第13話 魔人スカーレットはみたらし団子を食べたい
みたらし団子を食べたい。花より団子。
休日の午後、スカーレットは戸棚をあさっていた。
「お菓子が……ない!」
いつもはお菓子のストックはここに入れている。大体何かが入っているのだが、今日に限ってはじいやのせんべいすら切らしている。
「ここはダメか。それなら……」
彼女は冷蔵庫の扉を開いた。常備菜やつけもの、牛乳、卵。そこにも甘いお菓子は入っていない。
「ここもダメ。あーあ、この前も食べ過ぎでじいやに怒られたしなあ。パズルの件もあったし……。午前中もわざわざ今日はお菓子を食べるなって言ってたもんなあ……」
じいやは今買い出しに行っている。自分がいない間に彼女が隠れてお菓子を食べないように釘を刺したのだろう。
だが、諦めきれないスカーレットは冷蔵庫からどうにか食べられそうなものを探す。すると、何やら袋に入った粉を見つけた。
「これは……白玉粉!」
これがあれば団子が作れる。じいやと昨日の夜、街ブラ番組を見ていた時に出てきた団子屋のことを思い出す。
おいしそうなみたらし団子が有名な店で、晩ごはんを食べたばかりだったのに食べたくて仕方なかった。彼に団子の材料を聞くと、白玉粉から作ると教えてくれた。
なんという偶然! ここに白玉粉があるということは神のお導きか。
さっそく作り始めようとしたところで、彼女は大事なことに気が付いた。
「あっ、あたし作り方わかんないや」
普段料理なんてしない彼女は、包丁さえ握ることはない。それにお菓子作りは繊細な作業だという。やはり自分には無理か……。お菓子を諦めかけた時、若いメイドさんが掃除機をかけながら近づいてきた。
もしかしたら彼女なら……。淡い期待を込めて声をかけた。
「ちょっといいかしら?」
掃除機の音でよく聞こえなかったのか、彼女はスイッチを切り聞き返してきた。
「すみません。何かごようでしょうか?」
「いえね、あなた料理は作れる?」
彼女はこの城に来てまだ間もない。以前に数回話したことがある程度だ。年はスカーレットよりも下のはずなので、まだ二十歳そこそこだろう。
あまり期待はしていなかったが、彼女の返事はイエスだった。
「そうですね……。一応、一通りは何でも作れます」
「みたらし団子は?」
「はい、作れます」
心の中でスカーレットはガッツポーズした。これで団子が食べられる。しかし、メイドさんはおずおずと言いにくそうに答えた。
「でも、じいやさんから今日はスカーレット様にはお菓子を出さないようにと言われているんです……」
あいつめ。しょうもないところには気が回るんだから。後でお菓子を作ったと知れたら、彼女がじいやに怒られる。それはちょっとかわいそうだ。
ならば、とスカーレットは代わりの方法を提案した。
「それならあたしに作り方を教えてくれる?」
自分で作ったなら問題ないだろう。あたしは怒られるだろうけど。
さあ、スカーレットクッキングの始まりだ!
二人でキッチンに立ち、団子の材料を確認する。
白玉粉、水、以上。
「……これだけ?」
スカーレットは疑いの目をメイドさんに向ける。恐縮そうにしながら彼女はうなずく。
「団子の材料はこれだけです。あとはみたらしのあんにしょうゆ、みりん、砂糖だけです」
ふうん、思ったより簡単そうだ。指示通りボウルに白玉粉を入れて、少しずつ水を入れながら手で混ぜる。するとだんだんまとまっていき、粉からねりものの様になっていった。
「おお、それっぽいわね!」
「ここでしっかりと混ぜないと、粉っぽくなっておいしくないんです。少し水を足しましょうか」
グッグっと生地をこねていると少し汗ばんでくる。料理も意外と力を使う。
耳たぶくらいの柔らかさになったので、一口大にまるめて沸かしておいたお湯に投入する。少しゆでると団子が浮いてきたので、ボウルに移し氷水で冷やしたら、水気を切る。
「これで団子は完成です」
「意外と簡単にできるのね。これなら一人でも作れそう」
メイドさんはほほえみながら言う。
「きっとできますよ。白玉粉は初めての人でも失敗しにくいんです」
スカーレットは楽しそうに話す彼女を見て、この子は本当に料理が好きなのだなと感じた。好きなものを語る様子を少しうらやましく思っていると、メイドさんは奇妙なことを口にした。
「『案じるより団子汁』ですね」
「えっ、団子汁? 何それ、どういう意味?」
スカーレットと話すのにも少し慣れた彼女は、友人に教えるような気軽さで言う。
「考えるよりもやってみる方が簡単という意味です」
「ああ、『案ずるよりも産むが易し』みたいなものね」
「そんな感じです。じゃあ、みたらしのあんも作ってしまいましょうか」
しょうゆ、みりん、砂糖を混ぜたものを鍋に入れ、加熱する。そして、煮詰めていくとしょうゆの香ばしい香りがしてきた。
「これを団子にからめたら完成です。団子は串に刺して焼きますか?」
焼き団子。響きだけでおいしそうだが、もうおなかが減って限界だ。
「いいえ、今回はいいわ」
「わかりました。それなら団子を鍋に入れて、あんにからめながら温めましょうか」
団子を鍋に入れ温めると、みたらし団子は完成した。
スカーレットは団子が入った皿をテーブルに持っていき、席に着いた。
自分で作ったお菓子。じいやが作ったものもおいしいが、自らの手で手間をかけて作ったこともあり、とてもおいしそうだ。
側で立っているメイドさんと視線を合わしうなずくと、スカーレットは箸で団子を食べ始めた。
「いただきます」
団子をかみしめると、もきゅもきゅとした歯ごたえがある。焼くと弾力のある食感になるのだろうが、これはゆでただけなので団子というよりおもちのようだった。だが、それもまた良い。口の中が楽しい。
しょうゆの香ばしい香りもたまらない。匂いが食欲を増幅させ、あまじょっぱい味はどんどん箸を進めていく。団子、最高!
この感動を分かち合いたい。スカーレットはメイドさんにも団子を勧めた。
「あなたも食べて!」
「いえ、私は……」
「遠慮しないで!」
メイドの立場を考え遠慮していた彼女だったが、熱心に勧めるスカーレットの気持ちに負け、恐る恐る団子を口にした。
「それでは失礼して……。……おいしい!」
そこから二人は皿一杯の団子を食べる時間を楽しんだ。
おなかがいっぱいになってきた頃、スカーレットは思い出したように聞いた。
「ねえ、さっきみたいな言葉って他にもあるの?」
「『団子汁』みたいなものですか? うーん、そうですね……。『団子は串に刺した方が良い』とか……」
「そんなのもあるのね。どういう意味?」
メイドさんは頭に指を当て思い出すと、笑顔で言った。
「確か、『合理的で適切な対応を取るのがいい』みたいな意味でした」
「……使いどころがあるのかないのか微妙な言葉ね……」
そんなことを話していると、じいやが城に帰ってきた。
「ただいま戻りました。スカーレット様、おみやげを買ってきましたぞ……」
じいやは先日テレビで見た団子屋の名前が入った袋を見せた後、言いつけを破ってお菓子を食べていたスカーレットを発見し、注意しようと口を開こうとした。
だがそこからの彼女の動きは速かった。
有無を言わさず彼の前に立ち、流れるような動きで体を九十度に折り曲げ、全力で頭を下げる。
「すいませんでした!」
その様子を席に着いたまま目撃していたメイドさんは思った。
『団子は串に刺した方が良い』




