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魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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3/29

第3話 魔人スカーレットは人気者に嫉妬する

魔人にはファンが多い。たとえその姿が真実のものでなくても。




数日前。ある街の壁の外。


「やっぱりとんでもないな、魔人の力は」


 平原には氷漬けになった数十体の魔物が残されていた。辺りの空気は冷やされ、地面の草は氷の結晶になっている。冬にはほど遠い時期だというのに男たちの吐く息は白い。


「正直、これだけの魔物が襲ってきたとわかった時は、もう駄目かと思ったぜ。それをベロニカ様が来て、一瞬のうちにこの通りだ。本当に頼りになる」


 魔人ベロニカは氷の魔法を使う。彼女の力をもってすれば、小型の魔物くらいならどれほど多くても相手にならない。


 男たちは氷漬けになった魔物たちのありさまを見て肝に銘じる。決してベロニカの機嫌を損ねてはならないと。さもなくば、氷像になるのは自分たちであると。


 一人の男が我慢できなくなったように口を開いた。


「本当に恐ろしい力だ。でも……」


「でも?」


 男は大きく息を吸い込み、ため込んでいた思いを吐き出すように言った。



「めっちゃ美人だった!」



 その言葉を皮切りに男たちは興奮を抑えきれないように話し出した。


「それな!」「あの人間を見下したような目がたまらない!」「スタイルも良くて、モデルみたい!」「彼女こそ『氷の女王』だよ!」


 次々に飛び交う彼女をほめちぎる声。魔人ベロニカはファンが多い。特に男性には数えきれないほどの彼女の熱狂的な支持者がいた。


「ああ、ベロニカ様。また生で見たいなあ」


「馬鹿! そんなこと言ってたら、また奥さんに怒鳴られるぞ!」


「しょうがねえだろ、本心なんだから。ベロニカ様は普段はどんな感じなのかなあ」


 男たちは魔物の処理をしながら、妄想にふけった。


「きっと、上品で堂々として、みんなから頼りにされてるんだろうなあ」


 このようにして、どんどんベロニカのファンは増えていくのであった。




 日曜日。ベロニカ来訪の日。


「ピンポーン」


 城のチャイムが鳴る。時計を見ると、予定の時間ぴったりだ。


「来た! じいや、ベロニカ来た!」


 じいやが機敏な動きで玄関に向かう。すぐにベロニカと共にスカーレットの部屋にやってきた。


 すらりと伸びた手足。上位の魔人である証の二本の角。何より目を引くのは、氷を思わせる青いボブヘアであった。


「いらっしゃい、ベロニカ!」


 スカーレットは昔なじみの友人に声をかけた。しかし、返ってきたのはたどたどしい声だった。



「……こんにちは、スカーレットちゃん。久しぶり……」



 ベロニカは自分の手をいじいじと触りながら、ぼそぼそとスカーレットにあいさつした。


 やっぱり全然変わってないかあ。スカーレットはため息をつく。


「相変わらず声ちっちゃいわね、あんた。体はあたしより全然大きいのに」


 いつもと変わらぬ手厳しいスカーレットの言葉に、ベロニカは落ち込む。


「……ごめんね、声ちっちゃくて。毎日家で大きい声出す練習はしてるんだけど……」


「やめれ! 親御さんびっくりするわ!」


 なんかずれてるんだよな、この子。これでよく魔物倒せるな。スカーレットはいつも不思議に思う。


 二人の様子を黙って見ていたじいやは、ついに笑いがこらえられなくなり話し出した。


「はっはっは! さすがお二人は息がぴったりでございますなあ」


「笑うな! じいやはさっさとお菓子と紅茶持ってきて!」


 じいやはそそくさと部屋を出て行き、部屋にはスカーレットとベロニカ二人が残された。


 邪魔者がいなくなったことだし、ここで切り出すか。スカーレットは本題を話し始めた。



「ところでベロニカ。あんた、また活躍したみたいじゃない?」



 居心地悪そうに椅子に座っているベロニカは、いまいちピンと来ていないようだ。


「……何の話?」


 彼女は自分の評判には鈍い。いや、興味がないのか……。スカーレットはさりげなさを装って説明する。


「聞いたわよ。魔物数十匹を一瞬で氷漬けにして、街を壊滅の危機から救ったって」


 そこでようやく理解したようで、ベロニカは「ああ」とつぶやいた。



「確かにあったね。でも、あれは人に見られてると思うと緊張するから、早く家に帰るためにやっただけで……」



 そんなことだろうとは思っていた。彼女は緊張しいなのだ。だから、知らない人とはうまく話せないし、目も合わせられない。なるべく目立ちたくないといつも言っている。


