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【ポンコツ系異世界日常コメディ!】魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第34話 魔人スカーレットは剣を振るう

 剣があったら振ってみたい! 人に歴史あり。




 無人島の一件があり、じいやの機嫌を取るのに必死なスカーレットは今日も自らお手伝いを買って出ていた。


「じいや、何か手伝ってほしいことない?」


「そうですね……。それなら久しく掃除をしていないので、倉庫の片づけをお願いできますか?」


「合点承知!」


 見せつけるように彼に敬礼をすると、鍵を受け取ったスカーレットは普段あまり使うことのない倉庫に向かった。



 城の中は広く、使用していない部屋も多い。働いているじいややメイドさんたちは、日常的に使用する部屋の掃除をするだけでも骨が折れることだろう。そのため、どうしてもあまり使うことがない倉庫まで手が回らないとしても仕方がない。


「よーし、ちゃちゃっと終わらせますか!」


 厳重に閉ざされている扉の鍵を開け中に入ると、そこには金銀財宝、まばゆいばかりのお宝たちが山のように積まれていた。


「何回見てもすごいわね。倉庫っていうよりも宝物庫だわ。」


 大袋からこぼれ落ち、床に散在している金貨を手に取りながら彼女は言った。


「……こっそり持って行っちゃおっかしら? あたしが稼いできたお金でもあるわけだし……」


 悪魔のささやきが彼女の手に力を込めさせる。金貨一枚くらいなら持って行ってもバレない。


「……なんてね。そんなことしたらじいやに大目玉くらっちゃうわ」


 お金を袋に戻し、スカーレットは倉庫の掃除を開始した。


 倉庫の中は頑丈そうな壁で覆われている。これほどの財宝があれば無理もない。少しくすねるだけで遊んで暮らせそうな品物ばかりだ。それでも一度も盗難にあったことがなかったのは、魔人スカーレットを敵に回すことが何よりも恐ろしいと、あらゆる魔人が理解していたからだった。だがそんな彼女がおこづかい制だと知るものは多くはない。


 彼女が袋からこぼれている品物を用意した袋に適当に詰め込んでいると、お金や宝石以外にも置かれているものがあると気づいた。何個か大きな箱がある。


「なんだろ? わざわざ箱を用意するってことは、特別なお宝とか?」


 身近なところにあった立派な箱を開けてみる。どれどれ……?


「ん? これ、あたしが描いた絵だ」


 筒状に丸められた紙を開いてみると、昔、父に向けて描いた似顔絵だった。輪郭も変だし、肌の色も紫。お世辞にも上手いとは言えない。他にも箱の中にはガラクタを寄せ集めて作った、幼少期のスカーレットの作品がぎっちりと詰め込まれていた。


「……お父さんね。ったく、たまには帰って来いっての」


 彼女は箱の中身を一つずつ手に取り確認すると、丁寧に収めふたを閉じた。


「それで、こっちは何かしら?」


 隣に置かれていたのも負けず劣らず立派な箱で、こちらは高さはあまりなく横長だった。


「なんか古そうな箱だけど……。」


 ふたを開けてみると、明らかにただものではない品物だとわかった。


 剣だ。それも強大な魔力が込められている。


「なるほど。箱に細工がされていて、魔力が封印されていたんだ」


 それほど危険なものだというわけだ。父は剣を使わなかったから、贈り物かそれとも戦利品か。確かなのは、以前の持ち主がこの剣を振るえるほどの強者だったということだけである。


 スカーレットは手にじんわり汗をかいていることに気づいた。剣が放つあやしい魅力に引きつけられているのだ。そして決意した。


「試しに振っちゃうか!」


 剣があったら振ってみたい。単純な理屈だ。ただ、それが危険でなければだが。


 彼女は剣を鞘から抜き、両手で柄を握る。上段の構えを取り、力いっぱい振り抜いた。


「でやあ!」


 素人丸出しの所作からは考えられないような強大な魔力が刀身から放たれる。それは倉庫の頑丈な壁すらぶち破り、轟音と共に庭につながる巨大な穴がぽっかりと開いた。


「……ありゃりゃ、どうしようこれ?」


 すると、騒ぎを聞きつけたじいやとメイドさんたちが倉庫に飛び込んできた。


「何事ですか! 敵襲ですか!」


「違うのよ。これ振ったらこうなっちゃって……」


 持っていた剣を見せながら、彼女は弁明する。すると、敵襲でないことにほっとしたのか、忙しいメイドさんたちはじいやを残して倉庫から出て行った。


 スカーレットは彼が激怒するのに備え、土下座の準備をした。だが、彼の反応は意外なものだった。


「それは……。まだ置いてあったんですね……」


 剣を見つめるじいやの目は、遠いところを見ているようだった。


「じいや?」


 心配した彼女が声をかけると、彼は我に返ったように答えた。


「すみません。それは昔、ヴァーミリオン様がある魔人から贈られたものなんです」


「お父さんが?」


 じいやはうなずくと、静かに語り始めた。


「魔人の名はラムズイヤー。当時は『剣の魔人』と呼ばれていました。その男は魔人でありながら人間に召喚されるのを嫌い、己のためだけに力を振るいました。そして自分の力を誇示するため、魔物を狩っていた時ヴァーミリオン様と出会ったのです」


 そう話す彼が苦々しい顔をしたのを、スカーレットは見逃さなかった。


「ヴァーミリオン様はその男よりも年下でしたが、すでに魔人の頂点にいる実力の持ち主でした。男は彼に戦いを挑みました。己の強さを証明するために。戦いは三日三晩続き、周囲の草は焼け、土は剥げ、生命が息づかない土地になりました。そして、お互いに最後の一撃を放つ。そんな状況となった時、あることが起きました」


「あること?」


「二人の腹が同時に鳴ったのです」


 はい? と、スカーレットが変な声を上げると、じいやは愉快そうに言った。


「三日三晩戦ったのです。腹も鳴りますよ。すると、ヴァーミリオン様がこう言いました。『飯にしないか?』と。男は思いもしなかった言葉にあっけに取られてしまい、返事をする前にヴァーミリオン様は料理の準備を始めました」


「相変わらず空気読めないわね。お父さんらしいわ」


「さっきまで命がけで戦っていたのに、共に食事をしようと言ってのける。男は『敵わない』と思いました。食事が済むと、男は友好の証として己の剣を贈りました。『飯の礼だ』とね」


「それがこの剣……」


 彼は肯定し、スカーレットが持つ剣に触れた。


「そうです。そうして男は戦うことをやめました」


「そうなんだ……。それで、その魔人はその後どうなったの?」


 彼女の言葉にじいやははっきりと答えず、言葉を選ぶようにこう言った。


「誰かのために、おいしいごはんを作っているんじゃないですか?」




 話を終え、壁を壊したことをしっかりと注意した後にじいやのスマフォが鳴る。


「私だ。ラムズイヤー、スカーレットはどうしてる?」


 タイミングが良い人だな。ヴァーミリオンの質問に笑みをこぼしながら、彼は答えた。


「倉庫の片づけをされています」


「そうか倉庫の……。そういえば、お前の剣はまだあそこにあるのか?」


 じいやはとぼけるように言う。


「どうでしょうなあ? なにぶん、昔のことなので……」






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