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魔人スカーレットは過労でしんどい   作者: 鳴尾リョウ


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第27話 魔人スカーレットは大大吉

 今年はきっと大大吉! ……大吉じゃなくて?




 お正月。スカーレットはベロニカ、ソニアと共に初詣に来ていた。


「やっぱり初詣はいいわね。なんだか空気が澄んでいる気がするわ」


 地元の神社の境内には普段とは異なり、大勢の人々が詰め寄せていた。冬の寒い時期にも関わらず、子どもたちは元気に駆け回っている。


「そうだな。『一年の計は元旦にあり』とも言うし、年の初めに神社に来て心を清めるのも悪くない」


 鳥居をくぐる際にきっちりと礼をし、手水で手と口を清めたソニアが言った。スカーレットは適当に済ませたが、真面目なベロニカは同じように真似をしていた。


「新年早々、言ってることが固いわね、あんたは」


「ふん、お前がいいかげんなだけだろう」


「……なんですって?」


 顔を近づけ合い今にも小競り合いが起こりそうなのを察し、ベロニカが神社の方を指しながら言う。


「ふ、二人ともけんかしないで……。とりあえず参拝済ませよう……」


 彼女の言葉を聞き、二人も新年早々もめたくないので大人しく従った。ベロニカはほっと胸をなでおろし賽銭箱に向かった。


 三人で列に並ぶとすぐに順番が来た。お賽銭を入れ、鈴を鳴らす。からんからんと小気味よい音が鳴った。大人になっても、鈴を鳴らすのは楽しい。


 ソニアがスムーズに作法をこなし、ベロニカもそれにならう。一方スカーレットは「二礼二拍手一礼。二礼二拍手一礼」とぼそぼそ呟きながら、なんとか無事にお参りを済ませた。


 列から出て、待ってましたとばかりにスカーレットは二人に話しかけた。


「さてと、お参りも済ませたことだし、おみくじ引きましょうか!」


 彼女にとって初詣はおみくじがメインだ。おみくじを引くためだけに、寒い中足を運んでいるといっても過言ではない。


「そうするか。ベロニカもそれでいいか?」


 ソニアに問われベロニカがこくりとうなずくと、三人で社務所に向かった。


 社務所にはたくさんのお守りが置かれていた。健康、金運、縁結び。小さい袋に金色の文字で願いの種類が書かれている。


「さて、おみくじは……。ん? スカーレット、何かお守りを買うのか?」


 ソニアはこそこそと袋にお守りを入れてもらっているスカーレットに尋ねた。


「べ、別に何でもいいでしょ! プライバシーよ!」


「どうせ金運のお守りだろ。本当に欲張りなやつだな」


「うるさいってのよ! ……さ、おみくじ引くわよ!」


 スカーレットは受け取ったお守りを隠すようにしまう。そして、改めてお金を払い、木製のおみくじ箱をしゃかしゃかと振った。中から先端に『三十一』と書かれた棒が出てくる。


 巫女のお姉さんに数字を告げ、おみくじの細長い紙を受け取った。ソニアとベロニカも同様に結果を受け取る。


「なになに……、『中吉』か。まあ、悪くはないな」


「……私は『末吉』だったよ。スカーレットちゃんは?」


 二人はおみくじを見るなり、黙り込んだスカーレットに声をかける。おそらく『凶』でも引いたのだろう。ごねて「もう一回引く」とでも言い出すに違いない。そう思っていたが、予想外の言葉が返ってきた。


「……。『大大吉』なんだけど……」


「えっ!」「えっ!」


 困惑している彼女の手からおみくじを受け取り、ソニアとベロニカはまじまじとそれを確認した。『大大吉』確かにそう書かれている。


「本当だ。こんなの初めて見た……」


「すごいよスカーレットちゃん! 良かったね!」


 二人は興奮した様子でそう言ったが、当のスカーレットはあまり喜んではいなかった。


「……どうしたの? うれしくないの?」


「うーん、うれしいんだけどね……。なんだかその……、逆に怖くない?」


 彼女の言い分はこうだ。運は良い時もあれば、悪い時もある。『大大吉』の反動で何か悪いことが起きるのではないか。そういうことだった。


「考えすぎだろ。よし、それならスカーレット。今日の昼ごはんは私がおごってやる」


「いいの! やったー! ありがとう、ソニア!」


 さっきまでとは違い、スカーレットはすっかり元気を取り戻した。だが、神社を出てすぐに彼女は違和感を覚えた。


「あれっ、なんだろう? ……靴にガムが付いてる……」


 そこから不運は続いた。


 お正月ということもあり、営業している飲食店はなかなか見つからなかった。ようやく見つけた店も、人がいっぱいで入ることができない。


「もう五件目だ。こんなに断られるとは……」


「……やっぱり、おみくじが……」


「ベロニカ! やめるんだ!」


 ソニアがちらりとスカーレットを見ると、彼女は手に持っているおみくじを真剣な顔で凝視していた。


 まずいな。このままでは……。歩き疲れどんよりした空気を変えるため、ソニアは提案した。


「カラオケに行こう! フードメニューもあるはずだし、盛り上がるぞ!」


 二人もうなずき、近くにあったカラオケに入ることにした。


 受付は混んでいたが、なんとか三十分程待ち部屋に入ることができた。昼時は過ぎていたので三人はすぐにフードメニュ―を見る。うどんやパスタ、ピザとポテトフライ。好きなものを選び、受話器を取り注文する。だが、ここでも不運が襲う。


「すいません。今日はうどんがないんです……」


「あたしのうどんが……」


 代わりにパスタを注文したが、スカーレットはしょんぼりしている。さすがにソニアも気の毒に感じていたが、なんと声をかけていいかわからなかった。


 注文した料理を食べ誰が最初に歌うか決めようとしたところ、しばらく黙っていたベロニカが勢いよく手を挙げた。目立つことが嫌いなベロニカの意外な行動に驚く二人だったが、彼女が入れた曲にもまた驚く。なぜなら普段の彼女なら絶対に入れないパリピ御用達の曲だったからだ。


 ノリが良い音楽に俺様系の歌詞。心配そうに見守った二人に、顔を赤らめ恥ずかしそうに歌い切った後、ベロニカは言った。


「元気出してよ、スカーレットちゃん! おみくじなんて気持ち次第だよ!」


 彼女の言葉に心を打たれたのか、スカーレットはすっと立ち上がり宣言した。


「……確かにその通りだわ! よーし、歌うわよー!」


 そこから三人は好きな曲を好きなだけ楽しんだ。

 


 辺りも真っ暗になり、寒さで指先が冷たい帰り道。元気を取り戻したスカーレットが並んで歩く二人に何かを差し出してきた。


「これ、あげるわ」


 受け取る二人は街灯の下で渡されたものを見た。そこには『縁結び』と書かれていた。


「じいやの健康祈願のついでに買っといたのよ」


 照れくさそうに言うスカーレットを、二人はにやにやしながら見た。すると、何も言ってこないことでさらに恥ずかしくなったのか、彼女は続けて言った。


「ま、あたしたちの縁は『腐れ縁』だけどね」


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