですなあ。様式美というやつもありますからなあ」


「なによそれ? そういえば、省略と言えばあれって省略したらだめなの?」


「何がです?」



「詠唱」



 詠唱は魔人が魔法を使う際に唱えるものだ。魔法を使う際の約束事のようなものなので、スカーレットも毎回唱えている。


「あれ、いちいち面倒なのよね。別にあたしなら全部唱えなくても魔法使えるし」


 スカーレットほどの上位の魔人なら、詠唱を省略し魔法を使うことができる。


 しかし、じいやは反対した。


「いけません、スカーレット様! 詠唱は魔人が人間に対して自分の威厳を見せるための手段でもあるのです。省略などもってのほかです!」


 確かそんな意味があるんだっけか。彼女もベロニカに威厳は大事だと言ったばかりなので、否定はしづらい。


「……それもそうよね。ん、でもちょっとくらい短くても、かっこよければいいんじゃないかしら?」


 厳密にルールが決まっているわけではないので、じいやも返答に困る。


「いい、……んですかね? スカーレット様の今の詠唱はどんなものでしたっけ?」


 スカーレットは思いつく最大限のかっこいいポーズをしながら言う。



「深淵にて燃え上がる呪詛の炎。いまひとたび出でて、焦土と化せ。インフェルノ!」



 じいやは拍手でほめたたえ、彼女は「フンっ」と腰に手をあて胸を張った。


「ところで、どこまで省略できるのですか?」


 すると彼女は言った。



「全部」



 じいやはポカンとしたが、慌てて聞いた。


「全部って、全部ですか! 『インフェルノ!』とかは?」


「別にいらない」


 じいやはショックを受けた。あのかっこいいフレーズもいらないのか! 


 落ち込む彼の様子を見て、スカーレットは慰めるように声をかける。


「……あっ、でも全部ってことはないかな! かっこいいフレーズは必要かも!」


 すると、じいやは元気を取り戻し提案した。


「ですよね! ……わかりました。このじいも新しい詠唱のフレーズを考えましょう!」


「いや、あたしが一人で考えてもいいんだけど……」


 食い気味で来られるとこちらは引いてしまう。だが彼女の言葉を聞き流し、じいやはもう考え込んでいる。


「……長すぎず、それでいてかっこよさは損なわれないもの……」


 ぶつぶつ呟いている彼をほっといて、スカーレットも自分で考えることにした。




 それから、二人は色々と考え試すことにした。魔物が出るたびに、新しい詠唱を唱えるスカーレット。



「地獄の魔炎!」「プロミネンス!」「炎竜の息吹!」「魔物確殺火炎球!」


 これなら、「インフェルノ!」だけでもいい気がする……。



「空より降り注げ、太陽の怒りよ! 罪人よ、悔いるがいい!」


 これはかっこいいがまあまあ長いな……。



「はい、ドーン!」「爆! 殺!」


 ……さすがにこれはないな……。


 魔物討伐を二十回ほどこなし、スカーレットとじいやは再び話し合った。


「なんかどれもピンとこないのよねえ……」


「そうですねえ。次は詠唱なしでやってみましょうか」


 散々威厳がどうとか言っていたのは何だったのか。さすがに彼女も怒り出す。


「はあ? じいやが省略するなって言ったんじゃない!」


「そうですが、よく考えれば魔法で魔物を倒すだけでも、充分威厳を示せるかと……」


 開き直った態度の彼の言葉に、スカーレットはあきれてしまった。


「……わかったわよ。次は詠唱なしでやってみましょう」


 自分の意見が通ったはずなのに、なんだろうこの引っかかる感じは。もやもやを抱えたまま、彼女は魔物討伐に向かった。




 帰宅後。


「帰ったわよー」


 詠唱なしで特大の炎の魔法をぶち込んだ彼女は、なんとなく爽快感なく城に戻ってきた。


「お帰りなさいませ」


 じいやは待ち構えていたように、例の機械を持ち出した。『お嬢様見守りカメラ』だ


「また勝手に見てたわね! 何回も言うけど……」


 抗議を唱える彼女を抑え、じいやはカメラをスカーレットに見せる。


「このカメラは録画機能もあるのです。まずはこちらを見てください」


 言われるように彼女は、カメラのモニターを見ることにした。


 そこには先ほど自分が魔物を倒しに行った街の兵士たちが映っていた。


「さすがスカーレット様だな! 俺たちが全然敵わない魔物も一発で倒しちまった。ホント、感謝してもしきれねえよ」


 褒められている! いつも報酬をもらうとさっさと帰ってきてしまうから、直接お礼を言われることが少ない。しかし、こうやって感謝されていると思うと、やはりがんばろうと思っちゃうんだよな。


 スカーレットがにまにま笑っていると、兵士たちは思いもしない言葉を放った。


「でも、いつものアレ、なかったよな?」


「ああ、アレな。何でやめちゃったんだろうな?」


 アレ? 何のことだ? 不思議に思いながら続きを見る。


「『深淵にて……』とかいうやつだろ。意味はわかんないんだけど、かっこいいよなアレ」


「そうそう、最近は別パターンもあるみたいだけど、やっぱりいつものやつが良いよな」


 なんと! いつもの詠唱が覚えられていたのか! 遠くに避難させていたから、はっきりは聞こえていないと思っていた。



 録画を見終わり、スカーレットは決意した。


「じいや、決めたわ!」




 翌日の魔物討伐。


「深淵にて燃え上がる呪詛の炎。いまひとたび出でて、焦土と化せ。インフェルノ!」


 スカーレットは巨大な魔物相手に炎の塊をぶつけ、消滅させた。城でモニター越しに彼女が住民たちに感謝されている様子を見て、じいやはつぶやいた。


「やはり、様式美は大切ですなあ」


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