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魔人スカーレットは過労でしんどい 〜異世界最強の魔人ですが少しお疲れ気味なので、休日くらいは楽しく気ままに過ごしています〜  作者: 鳴尾リョウ


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第24話 魔人スカーレットはカブトを逃がす

 魔人だってカブトは好き。あなたはさわれる?




「じいや、借りてたマンガだけど……」


 じいやの部屋に勝手に借りていたマンガを返しに来たスカーレット。だが、彼の姿はない。


「いないわね。まあ、置いておけばいいでしょ」


 テーブルにマンガを置き、部屋を出ようとしたところで気になるものが見えた。タンスの上に何やら透明なケースがある。中には底面を覆うくらいの土、丸太の様な木。そして、


「これ、カブトムシじゃない」


 光沢のある黒色をした立派な角をしたカブトムシがそこには入っていた。おそらく角が長いから雄だろう。虫に詳しくない彼女でもそれくらいはわかった。


「そういえば、じいやがメイドさんに自慢してたっけ。ったく、ホント趣味が多いんだから」


 スカーレットは虫が苦手だ。動物は好きだが、虫となるとさわるのが怖い。行動が読めないからだ。一番苦手なのは、突然動いたり羽ばたいたりする時である。


 そんな彼女だったが、目の前のケースの中のカブトムシには惹かれるものがあった。堅そうな体。強そうな角。多くの人間を魅了してきただけあり、ついついじっと見てしまう。


「……かっこいいわね。もしかしたら、これならさわれるかも……」


 カブトは甲虫というグループの昆虫で、堅い体が特徴である。幼虫の時は芋虫のようで、さわるなんてとてもできそうにないが、この見た目ならいける気がする。


 覚悟を決めて、ケースのふたを取った。カブトは丸太に乗って大人しくしている。


 いざさわろうとするが、どこを持てばいいのかわからない。多分、一番堅そうな角を持ったらいいんだろうけど。


 スカーレットがまごついている間に、カブトはえさとして置かれていたゼリーを食べ始めていた。あっ、カブトってゼリー食べるんだ。きっと虫用のゼリーなんだろうけど。


 彼女は結局、カブトがえさを食べ終えるまで見ているだけだった。勇気が出ない自分にため息が出る。


「はあ、やっぱりさわるなんて無理かも。そうだ、ふたをしとかないと……」


 テーブルに置いておいたふたを取りに行く。今度じいやがいる時にもう一度挑戦しよう、そう考えながらふたを手に戻りケースを見た。だが、先ほどまでいたカブトの姿がない。


「あれ? どこいったの?」


 元々、土や木と同じ色味のため見にくいカブトだ。最初はどこかに隠れていると思っていた。しかし、いくら探してもカブトはいない。彼女は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「……やってしまった。カブトが逃げた……」


 虫の行動は読めない。そんなことはわかっていたはずなのに……。


 スカーレットは焦った。どうしよう、じいやが帰ってくるまでにカブトを見つけなければ……。まだこの辺りにいるはず。まずは捕獲のための網だ!


 部屋を見渡すと、虫取り用の網が立てかけられている。いい年をしたじいさんなのになぜこんなものが部屋にあるのか。彼女は不思議に思ったが、今は大いに感謝した。これでさわらずに捕まえられる。


 あとはメイドさんたちに手伝ってもらえば……。いや、だめだ。それではあとでじいやに彼女がカブトを逃がしたと報告するだろう。そしたら怒られる。


 一人で見つけるしかない。スカーレットは網を強く握りしめ誓う。


 カブトが逃げたのは不幸な事故だったが、天は彼女を見放さなかった。不幸中の幸いであったのは、部屋の扉を閉めていたことだった。そのおかげで、カブトはこの部屋の中にいることは確かなのである。


「扉を閉めてて良かった。城の中を全部探すなんて不可能だもんね。過去のあたしをほめてあげたいわ」


 元はと言えばふたをきちんと閉めておかなかったのが原因だが、彼女はそんなことは気にしなかった。


 スカーレットは部屋を見渡した。天井、壁、床。パッと見た限り、どこにもカブトはいない。どこかの物陰に隠れてしまったのだろう。彼女は一つずつ動かしながら確認していく。


 プラモデルを飾っている棚、本棚からはみ出すくらいのマンガ本、作りかけの怪しい機械。とにかく彼の部屋にはものが多い。


 何度も何度も隙間を確認していき、そのたびに彼女は見落としがないようにものを動かした。そして、ついにこらえられなくなり叫ぶ。


「だあー! ものが多い! こんなんで探すなんて無理!」


 いっそ部屋を吹き飛ばして、更地にするか。物騒な考えに走りそうな自分を必死に抑える。どうしよう、このままじゃ……。


「あれっ、どうしたんですかスカーレット様?」


 ついにじいやが帰ってきてしまった。スカーレットは手に持った網を背後に隠し答える。


「えっ、ああその、借りてたマンガを返しに来たのよ!」


 動揺する彼女をじいやは疑わし気に見た。だめだ、じいやは騙せない! スカーレットは手にした網を前に差し出し、正直に打ち明けた。


「カブトを逃がしたですって? それでその網ですか……。……わかりました。お説教はあとでみっちりするとしてまずは二人で探しましょう」


「うぅ、じいやありがとう」


 じいやは無言でうなずくと、ケースがあるタンスの方に向かった。


「質問なのですが、ケースの中はちゃんと確認しましたよね?」


「もちろん! 何度も何度も見たわ!」


 じいやは彼女の言葉を聞き、念のため自分も中を確認することにした。疑うわけではないが、もしかしたら……。彼には一つの考えがあった。ふたが開けっぱなしになっているケースをのぞくと、じいやはふっと息をもらした。


「……じいや?」


 スカーレットがうかがう様に聞くと、じいやははっはっはと声を出して笑い出した。彼女が不思議がっていると彼は話し始めた。


「スカーレット様がいいかげんなおかげで、カブトが帰ってきてましたよ!」


 彼女は驚き、ケースの中を見た。すると逃げたはずのカブトが丸太の上にいたのである。


「良かったー! 戻ってきて! ……待てよ、これはあたしがふたを開けていたのがファインプレーだったのでは?」


 安心したからか、彼女は調子に乗ってそんなふうに言った。もちろん、その後じいやにこっぴどくお説教を受けることになる。


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