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魔人スカーレットは過労でしんどい 〜異世界最強の魔人ですが少しお疲れ気味なので、休日くらいは楽しく気ままに過ごしています〜  作者: 鳴尾リョウ


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第23話 魔人スカーレットはガターばっかり

 どうしてもストライクを取りたい。どうしてもだ!




 騒々しい音が響く場内にスカーレットはいた。


「たまにはボーリングもいいかもね」


 受付を済ませシューズを履き替えた彼女は、広い空間を見渡しながらそう言った。


「ああ、そうだろう。もちろん勝つのは私だがな」


 ソニアもいそいそと濃い色のボーリング玉を持ってきながら話す。もう選んできたのか。そんなに急がなくてもいいだろうに。


「ふん、そんなこと言ってられるのも今のうちよ!」


 スカーレットは負けてられないと、自分用のボールを選びに向かった。




 数日前。


「今度、ボーリングに行かないか?」


 珍しくソニアから電話がかかってきた。どうせ何かしらで勝負を挑んでくるのだろうと思っていたが、案の定だった。


「……別にいいけど、二人で?」


 ボーリングでソニアと二人……。おそらく、いや絶対にもめる。そんなことはさすがのスカーレットも理解していた。


「……そうだな、別に私はそれでもかまわないが……。他に誰か呼ぶか?」


 うーん、誰かと言われても……。友人はベロニカくらいしかいないが、彼女は人見知りだから難しいだろう。結局、じいやを連れて行くと答え、電話を切った。


 それにしてもボーリングかぁ。一抹の不安が心をよぎった。


 そんな時、ちょうどじいやが部屋をノックしてきた。


「スカーレット様、すみません。私のマンガ、勝手に持っていきました?」


「じいや、ちょうどいいところに! そんなことより、今度一緒にボーリングに行くわよ!」


 スカーレットは彼の質問を無視し(マンガは読みかけだった)、無理やり予定を決める。じいやは了承したが、心配そうに尋ねてきた。


「ですが、スカーレット様。確かボーリングは苦手では?」


 そうだ。自分はボーリングが苦手だ。以前じいやと行った時はガターばかりで、ちっともスコアが振るわなかった。


「そうなのよね……。でもまあ、大丈夫よ! あたしもきっと成長してるはず……」


 あっけらかんと言い放ち、不安そうな彼に向かって親指を立てた。それにもしもの時は考えがある。念のため彼女は、「ボーリング」「上手くなるには」と検索し、当日までにイメージトレーニングをすることにした。




「……一ゲームが終わったが、泥仕合だな」


 意気揚々と試合を開始した二人だったが、一ゲーム目のスコアはスカーレット四十四、ソニア四十二と散々なものだった。


「くう、あんなにイメトレしたのに……。全然ダメだった」


 落ち込むスカーレットだったが、隣のソニアも似たようなものだった。お互い同レベルの下手さだったのだ。よくそんな腕前で誘えたなと一周回って感心する。


「まあまあお二人とも、そう気を落とさず」


 二人と対照的にじいやは弾んだ声でドヤ顔をしている。彼のスコアは百八十ととんでもなく高スコアだった。……ホント何でも器用だなこのじいさん。


「うっさいのよ! 調子に乗るな!」


 忖度という言葉を知らない執事をポカポカと叩き、スカーレットは怒りを表す。ソニアの方も悔しそうにうなだれていた。


 だが、スカーレットは内心笑みを浮かべてもいた。これならプランBが使える。


 一ゲームを終え、休憩しようとなったところでソニアがジュースを買いに行った。すると、今だとばかりにスカーレットはじいやの耳に口を寄せる。


「……じいや、今のうちにあたしの代わりに投げて」


「! スカーレット様、それはさすがに……」


 計画は最初から始まっていた。彼女は自分の番を一番目にするため真っ先に機械に自分の名前を打ち込んだ。これはゲーム終わりに、ソニアが席を外すことを想定していたためだ。案の定、彼女は今ここにはいない。急いで次のゲームを始めてしまえば、替え玉はばれない。


「いいから早く! 戻ってきちゃうでしょ!」


 勝つためには手段は選ばない。それがソニアとの戦いで決めていたルールだった。絶対に彼女には負けたくないのだ!


 じいやは気が進まなかったが、急いでボールを手にレーンに立った。息を整えて、振りかぶり投げる。ボールはきれいな曲線を描き、カコカコーンと気持ちの良い音を響かせピンを全て倒した。


「ストライク!」


 レーンの上部にあるモニターには愉快な映像と共にそう表示された。


「じいや、さすがね! すごいじゃない!」


「はあ、お役に立てたなら良かったです……」


 ズルに加担した彼は不満そうに言う。そこで、ジュースを買ってソニアが戻ってきた。


「すまん、自販機がどこかわからなくて……、ってストライク!?」


 モニターに表示されている二つの三角マークを見て、彼女は驚いた。


「まあね。ざっとこんなもんよ」


 悪びれることなく言うスカーレット。そんな彼女を見て「情けない」とばかりにじいやはため息をついた。そんなことを知らないソニアは、興奮したようにスカーレットに向かって両手を出してきた。


「えっ、何よ?」


 戸惑う彼女に、ソニアは嬉しそうに言った。


「だってストライクだぞ! 勝負とはいえ、すごいことはたたえるべきだ!」


 にこにこと笑う彼女の顔を見て、スカーレットは胸が痛くなった。勝つためにズルをした自分が恥ずかしい。……やっぱり、本当のことを言った方がいいかしら?


「……あのね、あのストライクは……」


「すみません、ソニア様。あれは私がスカーレット様の代わりに勝手に投げたのです」


 スカーレットの言葉をさえぎる様に、じいやが割って入った。


「えっ、そうなんですか! 言われてみれば、スカーレットがストライクを取れるはずがないか」


「申し訳ありません。つい出しゃばったことをしてしまいました」


 彼女に頭を下げながら、じいやは言った。ソニアも納得したようで、機械を操作し点数をゼロにしてゲームを再開することにした。



 ボーリングが終わりソニアと別れると、スカーレットはじいやに今日のことを尋ねた。


「ねえ、何であんなこと言ったの?」


「ああ、スカーレット様のズルをかばったことですか? あれは私もいけなかったですから」


 彼は大したことではないと、苦笑いしつつ返事をした。「でも」と食い下がろうとする彼女にじいやはこう続けた。


「それにボーリングで大切なのは二投目です。失敗を反省し、どうカバーするか。それが大事なのです」

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