第16話 魔人スカーレットは行方不明
誰だって迷子になる。いない人の話で盛り上がることあるよね。
五階建てで上から見ると楕円形に見える大型ショッピングセンター。中には家族連れ、恋人同士、友達グループなどたくさんの人々がひしめきあっていた。
そんな中、一人目的のため買い物をする魔人がいた。
「ふっふっふ。ついに手に入れたぞ。『マジカルモンスター レモン』」
家電量販店でお目当てのゲームを買って、金色の美しい髪をした魔人ソニアは上機嫌だった。
「忙しくてなかなか買いに来れなかったが、これでかわいいマジモンを育てられる!」
マジカルモンスター。略してマジモン。モンスターを育成して冒険していくロールプレイングゲームである。子どもから大人までプレイヤーがおり、ソニアも小さいころからプレイしてきた。全てのモンスターを捕まえるには、別バージョンのソフトを持つ者が必要となる協力型のゲームだ。
「最初は何から育てよっかなー。どれもかわいくて選ぶのが難しい」
店から出て、寄り道せずに家に帰ろうとしていると、出口付近で帽子をかぶっている幼い少年が一人で立っていた。
どうしたんだろう? 確かさっき入ってきた時もあそこにいたような……。声をかけるか? いやでも、迷子と決まったわけでは……。
頭の中でいろいろ考えたが、後悔するよりは良いと思い、少年に声をかけた。
「君、お父さんかお母さんはどこにいるんだ?」
いきなり知らない大人から声をかけられても少年は動じることなく答えた。
「わかんない」
あっ、やっぱり迷子だった。良かった一応話しかけて。
「そっか。それなら一緒に迷子センターに行こう」
手を引いて少年を連れて行こうとしたが、彼はそれを拒み言った。
「さっきも別の人に言われたけど、知らない人について行ったらダメだって言われたから……」
なるほど。その通りだな。親のしつけに感心し、ソニアはうなずいた。そして、近くのお店の人に事情を話した。
「迷子を見つけたんですが、もしよろしければ迷子センターまで一緒についてきていただけないでしょうか?」
服屋の店員の女性はもう一人の店員に声をかけて、同行を了承してくれた。知らない大人について行ってはいけないが、身元が保証されている人間であれば子どもも安心してくれるだろう。それにこちらとしても万が一トラブルになった時、証言してくれる人がいる方が良い。
三人で連れだって歩き迷子センターに到着すると、慌てた様子で係の人に話しかけている夫婦がいた。
「あ、お母さん、お父さん」
少年が走って行くと、夫婦はほっとしたように言った。
「もう、どこにいたの? 勝手にあちこち歩き回ったらだめじゃない!」
「無事で良かった。心配したんだぞ」
これで一件落着だ。ソニアは夫婦と少年から感謝の言葉を受け、店員ともそこで別れた。
「よし、これで心置きなくゲームができる!」
出口に向かおうとした時、迷子センターの端に見知った顔を見つけた。
「あれ? じいやさん?」
くたびれたお父さんみたいにイスでたたずんでいる彼は、とても疲れて見えた。
「これはこれはソニア様。お買い物ですか?」
「はい、そうですが……。どうされたんです?」
すると彼はばつが悪そうに話し出した。
「いえその……。スカーレット様と買い物に来たのですが、どこかに行ってしまったみたいで……。スマフォも持っておられないようで電話にも出ないんです。あちこち探しまわって、最終手段で迷子放送をしてもらおうとこちらへ……」
あいつは子どもか! いい大人が恥ずかしくないのか! 友人として恥ずかしくなったソニアだったが、じいやの前では口には出さなかった。
「それで放送は……」
「まだです。さすがにスカーレット様にもプライドがあるでしょうし、少しだけここで待たせていただいたんです」
賢明な判断だった。はぐれたとわかったらここに来る可能性はある。……いや、ないかも。ふつう大人は迷子にはならないし……。
だがスカーレットのことだ。じいやさんが迷子になったと思い込み、駆け込んでくるかもしれない。彼はその可能性にかけているのだろう。
「まったく、あいつはいつも人騒がせだな」
ソニアは一人迷子センターで待たされているじいやを不憫に思い、自分も待つことにした。
「じいやさんも大変ですね。あいつの世話するのは」
彼女は心底同情していたが、彼はなぜかおかしそうに笑った。
「……何か変なことを言いましたか?」
「いえ、そうではなく……。先日も同じようなことを言われましたので。……確かにスカーレット様のお世話をするのは大変ですが、一緒にいると毎日楽しいですよ。それはソニア様もおわかりでは?」
彼女は「そんなことは……」と言い返そうとしたが、やめにした。それは嘘をつくことになるからだ。
「……かもしれませんね。私は家で厳しく育てられました。我が家は代々、召喚魔人として人々を守る使命のために強くあることを求められてきました。もちろんそのことに異論はありません。私とて人々のために働くことを誇りに思っています」
じいやは何も言わず、ただ真剣にソニアの言葉に耳を傾けていた。
「ですが、修行や勉学に熱を入れて取り組んでいるうちに、友人たちとの間に距離ができてしまいました。傲慢だった私はそれでもかまわない、そう思っていました。そうして召喚魔人として活動を始めた頃です、スカーレットと出会ったのは……」
そこまで話していると、バタバタと騒々しい音が聞こえてきた。部屋の扉をバンと開け、スカーレットが飛び込んできた。
「やっぱりじいや、ここにいたのね! 迷子になっちゃダメじゃない!」
息を切らしながら見当違いなことを言う彼女の手には、買ってきたであろうたくさんの袋が握られていた。
「私は迷子ではありません。迷子はあなたの方です、スカーレット様」
「ちょ、何言ってんのよ! ……ん、ソニア? あんたも迷子?」
スカーレットは首をかしげながら不思議そうにソニアを見ていた。
「そんなはずがないだろう! 迷子をここに連れてきたんだ!」
すると、スカーレットは「あっ!」と何かに気が付いたように尋ねてきた。
「それって帽子の子?」
「……なぜ知っている?」
スカーレットは聞こえないくらいの声で「ちょっと待っててって言ったのに……」とつぶやき、ケースの様なものが入った小さめの袋を見た。
「いや、何でもないわ。じいや、帰るわよ」
自分のせいで彼を待たせていたのに、こうも堂々とできることにソニアはあきれた。そんな彼女を振り返りじいやは言う。
「今日はお話しいただきありがとうございました。……本当にお二方は似ていらっしゃる」
ソニアは最後の方をよく聞き取れなかったが、去っていく彼に向かって会釈をした。
数日後。
「スカーレット汚いぞ、毒ばかり使うな!」
「あんたのマジモンの攻撃なんて、当たらなければ意味がないのよ!」
スカーレットの城で二人は先日買ってきたゲームの対戦をしていた。スカーレットは相手を弱らせる戦法でじりじりとソニアのマジモンを攻めていた。
結局、スカーレットの戦術勝ちで勝負はついた。納得できないソニアは異議を唱える。
「正々堂々と戦え! 卑怯者が!」
「何が卑怯よ! 負けを認めなさい!」
次第にヒートアップしたところで、じいやが止めに入る。
「そこまでです。特製のケーキを焼いたので、お菓子タイムにしましょう」
「はーい」「はーい」
お菓子の時間となると途端に素直だな。彼はコントローラーが置かれたテーブルに目をやると、長方形をしたケースがそこにあった。パッケージには『マジカルモンスター オレンジ』と書かれている。
思わず笑みがこぼれたじいやだったが、スカーレットとソニアはケーキに夢中で気が付かなかった。




