第25話 魔人スカーレットはコンセプトを重視する
コンセプトを重視する。……コンセプトって、何だ?
カブトの一件があり、じいやはお詫びとして特別に休暇がもらえた。
「久しぶりに来ても、ここは心が躍るな」
ごちゃごちゃした街並み。派手な看板。たくさんの荷物を抱えた人々。人間界の電気街は今日も騒がしく、熱気に包まれているような感じがする。
昔に比べると、自分が通うような電気部品の店は数が少なくなった。その代わりに人間たちに人気のアニメやマンガの店が増えた。私もそれらは大好きなのだが、昔ながらのマニアが通う店がなくなっていくのには寂しさを感じる。……これも時代の流れか。
無骨な店構えでパーツがいたるところに置かれている店に着く。ここはずっと変わらない。目的の部品を探すため、狭い通路を奥へと入っていく。
「……これとこれも買っておくか。念のためこれも」
かごの中に部品をどんどんと入れていく。足りなくなったら困る。自分に言い訳をしつつも、それらでどんなものができるか考えるとわくわくした。
「これなら何でも作れそうだ。……スカーレット様専用パワードスーツを作ってみるか?」
冗談もほどほどに不愛想な店主相手に会計を済ませ、店を出ようとする。通路の先には部品屋に似合わない親子連れが立っていた。子どもはまだ小学生くらいだろう。私も大好きなアニメ『装甲機兵ガンバトラー』の服を着ていた。
自分と五十歳は離れているであろう子どもも同じ作品を愛している。嬉しい気持ちになりながら、「ちょっと失礼」と片手を挙げ親子の横を通り抜けた。店の外まで出たが、二人の様子が気になり中を振り返る。
「ねえお父さん、コンデンサって何?」
子どもが透明な引出しから小さな部品を取り出しながら、父親に尋ねている。そのやりとりを見て私は、「うん、この店はきっと大丈夫だ。」そう考え、店を後にした。
その後も何軒か店をはしごして、紙袋の中はパンパンになった。これだけ買うとさすがに重い。手も疲れてきたことだし、どこか座れる店に入りたい。そう思っていたら声をかけられた。
「カフェの席空いてます! 良かったらどうぞ!」
手に看板を持った若い女性だったが、姿を見てじいやは驚いた。
「えっ、魔人!」
彼女の頭には上位の魔人の証である長い角が生えていた。服装も人間たちのものとは異なり、まるで本当の魔人のようだった。
「そうですー! 最近オープンした『魔人カフェ』ですー!」
……魔人カフェだと。何だそれは?
そういえば、部品屋の店主が話していたな。「あんたの同類みたいな店ができた」と。この店のことか……。
じいやは珍しく腹が立っていた。魔人とは人間から尊敬され、畏れられるもの。スカーレットの頑張りを近くで見てきた彼だからこそ、コスプレのようなものに違和感を感じたのだ。
これは責任者に文句を言ってやらなくては。じいやは派手な看板の店の中に入っていく。
店内は魔人が住む城の様な内装になっていた。イスやテーブルも高級品のようで、魔人のイメージにぴったりだ。いわゆる『コンセプトカフェ』というやつで、店内やキャストも一つの世界観で統一され、対象に対してしっかりと理解したうえで営業しているようである。
キャストの女性たちは魔人になりきり接客をしており、客たちも楽しそうだ。……いかん、私がしっかりしなければ。いつも必死で威厳を持って働いているスカーレット様に申し訳ない。入口付近で考えていると、手が空いていたキャストの女性が近づいてきた。
「ようこそ、魔人カフェへ! ……って、じいやじゃない!」
「! スカーレット様! なぜここに!」
いつもの仕事着で身を包んだ、魔人スカーレット本人がそこに立っていた。
テーブルに着き注文をすると、彼女は理由を話してくれた。自分が出かけた後、スマフォに連絡があったのだという。以前カフェで知り合ったお団子ヘアの店長からだったのだが、またしてもバイトが急用で人手が足りないとのこと。召喚に応じ来てみると、ここだったらしい。
「前のカフェはどうなったのですか?」
じいやが疑問をぶつける。
「順調みたいよ。なんでコンセプトカフェも始めたか聞くと『多角経営ですー』だって」
そう言って彼女がいったんテーブルを離れると、じいやは自分の怒りが引っ込んでしまったことに気づいた。あの店長、魔人の召喚といいホント何者なんだ? それにスカーレット様も楽しんで働いているみたいだし……。
なんだかどうでも良くなっちゃったな。魔人カフェ、楽しもう! 彼は頭を切り替えることにした。
注文したものを待つ間、周りからは楽しそうな会話が聞こえてきた。「今日は何してた?」「最近、これにハマってて……」「ありがとう、なんか元気もらった!」とキャストと客の弾んだ声で店は活気づいている。
しばらくして、注文した品を両手に持ってスカーレットが戻ってきた。
「はい、魔人コーヒーと魔人ホットサンドね!」
テーブルにそれらが置かれると、じいやは店内の様子を彼女に話した。
「いいお店みたいですね。キャストも客もみんな楽しそうです」
スカーレットはふふんと胸を張り答える。
「でしょ! ここにはキャストの子たちに粘着したり、連絡先聞いたり、つきまとったりする不届き者はいないのよ!」
「……なんか熱が入ってますね。ところでメニューにある『詠唱』って何ですか?」
彼はメニューを彼女に見せながら聞いた。
「ああ、それね。メイドさんたちがよくやる『もえもえキュン』みたいなやつよ」
聞いたことがある。メイドカフェではおまじないを料理に唱えると、味が何倍にも増しておいしく感じるのだと。
「せっかくだし、やってあげるけど。……そうだ! どうせなら本当に私が詠唱で料理を温めておいしくしてあげる!」
詠唱って、魔物相手にするホントのやつを?
彼は危険を感じ「さすがにそれは……」と止めようとするが、スカーレットは聞く耳を持たない。
「遠慮しなくてもいいのよ、ちゃんと加減するから! 『深淵にて燃え上がる呪詛の炎。いまひとたび出でて、焦土と化せ インフェルノ!』」
彼女はホットサンドに向かって、詠唱を始めた。そして、もちろんうまく加減などできず爆発する。ホットサンドは跡形もなく消し飛び、じいやの顔は真っ黒こげになった。
「……ケホッ!」
「……えっと、ごめんね?」
騒ぎを聞きつけた店長が奥から飛んできた。そしてひきつった笑顔で言う。「スカーレット様、ちょっと……」
結局その後、スカーレットは店の奥で掃除や雑用をすることになった。
日が沈んだ頃、じいやはスカーレットの仕事が終わるまで待ち、二人で帰ることにした。
「じいや、今日は本当にごめんね」
「もういいですよ。それに今日は学びもありましたし……」
首をかしげるスカーレットだったが、彼はそれ以上何も言わなかった。
街も店も常に新しく変わっていく。それでも、変わらないものや楽しい時間はそこにきっとあり続けるのだろう。




