第33話 魔人スカーレットはサバイバー
ポツンと一人ぼっち。生き延びろ!
スカーレットは漂着した。
「……うん? どこだここ?」
彼女は打ち上げられた砂浜から体を起こし、顔にへばりついた砂を落とした。視界にはどこまでも続く海。そして、正面にはうっそうと木々が生える大きな山が見えた。波の音以外は聞こえないその場所は、およそ人が住んでいるとは思えない。
「やってしまった。もしかしなくても、ここって無人島じゃないの」
どうしてこんなことに? ぼんやりする頭でスカーレットはここに至る経緯を思い出すことにした。
「海外って、景色がきれいよねえ」
休日に朝から旅番組を見ていたスカーレットはそんなことを言った。
「まあ、そうですよね。私はほとんど城にいるので憧れます」
一緒にテレビを見ていたじいやも同意する。
「でも、スカーレット様はあちこちで人間を助けているので、色んな風景を見られるではありませんか?」
彼はうらやましそうにそう言ったが、彼女はううんとうなった。
「実はそうでもないのよね。確かに暑いところから寒いところまで、世界中飛び回っているけど仕事中だからね。じっくりその土地を見て楽しんでいる暇はないわけよ」
「そういうものなんですね」
「そういうものなのよ」
それに、と彼女は付け足す。
「瞬間移動もどこでも行けるわけじゃないのよ。召喚された場所やあたしが行ったことある場所じゃないと、うまくたどり着けないし」
「スマフォ持つ前は、召喚場所からずれたところに着いたって言ってましたもんね」
「やっぱりスマフォは便利ね」
しばらくテレビを見ていた二人だったが、じいやが仕事に戻るとスカーレットはあることを思いつく。
「どこでも自由に移動出来たら便利なんだけどなあ。……試しに瞬間移動してみるか」
頭に風景がきれいな場所を思い浮かべ、魔法で転移する。すると、彼女の姿は部屋から消え、次の瞬間には見たこともない街にたどり着いたのだった。
「上手くいったみたいね! どこに着くかは賭けだったけど、きれいな街!」
そこは街の水路にたくさんの小舟が停まっている港町だったが、家々が赤や青、黄色といった目を引く色で塗られており、街自体が一つの芸術作品のようだった。
「きっと意味があるんだろうけど、きれいだから細かいことはいっか。この調子でいろんなところにいってみるぞー!」
こうして調子に乗ったスカーレットは、自身の膨大な魔力をいいことにギャンブルで瞬間移動を始める。
はるか下にある急流を見下ろせる巨大な橋。標高八千メートルを超える山の頂上。白や黒の羊たちが放牧されている広大な平原。住民が去り廃墟だけが残った街など、飛んだ先は様々だったがそのどれもが見たことがない風景で彼女はとても満足した。
「世界は広いわねえ。よし、次はどんなところかなあ」
再び転移すると、周りは一面空だった。そして、
「えっ、落ちてる!」
急激なスピードで落下していく。下方から押し上げるような強風を受けながらも、スカーレットは冷静に対応しようとする。
「慌てない慌てない。こんな時はもう一度瞬間移動を、っと。あれ、できない?」
数々の瞬間移動により、さすがの彼女でも魔力が尽きたのだった。その事実にスカーレットは絶望する。
「……やばくない? あーれー……」
そして彼女は大海に沈んだ。
「……なるほどね。いやー、下が海で助かったあ! 地面だったら、どうなってたか」
海に落ち、流れに乗って無人島にたどり着いた状況を理解すると、スカーレットは頭を切り替えた。
「魔力は一日あれば回復するだろうし、今日一日生き延びなきゃ」
無人島に一人ぼっち。常人であれば不安に押しつぶされそうな状況だったが、彼女は違った。昔見ていたテレビ番組の様な状況にわくわくしていた。いや、とってもわくわくしていた。
「まずは水の確保ね。予習はバッチリよ!」
スカーレットは意気揚々と正面に見える山へと足を踏み入れた。
人が入ってこない山は、植物たちが主役だ。至る所で自分が自分がと勢力を伸ばしており、それをかきわけて徒歩で歩いていくには骨が折れる。
「やっぱり草が多くて歩きづらいわね。……燃やすか?」
物騒な考えがよぎるが、魔法は使えない。彼女はため息をはきつつも、足元に気を配って歩いた。すると、目当てのものが見つかった。
「……あった。水が流れた跡だわ!」
苔が生え、小石が散在している溝のような地面が少し濡れている。上流に湧き水がある証拠だ。これをたどっていけば、水源が見つかるはずだ。希望が見えてきたスカーレットは歩く速度を速めた。
しばらく歩いていくと、本当に湧き水はあった。だが、
「……ちょろちょろしか出てない」
よく考えればわかることだったが、道中地面に水は流れておらず、濡れているだけだった。雨などの影響で一時的に水量が増えることもあるだろうが、元々こんなものなのだろう。
それでも貴重な水だ。岩の隙間から流れ出る水を砂浜に流れ着いていた容器に入れ、飲み水を確保した。
「何はともあれ、水確保! 次は拠点ね!」
そこからスカーレットはテレビで得た知識を参考に動いた。
雨を防ぐため、ほら穴に住む狂暴な魔物を腕力で倒し拠点を強奪。食料となりそうな植物やきのこを勘で選別。パワーを武器に、木と木をこすり合わせる原始的な方法で火をおこし、漂流物の鍋に水と食料を入れスープにした。
食事を終えるころには、辺りは闇で覆われていた。たき火にあたりながら、彼女は城のみんなのことを思った。
「みんな、心配してるかなあ……。前に数日帰らなかった時は、じいや、めちゃくちゃ怒ってたしなあ」
なんだかんだ楽しんでいた無人島ライフだったが、静寂に包まれた場所で城のことを思うと急に寂しさがこみ上げてきた。
「……もう寝よう」
火を消し、冷たく硬い地面の上でスカーレットは眠りに着いた。
翌朝、ほら穴に入ってくる朝日で彼女は目を覚ました。
「よし、魔力は大丈夫そうね」
最後にもう一度海を見ておこうと海岸まで歩く。相変わらず山も砂浜も静かで、ここには自分以外の人はいないのだと再確認する。
「……普段見られない景色も良いけど、やっぱりみんながいる城が一番ね」
そうこぼすと、スカーレットは瞬間移動し砂浜から消えた。
城に戻ると、じいやとメイドさんたちがわあわあと騒ぎ、彼女は叱られた。言葉もない彼女だったが、自分を心配してくれていたと思うと悪い気はしなかった。
「本当に今度からは勘弁してくださいよ! って、どうされたのです、スカーレット様!」
あらかた叱責を終えたじいやは、こてんと倒れたスカーレットを起こしながら言った。
「……体がしびれて動かない」
「もしかして、変なものでも拾って食べました?」
心当たりがありすぎたが、また怒られるのが嫌な彼女は「さあ?」とごまかすだけだった。




