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【ポンコツ系異世界日常コメディ!】魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第37話 魔人スカーレットは十万文字書きたい

 十万文字書きたい! その道のりは遠く……。




 カタカタ、カタカタ。


「……今日はこんなところかしらね」


 スカーレットはキーボードを打つ手を止め、今しがたまで書いていた文章を見返した。大丈夫、変なところはなさそうだ。


「スカーレット様」


「おわあ! ちょっとじいや! いつも言ってるけどノックを……」


「ちゃんとしましたよ。ですが、返事がなかったので」


 確かにさっき後ろで何か聞こえたような……。スカーレットはあっさりと自分の非を認めた。


「そっか、ごめんごめん」


「そんなに集中して何をされていたのです?」


 しまった! 画面がそのままだ! 慌ててマウスを操作しようとするが、それよりも速く彼はモニター画面を見て言った。


「これはもしかして、小説ですか?」


 見られたからには仕方がない。スカーレットは少し気恥ずかしそうに答えた。


「うん、そう。前にじいやに勧められてウェブ小説にハマったことがあったでしょ? 久しぶりに読んでみたら、今度は自分でも書いてみたくなっちゃって……」


「なるほど。そういうことでしたか」


 今までの小説は読んで楽しむものだと思っていた。しかし、気づいたのだ。書いている側になるともっと楽しいのではないかと。そこでさっそく、スカーレットはオリジナルの小説を執筆することにしたというわけだ。


「どんなストーリーなんです?」


「ふふん、絶対に人気間違いなしの小説よ! ウェブ小説読者のあたしが書いたんだもの!」


 彼女が語り始めたのはこんな話だった。


 主人公は平々凡々の人間で、何のとりえもない少女。しかし、不慮の事故である日突然異世界に転生することに。その時、女神様に不憫だからと力を授けられる。ラッキーと思い、いざ異世界にたどり着いてみると、人間ではなく魔人の姿になっていた。そんな感じであった。


「題して、『異世界に転生した私、女神様に魔人の力を与えられてなんやかんやで無双します』どうよ、これでポイントはがっぽがっぽ。ランキングの階段を駆け上がるわ!」


 じいやに感心されると思っていた彼女だったが、彼の反応はいまいちだった。


「うーん、なんだかどこかで聞いたような話ですね……。確かにオーソドックスなストーリーは読者に安心感を与えます。そのジャンルが好きな層は一定程度いることでしょう。しかし、作者のオリジナリティが感じられないならば、荒野の様なウェブ小説の中において支持を得ることは難しいでしょうね」


 グサッ! 何だこの説得力のあるコメントは!


 スカーレットがショックを受けていると、さらにじいやは追撃を放ってきた。


「失礼ながら、スカーレット様はプロットなどは作っておられますか? えっ、そんなの知らない? 初心者にありがちなことですな。プロットとは小説の設計図のようなもの。それなしで筆を進めるということは、海図を持たず大海原に船をこぎ進めることに等しい愚行……」


 彼のキレキレの言葉は、執筆初心者であるスカーレットの心をえぐりまくった。


「……めっちゃ言われる」


 しょんぼり肩を落とした彼女の姿に、じいやもはっとしたように弁明を始めた。


「すみません、つい熱く語ってしまいました! 今の私の言葉は気にせず、スカーレット様が書きたいように書いたらいいと思います!」


「書けるかあ! ここまでボロクソに言われて、あたしの心は傷だらけよ!」


 出てけ出てけ! そうわめきながら、スカーレットはじいやを部屋から追い出した。


「もう続き書くのやめようかな。どうせじいやの言う通り、誰も読んでくれないだろうし……」


 彼女はモニターに表示されている、自分が頭をひねって絞り出した文章を眺めた。ここまでおよそ二万字。まだ物語は始まったばかりだ。少し悩んだスカーレットだったが、再びキーボードを打ち、執筆を再開した。




 そこからスカーレットは小説の書き方について学び出した。


 まずじいやの言っていた通り、物語の設計図となるプロットを作ることにした。確かにこれがあることで、自分が書きたい世界観をぶれることなく表現できそうだった。もちろん、書いているうちに予定とは違う展開になることはある。しかし、それもまた執筆の醍醐味。大筋から離れないのであれば無理に合わせることはしなかった。


