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魔人スカーレットは過労でしんどい 〜異世界最強の魔人ですが少しお疲れ気味なので、休日くらいは楽しく気ままに過ごしています〜  作者: 鳴尾リョウ


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第20話 魔人スカーレットはもう少し眠りたい

 もう少し眠りたい! 二度寝厳禁!




「あーもう、うるさいわね! じいやは小言が多いのよ!」


「スカーレット様が私の話を聞かな過ぎるのです!」


 朝からしょうもないことでスカーレットとじいやはもめていた。いつものことなのでメイドさんたちは誰も仲裁には入らず、淡々と仕事をこなしている。


 今日は目覚まし時計が鳴らず、朝寝坊したスカーレットにじいやが注意をしたことが原因だった。


「たまたま電池が切れてただけじゃない! 本当なら一人で起きられますー!」


 彼女はあおるように変顔をしながら、じいやに言った。


「どうですかな? 私が起こさないと永遠に眠っていそうな気がしますが?」


 彼の方も大人げなく言い返すと、スカーレットはさらにヒートアップした。


「なによ! じいやなんてメイドさんにいきってるだけの、カッコつけじいさんのくせに!」


「なんですと!」


 収拾がつかなくなったところで、スマフォに着信が入る。


「はいはい召喚ね。あーあ、じいやと違ってあたしは忙しいからなあ」


 スマフォのボタンを押すと、じいやの見守りカメラとともにスカーレットは瞬間移動していった。


「まったく、本当に困った人だ」


 じいやは少しの間モニターに映る彼女を見ると、仕事に戻った。




 召喚に応じ、魔物討伐にやってきたスカーレット。後方についてくるカメラを煩わしく感じながら依頼の詳細を召喚士に尋ねる。しかし、危機が迫っている様子はない。


「どうしたんです? 魔物に襲われているのでは?」


 若い男性の召喚士に聞くと、彼は頭を下げながら言った。


「申し訳ございません、スカーレット様! 魔物に襲われているというのは嘘なんです!」


 嘘? それならばなぜ自分は呼ばれたのか。魔人を呼び出すのには相応の魔力が必要だ。彼は見たところ若いが優秀な召喚士なのだろう。理由もなく呼び出すようには見えない。


「それではなぜ私は呼ばれたのでしょうか?」


 内容によっては罰を与えなくてはならない。人間が魔人をほいほい呼ぶなど本来あってはならないからだ。……いや、結構雑に呼ばれているような気もするが。


 すると彼は真剣な表情で詳細を語り始めた。


 この街から少し行った森に怪しい人影を見た者がいた。その人物は召喚士の友人であったため、召喚士は詳しく話を聞いたのだと言う。


 友人は森に狩りに出かけていた。大物を狙うため普段より遠くの森に足を運んだという。獲物を探していると、茂みからカサカサと音が聞こえた。獣だと思い弓を構えながら近づくと、どうやら人のようだった。


 しかし、装備を何も持たず森に一人でいることを不思議に思い、声をかけようとしたところで、その人影は消えていった。話はおおむねこんなところだった。


「どう思われます?」


 召喚士はスカーレットに尋ねた。


「そうですね……。それくらいなら大したことはなさそうですが……」


 彼女の返事を聞くと、彼は肩を落とした。


「周りの反応も同じでした。『気にしすぎだ』『どうせ食料でも探してたんだろ』という意見がほとんどでした。でも、私はどうしても気になるのです。スカーレット様、どうか調査をお願いできませんか?」


 必死の嘆願にスカーレットは考え込んだ。自分が出張る程の案件とは思えない。それでも目の前の青年がここまで言っているのだ。調査くらいなら行ってもいいのでは?


