第19話 魔人スカーレットはガチャガチャしたい
ガチャをそろえたい。物欲センサー……。
仕事終わり。五百円玉を握り締め、スカーレットはガチャの前に立っていた。最近の日課となっており、今日でもう一週間となる。
「お願い! 出て!」
お金を投入口に入れレバーを回す。何度経験しても、この瞬間の高揚感といったら他に比べるものもない。
ガコガコ、ガコン。取り出し口に少し大きめのカプセルが落ちてきた。すかさず中を開け、品物を確認する。
「だあー! また左腕かー」
ダブりとなった機械の腕を眺め、スカーレットは肩を落とした。
『かけろ! ニャンダーロボ』子供向けアニメでありながら、数十年の間放送を続けるご長寿アニメである。内容は勧善懲悪ものであるが、個性的なネコのキャラクターや深みのあるストーリーが人気で大人たちにも愛されている。
スカーレットも子どもの頃は見たことがあったが、特別思い入れがあったわけではない。しかし、たまたま見かけたガチャでなぜか心が惹かれた。財布の五百円玉を見つめ、悩んだ末にレバーを回した。そこからはガチャのとりこだ。
始めは順調にロボのパーツが集まった。右腕、右足、左腕。三連続で違うパーツが出た時にはあっさりそろってしまうとなめていた。
しかしそう上手くはいかない。四度目、五度目はダブりが出だした。それでも六度目で左足が出ると、「やったー!」と飛び上がりたくなるような気分だった。そして今日はまたダブり。
「しかたない。また明日挑戦ね」
カプセルを握り、彼女は城に帰った。
「またガチャガチャですか?」
城に戻ると、じいやが開口一番聞いてきた。
「うん。もうすぐそろいそうなのよ」
あとは胴体だけだ。五つそろえば、合体して、ニャンダーロボが完成する。一回五百円ということもあり、完成品はさぞ見栄えがするフィギュアになるだろう。
スカーレットの期待感とは裏腹に、じいやは冷めた表情をしている。
「一回五百円もするんですよね。高くないですか?」
彼もモノ作りは好きだったが、好きなジャンルは違ったようだ。プラモデルとフィギュアではいささか興味の範囲外なのだろう。
「……全然高くないわ! ネットで完成形を見たらすごいクオリティだったもの」
彼はそうですかとだけ言うと、晩ごはんの用意をし始めた。
そうだ、全然高くない。彼女は心の中で再びつぶやいた。もう三千五百円も使ってしまったけど、フィギュアを買ったと考えたらむしろ安いのではないか。ランチだって、五千円するところもあるし。
あと一つでそろう。それを自分に言い聞かせ、スカーレットはガチャを続けることにした。
だが、ここからが地獄だった。
八、九、十と回数を重ねるが、ダブりが続く。五千円を超え、スカーレットも焦りだすが後には引けない。ここでやめれば努力が水の泡だ。
場所を変えれば運も良くなると、休日にはショッピングセンターで回してみたが胴体は出ない。ついに十五回を超えたところで限界が来た。
「全然出ないじゃない! ニャンダーの胴体! 本当に入ってるの?」
回せども回せども、出てくるのは手足のみ。このままでは千手観音みたいになってしまう。何度目かのため息をつくと、彼女はあることに思い至る。
「……もしかして本当に入ってない?」
馬鹿げた考えなのはわかる。でも、そうでなければ説明ができない。いくら運が悪いと言っても限度があるだろう。……かくなる上は。
スカーレットは急いで城に戻ると、ドアをバンと力いっぱい開け、じいやを呼んだ。
「じいや! 頼みたいことがあるんだけど?」
奥から出てきたじいやは何事かと驚いた顔で見た。
「どうしたんですか? 非常事態ですか?」
こくんとうなずくと、スカーレットは言った。
「ええそうよ! 出動の準備をしてちょうだい」
「いやー、ニャンダーロボのガチャ、大評判ですね」
オフィスで制作会社のスタッフたちは話していた。ネットで有名人が写真をあげると、そこから火が付き今では想定の数倍は売れていた。おかげで休日にもかかわらず会社に来ることになっている。
「ああ、ありがたいことだよ。こだわって作ったかいがあった」
一回五百円という値段には会議でも議論があった。全てそろえるには高すぎないかと。それでもクオリティは下げたくないと説得し、消費者の期待に添う商品ができたのだ。
「これからもいい商品を作らないとな。……何だ、騒がしいな?」
ドアの向こうから叫び声が聞こえる。気になってドアを開けると、廊下の先から見たことがある人物がずんずんと歩いてくる。その後ろからは銀髪の老紳士と、受付の女性が先に歩く人物を止めようと説得しているようだ。
「なんだなんだ?」
歩いてきた赤い長髪をした彼女は、オフィスの前で立ち止まった。そして、
「ここが悪の巣窟ね! 観念なさい!」
魔人スカーレットは小柄な体で仁王立ちし、そう言った。
「ふう、製作会社に乗り込んだ時はどうなることかと思いましたよ」
城に戻り、冷や汗をかいたじいやはスカーレットに向かって言った。
「ごめんて。でも、ちゃんと話はするものね。彼らの創作に対する気持ちは本物だった。疑って悪かったわ」
「ですから言ったではないですか! 胴体だけないなんてありえないと」
彼は怒りをあらわにしながら言うが、上機嫌のスカーレットはまるで聞いていない。
「ネットで商品の宣伝する代わりに、ロボの胴体をくれるなんてね。やっぱりあたしって人気あるのかしら?」
大事そうに戦利品をながめながら、彼女は思い出したことを話した。
「あっ、でもあたし、じいやとの約束は守ったわよ」
「約束? 何のことですか?」
彼は思い当たることがないのか、不思議そうにしている。スカーレットは「ふふ」と笑い、答えた。
「ガチャは一日一回まで。おかげで完成まで時間がかかったわ」