 そんな事情を知らない人間たちは、ベロニカを『氷の女王』ともてはやしている。いい気なものだ。


 スカーレットはそんなベロニカの人気を気の毒に思うと同時に、少しうらやましく思っていた。否、すごくうらやましく思っていた。



「……へ、へぇー、そうなんだ。でも、人間たちの役に立てて、人気もあるなんてすごいじゃない?」



 気遣う言葉をかけるスカーレットだったが、ベロニカはそっけない。


「そうでもないよ。私はひっそりとして、なるべく地味に暮らしたい」


 ……なんだかだんだん腹立ってきたな。その時、スカーレットはひらめいた。ちょっといじわるしてやろう。


「あんたの気持ちはわかった。でも、『魔人たるもの人間には敬意を抱かせなくてはならない』もちろんわかってるわよね?」


「……うん、それは知ってるけど……。」


「じゃあ決まりね! これから人間たちの前でスピーチをしてもらいます!」



 彼女の突然の提案に、ベロニカはポカンとしている。



「えっ、ちなみに誰が?」


 スカーレットはにやにやしながら、正面のベロニカを指さす。



「あんたに決まってるでしょうが!」



 そうして、嫌がるベロニカを引き連れて、彼女たちは人間たちの街に向かった。





「みなさん! 今日はこの街を魔物から救ってくれた恩人、ベロニカ様がスピーチをしてくださることになりました!」


 街の広場には特設の講演台が設置され、司会者が観衆に向け経緯を説明していた。魔人の二人はその近くで立っている。


「ご友人のスカーレット様からの提案で、普段私たちと交流がないことを気にされていたベロニカ様のために、このような場を設けてくれたそうです!」


 もちろんスカーレットが適当に考えた理由ではあったが、観衆は盛り上がる。


「スカーレット様、ありがとう!」「これでベロニカ様のお言葉が聞ける!」「生きててよかった!」など様々な声があふれている。


 手を振りながら笑顔で観衆に応じるスカーレットを、ベロニカは恨みがましく見ていた。


「……何よ?」


「……スカーレットちゃんのいじわる。私がこういうの一番苦手だって知ってるでしょ」


 スカーレットの二の腕をつねりながら、ベロニカは言う。


「痛い痛い! ごめんって! でも、あんたのためでもあるんだからね。人見知り、治したいんでしょ!」


 彼女の言う通りではあった。ベロニカだってこのままで良いとは思っていなかった。できることなら、人間たちとも普通に話したい。もしかしたら、これはチャンスかもしれない。


「……もうっ、わかったよ! やってみるよ!」


 ベロニカは覚悟を決め、壇上に上がる。


「それではベロニカ様、みなが待ちわびております! お言葉をどうぞ!」


 彼女はマイクの前に立った。講演台から見える景色は観衆で埋め尽くされている。その熱い視線が全てこちらを見ていた。頭が真っ白になる。だめだ、緊張しすぎで用意していた言葉が出てこない。


「……ベロニカ様、大丈夫ですか?」


 司会者が心配そうに話しかけてくる。……大丈夫じゃない。観衆も不安でざわざわしている。パニックになったベロニカは突然、大きな声を出した。



「静まれ、人間たち! 私は魔人ベロニカ! 私の仕事はおまえたちに言葉をくれてやることではない! お前たちを脅威から守ることだ! だから、ガタガタ言わずに私を信じてついてこればよい!」



 一息でそう言ってのけた彼女に対し、観衆たちは言葉を失った。一瞬ののち、雄たけびの様な歓声が広場を包み込んだ。


「ベロニカ様―!」「最高だよ、あんた!」「かっこいいとしか言えねえ」「一生ついて行きます!」と彼女に対する熱い思いがあちこちで飛び交った。


 我に返ったベロニカは、恥ずかしさのあまり急いで壇上から降りた。火照った顔をしながらスカーレットを見ると、彼女はにっと笑い、ベロニカの背中を叩いた。



「びっくりしたわ。やればできるじゃない!」



 その言葉を聞いたベロニカは、「えへへ」と笑い、満足そうにするのだった。





 数日後。


 人間の国ではベロニカのスピーチが新聞に載り、瞬く間に広がった。魔人としての威厳を感じさせる伝説のスピーチとして取り上げられ、さらに彼女の人気を押し上げるものとなった。


 しかし、その事実がベロニカを委縮させてしまい、彼女はより人見知りをこじらせることになる。


 その一方、スカーレットはと言うと……。



「またあの子が人気になっただけじゃない! ちょっとはあたしの記事も載せなさいよ!」



 とベロニカの人気に嫉妬する日々を送るのであった。


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