第29話 魔人スカーレットはエンディングを見たい
エンディングが見たい! さあ、冒険の始まりだ!
「できましたぞ!」
休日の朝、じいやがスカーレットの部屋に飛び込んできた。
「だから、ノックくらいしろっての!」
寝起きの彼女は、朝からハイテンションのじいやの声で頭がガンガンした。
「申し訳ございません。徹夜で作っていたゲームが完成して、つい興奮してしまいました」
「……いいかげんいい年なんだから、ちゃんと寝なさいよね。って、ゲーム?」
よく見ると、彼の手にはケースの様なものが握られている。
「はい。実は趣味でインディーゲ―ムを作っていまして……」
インディーゲーム。個人もしくは少人数で開発された低予算で作られたゲームのことである。クオリティは大手のゲーム会社には及ばないものの、開発者の趣味や好きを詰め込んだものが多く、その魅力にはまってしまう者は少なくない。
「へええ、相変わらず何でも作れるわね。ちょっと興味あるかも。どんなゲーム作ったの?」
「王道のRPGです」
スカーレットはじいやからゲームが収められているであろうケースを受け取る。
「いいじゃない! タイトルは『ラストドラゴンズ』」
「『ラスドラ』と略してください」
「はいはい、わかったから。……とりあえず朝ごはん食べてから、さっそくやってみるわ」
彼女の反応に満足し、じいやは朝食の準備に向かって言った。
朝食後。
「それじゃあ始めますか」
ケースを開き、ゲームソフトを探す。しかし……。
「あれ? 入ってない。ちょっとじいや来てー!」
すぐにじいやがやって来て言った。
「すみません。ケースは飾りで、ゲームは入ってないんでした。スカーレット様のPCにゲームを入れるので少々お待ちを」
すると彼は慣れた手つきでPCを操り、彼女に遊び方を教えた。
「ふーん、パソコンでゲームする時代なのね。勉強になるわ」
「……スカーレット様、だいぶ前からできますよ。たまにおばあちゃんみたいなこと言いますね」
「うっさいのよ、じいさんのくせに! 準備できたなら、出てった出てった!」
コントローラ―を奪い取りじいやを部屋から追い出すと、スカーレットは待ちわびたゲームを開始することにした。
「よーし、スタート!」
ゲームを起動すると昔のゲーム特有のピコピコ音が流れ、ドットで作られた『ラストドラゴンズ』というタイトルが表示された。
「なるほど、レトロゲーム風ってことね。最新のゲームをたしなむあたしを楽しませられるかしら!」
始めに主人公の名前の入力があった。
「勇者、魔法使い、僧侶の三人ね。もちろん勇者はあたしだから……」
スカーレット。そう打ち込もうとした。だが、
「すかーれ……、ん? 打てない?」
どうやら四文字までしか入力できないようだった。
「なんでよ! そんなとこまでレトロゲームみたいにしなくてもいいじゃない! はい、クソゲー決定!」
コントローラーを投げ捨てそうになるのをこらえ、妥協し進める。
「……しょうがない。『すかれと』これにしよう。魔法使いは『そにあ』、僧侶は『べろにか』っと」
名前が決まり、ストーリーが始まった。城の中の王様は言う。
『よく来た、勇者すかれとよ。お前たちにはこれから魔王を倒しに行ってもらう』
「何か偉そうなのよね。本当に人間がこんな風に言ったら、魔法をぶち込んじゃうかも……」
ぶつぶつ文句を言いつつ、ゲームを進める。
『しかし、何人もの勇者を送り出したこの国には、もうお金がない。だから昼ごはん代に百Gだけやろう』
「しかもケチだ」
城を後にして街に進める。ゲームの鉄則は装備を整えるところからだ。武器屋を探し、店員に話しかける。
『いらっしゃい。どれにする?』
「とりあえず、安いやつでいいか。どれどれ……」
装備品を見ると、一番安い武器でも二百Gだった。
「買えないんかい! わかったわよ、モンスターを倒せばいいんでしょ!」
スカーレットは街から外に出て、モンスターを倒してお金を稼ぐことにした。キャラクターを動かしていると、すぐに戦闘になる。定番のゴブリンだ。
「出たわね。とりあえず全員『こうげき』で」
入力を終えると、すかれとが攻撃した。
『すかれとのこうげき。ゴブリンに百六十四のダメージ。ゴブリンはたおれた』
「すかれと強すぎでしょ! ゲームバランスどうなってんのよ!」
その後もじいやが作ったゲームは突っ込みどころが満載だった。それでもスカーレットは文句を言いつつも、先が読めない展開のとりこになっていった。土曜日、日曜日とゲームを進めていき、日曜の夕方、ついにラスボスを倒すに至ったのだった。
夕食後、感想を聞きたくてうずうずしていたじいやはスカーレットの部屋に訪れる。
「どうでした、私の作ったゲーム?」
じいやの問いかけに、スカーレットはすぐには応じなかった。もしかして面白くなかったのではないか、彼が不安に思いかけた時、せきを切ったように彼女は語り出した。
「結論から言うわ、『神ゲーである』と。予想ができない展開、プレイヤーにストレスを感じさせないプレイ感、何よりキャラクターたちそれぞれに背景があって奥行きがある物語! ラスボスの魔王がドラゴン最後の末裔で、勇者たちとも血がつながっている。つまり、勇者たちと魔王は同じドラゴン! 本来は協力し合えるはずなのに戦わなくてはならない。最後に勇者たちは魔王を倒し、最後のドラゴンとなる。つまり『ラストドラゴンズ』見事なタイトル回収ね!」
一息でそこまでしゃべると、スカーレットはじいやに握手を求めた。
「ありがとう、このゲームを作ってくれて」
「う、う、うああああ!」
彼は握手に応じつつ、反対の手で大粒の涙をぬぐった。クリエイターとして、これほど嬉しいことはない。
「でもね、残念なことがあるのよ。魔王を倒して、世界を救った。何だか目標を失っちゃったみたい。つまりロスよ」
肩を落とすスカーレットに、冷静さを取り戻したじいやは笑いながら言った。
「スカーレット様は毎日、人間たちの世界を救っているではありませんか」
「! ……それもそうね。よーし、明日からまた仕事がんばるぞー!」
それからの一週間、スカーレットはちょっとだけ仕事をがんばった。
作品タイトルをカクヨム版と同じに変更しました。




