第14話 魔人スカーレットはドリルがこわい
魔人だって、ドリルは怖い。キュインキュイーン!
召喚に応じ、平原で魔物と戦うスカーレット。単騎で攻め込んできた鎧姿の魔物は強敵で、彼女の魔法も効果が薄く苦戦していた。
「くっ、意外とやるわね」
痛みでいつも通りの力が出ない。フルパワーの魔法が使えたらこんなやつ……。
魔物はその巨大な体を存分に使い、持っている剣を振り回す。リーチが長く、懐になかなか入れない。
街の住人達も遠くから不安そうにその様子を見ていた。
「どうしたんだ、スカーレット様! あの鎧、そんなに強いのか!」
このままではいけない。スカーレットは長期戦に避けるのは避けたかった。そうでなければ……。
一か八か。魔力の消費は大きいけど……。
彼女は詠唱を始めた。すると頭上に大きな火球が出現する。攻撃対象の魔物を見据え、スカーレットはそちらに向かって大きく腕を振るった。
「くらえ、インフェルノ!」
魔法が直撃し、魔物の鎧は高熱によって溶け、内側に隠れていた核があらわになる。
「あそこが弱点ね」
好機を逃すまいとスカーレットは一気に魔物の懐に向かって飛び込んだ。迎撃の剣が振るわれるがひらりとかわし、核に向かって思い切りこぶしを振るう。するとガラスが割れるような音を立て核が壊れると、鎧の魔物はズズンと轟音を響かせ地面に倒れ、やがて姿は消え去った。
「ふう、何とか勝てた……」
ほとんど魔力を使い切り、飛行するのもしんどい。街の方へ向かって彼女が歩いていると、こちらに向かって数人の住人たちが馬に乗り走ってきた。
「スカーレット様、よくぞご無事で!」
助かった。これで歩かずに街に行ける。馬の背に乗せてもらい、前に座る乗り手にしがみついていると、声をかけられた。
「あの、スカーレット様……」
「何でしょう?」
返事をすると、彼は尋ねていいのか迷っているようだったが、思い切ったように聞いてきた。
「今日のスカーレット様はいつもと様子が違うような気がしたのですが、もしかして体調が優れないのですか?」
当たりだった。鋭い。
でも、話すわけにはいかない。魔人の威信に関わる。
「いえ、そんなことはありません。苦戦しているように見えたのであれば、それは魔物が強敵だったからです」
嘘ではない。今日の魔物は確かに強かった。痛みが無ければもう少し楽はできたけれど。
「そうなのですか! 失礼しました!」
「いえ、気にしないで。それに今日の戦いは次で最後ですしね」
「まだ戦われるのですか! 休まれた方がいいのでは……」
うん。本当はそうしたい。でもね……。
「どうしても行かなければならないんです。手遅れになる前に……」
彼は自分のことよりも誰かを救おうとしているであろうスカーレットに、敬意を表するように言った。
「あなたという魔人に人類として感謝申し上げます。どうかご無事で」
彼女は何も言えずにうなずくことしかできなかった。
鎧の魔物を倒し、報酬をもらったスカーレットは城に戻った。
やっぱり今日は行かなくてもいいかな。そんなことを考えていると、見透かしたようにじいやが出迎えに来た。
「おかえりなさいませ。そして行ってらっしゃいませ」
彼女に財布を手渡し、そのまま出かけるように促す。
「ちょっと! 今帰ってきたんだけど! 少しくらい休ませてよ」
無理矢理中に入ろうとするスカーレットを制しながら、彼は言った。
「ダメです。昨日も同じことを言ってました。わざわざ予約を今日に変えてもらったんですから、今すぐ向かってください」
じいやは頑として譲らなかった。こうなってはもう何を言っても無駄だ。
「それに痛いんでしょ、歯」
「そうだけど~」
昨日の朝から奥歯が痛み出した。すぐにじいやが歯医者に電話して、仕事終わりに行くはずだった。でもこわい。結局昨日は我慢して、今日は仕事中、痛みで全然集中できなかった。
「こ~わ~い~! じいや、行くの代わってー!」
「スカーレット様、そんな子どもみたいなことをおっしゃってないで、早く行ってください」
彼女は外に放り投げられ、中から鍵をかけられた。
扉をドンドン叩くが応答はない。……しょうがない、行くか。
スカーレットは徒歩で歯医者に向かった。
キュインキュイーン。
受付で診察券を渡し座って待っていると、診察室から甲高い音が聞こえてきた。
ドリルだ。
スカーレットは必死に平静を装い置いてあったマンガを見るが、全く内容が入ってこない。
やっぱりこわい! そもそも口にドリル入れるってどんな拷問よ!
音が聞こえなくなると、診察室から母親と共に小さな男の子が出てきた。涙で目は腫れ、母親の手を強く握っている。
「がんばったね。あとで特別にガチャガチャしてもいいよ」
その言葉を聞くと男の子は「やったー」と笑顔になり、晴れ晴れとした様子で二人は歯医者を出て行った。そんな様子をスカーレットはじっと見ていた。
あたしも手を握ってほしい! じいやを連れてこれば良かった。そんなことを考えていると、ついに名前を呼ばれた。
「スカーレットさん、どうぞ」
覚悟を決めるしかない。スカーレットは診察室の扉に手をかけた。
治療後。
「ふぅー、何とか乗り切ったわ」
城に帰ってきたスカーレット。虫歯をドリルで削ることになった時は涙が流れそうになったが、さすがに大人なので我慢した。今は歯に詰め物をしたばかりなので違和感があるが、じきに慣れるだろう。
「お疲れさまでした。一応食事はやわらかいものにしておきましたよ」
テーブルの上には温かいうどんが用意されている。
「ありがとう。おなかすいたー」
スカーレットはようやく晩ごはんにありついた。うどんをすする彼女にじいやは話しかける。
「甘いものを食べて歯磨きしないからですよ。今日だって魔物相手に苦戦していたじゃないですか。集中できていない証拠です」
痛いところをついてくる。全くその通りだ。
「わかってるってば。あーあ、魔物も歯の調子がいい時に来てくれればいいのにね」
懲りない彼女をじいやはじっとにらむ。
「……スカーレット様」
「ごめんて。まあ、そんな虫のいい話はなしか」
そうしてごはんを食べ終えたスカーレットは、きちんと歯磨きをすることにした。