 もう一つ、彼女が重要だと感じたのは、『ウェブ小説』という媒体についてのことだった。


 ウェブ小説は一冊の本のように一気に読まれるのではなく、一話単位で少しづつ読むことが想定される。つまり、読者のことを考えるのであれば、『更新を増やし』『一話ごとに盛り上がる山場を作る』ことが重要となる。


 そこで彼女は出来上がった一話分のストーリーをすぐに投稿するのではなく、ある程度まとまった量になるまで書き溜めてから、毎日少しづつ投稿することにした。こうすることで、一定の更新ペースを維持し、クオリティを落とす心配がなくなると考えたからだった。


 だが、この方法にはデメリットがある。それは、書いている間、読者からの反応が全く得られないことだ。


 自分が作り出すストーリーは面白いのだろうか? 誰にも読まれないのではないだろうか? そんな不安が常につきまとう。


 スカーレットもまた、多くの作者と同じであった。


 文字数は五万字を越え、物語は佳境となる。強大な敵と戦うことになる主人公。それは険しく困難な道であった。同時に作者にとっても、この辺りが一番難しい。中盤からは無数の選択肢が広がっているからだ。スカーレットも時に悩み、キーボードを打つ手が何度も止まる。それでも決して、筆は折らなかった。この物語は自分にしか書けないと信じていたからだ。


 そうしてなんとか書き続け、ついに物語は十万文字に到達し、ひとまずの区切りがつく。


「できた!」


 文書を保存し、一息ついた。ついに成し遂げた、十万文字! 思っていたほどの達成感はなかったが、それでも区切りがついたことに対して安堵の気持ちは大きい。


「これで投稿できる! 一話ずつ投稿サイトにコピーしてっと。あとは毎日投稿するだけね!」


 多くの人に自分の作品を読んでもらえる。期待に胸を膨らませ、スカーレットは翌日から投稿を開始した。




 一週間後。


 夕食を終え、じいやはリビングでごろごろするスカーレットに話しかけた。


「だらだらスマフォ見てないで、何か有意義なことをしたらどうですか?」


「いいじゃないの別に! スマフォユーザーを全員敵に回したわよ!」


「……まあ、いいですが。そういえば小説はどうなったんです?」


 思い出したように彼が言うと、ばつが悪そうにスカーレットはこぼした。


「……ああ、あれね。全然だめだった。やっぱり厳しいわ、ウェブ小説。最初はどれだけ見られたか確認してたけど、毎日ゼロだから全部予約投稿してもう見てない」


 彼女は何とも思ってないように言ったつもりだろうが、じいやは一瞬悲しそうにした表情を見逃さなかった。


「……そうですか」


 それだけ話すと、仕事を終えた彼はスカーレットに断りを入れて部屋に戻った。




 その日の深夜、スカーレットの小説はスコッパーと呼ばれる人物にレビューを書かれる。その人物は、あらゆるウェブ小説に造詣が深く、それでいて人気不人気に関わらず忖度しないレビューを書くことで界隈では信頼されている者だった。そのレビューはこうだ。


『「異世界に転生した私、女神様に魔人の力を与えられてなんやかんやで無双します 作者 マシーンすかれと」タイトルは流行りの長文。私の好みではなかったが、新着で気になったので読んでみることにした。思った通り、よくある異世界転生物で文章も下手だ。すぐに読むのをやめようかと思ったが、展開が急で予想できずついつい読んでしまう。気づけばこんな時間だ。おそらく作者は初心者だが、次回作があるなら読んでみたい』


 彼のレビューを支持する者たちにこの文章が読まれると、瞬く間にスカーレットの小説には多くの読者がついた。中には、「魔人なのに、魔法使わずにダイナマイトで解決しようとするの笑う」「序盤に出てきた嫌味な執事がキーマンだったとは……」「最終的に宇宙大戦に勝利して、全世界の神になる展開好き!」など、多くのコメントを残す者もいた。


 そうして初投稿作品としては上々の評価を得たその作品は、少しの間ウェブ小説好きの間で話題となるのだった。




 その後、とある日。


「あの、すかれと先生……。いえ、スカーレット様。新しい小説は書かないのですか?」


 じいやがなるべく自然を装ってそう聞くと、スカーレットはあっけらかんと答えた。


「そうねえ……。面白い話が降りてきたら書くわ」


「……そうですか」


 スマフォゲームに夢中になっている彼女を見て、しばらくは無理だろうなとじいやは思った。


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