「わかりました。今から向かってみます」


「本当ですか! ありがとうございます!」


 彼は体が折れ曲がるくらいに頭を下げる。そんな様子にスカーレットは感心しつつ、『どうやらすぐに片付きそうだ』とも考えていた。だが、そんな時は大概面倒なことになる。




 召喚士と別れ、彼女は噂の森までたどり着いた。木々が生い茂っているだけのただの森である。何ら不思議なところはなさそうだった。


「……普通の森ね。ちょっと調べたら、報告して帰ろうっと」


 野生の動物たちはところどころいたが、魔物は見当たらない。数十分ほど歩き回り、足が疲れてきたのでそろそろ帰ろうかと思った頃、前方の木の間に何かが見えた。


「あれ? 今誰かいたような?」


 人影の方に近づいていくと、突然向こうから飛び出してきた。


「えっ、ちょっと……!」


 反撃も間に合わず、彼女は向けられた手から目が離せなくなった。マズい、これは魔法だ。意識がもうろうとなり、視界が暗くなるのを感じながらスカーレットは倒れた。




「はっ、ここは」


 目が覚めたら、城のベッドの上だった。


「やっと起きましたか、スカーレット様」


 側にじいやが立っていた。あれ、森にいたはずなのに……。


 混乱する頭で思い出そうとしていると、彼が心配するように話しかけてきた。


「魔物に襲われたのです。そこから眠ったままで、もう日曜日です」


 日曜日。つまり数日はベッドの上だったということか。……なるほど、体がうまく動かせないのはそのためか。


「……油断したわ。まさか眠らされるなんてね」


 なんとか起き上がりながら言うと、彼は静止しながら優しくほほ笑んだ。


「スカーレット様はいつもお疲れですからね。少しくらい寝坊しても構わないでしょう」


 そうだろうか? そうかもしれない。


 自分は働きすぎかもしれない。毎日のように人間のために必死に働いている。たまの休日くらいはぐっすり眠ってもいいかもしれない。


「それもそうね。よーし、二度寝するぞー」


 布団をかぶり、目を閉じる。いつもならここでじいやが小言を言って来る。『だらしないですぞ!』とか、『休日のお父さんですか!』とかやいやいとうるさい。


 だが、彼は何も言ってこなかった。


 スカーレットは布団から顔を出し、じいやの方をうかがった。


「あれ? じいや?」


 先ほどまで側にいた彼の姿が見えない。不思議に思った彼女はベッドから飛び起き、部屋を出た。


 城の中は不自然なほど静かだ。どこまで廊下を歩いて行っても、メイドさんの誰とも会わない。スカーレットは城中の扉を開けていった。そして、そのどこにも人影はなかった。


「どういうこと? 誰もいない?」


 自室に戻ったスカーレットは冷静に努めながら、記憶をたどった。召喚に応じ、街で召喚士と会った。森の噂を聞き現地に向かい、怪しい人影を見た。そして、


「……魔法をくらった」


 これは魔法だ。眠らせるか幻を見せるものだろう。そこまで理解すると、彼女は絶望的な気持ちとなった。なぜなら、この手の魔法は外部からの刺激がなければ術が解けないからだ。


「どうしよう……。このままじゃ……」


 スカーレットはだんだん体に力が入らなくなっていくのを感じた。魔力が吸われているのだ。膨大な彼女の魔力を吸うには時間がかかるだろうが、いずれは……。


 仕事をなめていた罰が当たった。じいやに今までさんざん言われてたのに……。


 スカーレットは部屋の目覚まし時計を手に取り、朝のやり取りを思い出していた。……ごめん、じいや。鳴ることがない目覚ましを胸に抱きしめ後悔した。その時、



「……様! ……スカーレット様!」



 声が聞こえた。じいやの声だ!



 気づいた瞬間、ガバッと跳ねるように飛び起きた。水分を含んだ草の上で眠っていたせいか、服が濡れている。不快だったが、それよりも先にやることがある。


「あんたね! よくもやってくれたわね!」


 目の前に、驚いた顔でこちらを見る人型の魔物がいた。


 魔物はもう一度魔法をかけようと、こちらに手を伸ばしてきたが、


「遅いっての!」


 素早い動きでスカーレットは魔物との距離を詰め、とどめを刺した。「ナンデ?」消滅しながら魔物は聞いてきた。


 服に着いた汚れを払いながら、彼女は言った。



「あれのおかげよ」


 上空を指で示すと、じいや特製の『お嬢様見守りカメラ』がこちらを見ていた。




「まあ、私の大手柄だったというわけですが」


 召喚士に依頼の達成を報告し、城に帰ってきたスカーレット。出迎えのじいやは誇らしげに言った。


 スカーレットを見送り仕事を片付けた彼は、再びモニター前にやってきた。彼女の仕事ぶりを観察するためだ。どれどれと画面を見ると、魔物の目の前で倒れるスカーレットがいた。


 仕事中は邪魔だからと、いつもは切る様に言われているスピーカーをつけ、彼女の名前を叫んだ。結局その声でスカーレットは助かったのである。


「……まあ、そうなんだけど」


 その通りだが、ドヤ顔で言われるとムカつく。でも助かったし……。


 珍しく言い返してこないスカーレットの態度を見て、じいやはここぞとばかりに言葉を浴びせてきた。


「これを機会に、私の言うことをもっと聞いてくださいね。大体スカーレット様はワキが甘いのです。やっぱり私がいないと全然だめですなあ」


 ブチっ。我慢していたがもう限界だ。


「うるさいのよ! たまたま役に立ったからって調子に乗るな!」


 じいやのひげを引っ張り、スカーレットは叫んだ。痛い痛いと抗議するじいやに向かい、彼女はいたずらっぽく笑いながら言った。



「どう? ちょっとは目が覚めたんじゃない?」


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