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魔人スカーレットは過労でしんどい 〜異世界最強の魔人ですが少しお疲れ気味なので、休日くらいは楽しく気ままに過ごしています〜  作者: 鳴尾リョウ


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第10話 魔人スカーレットは勝負に勝ちたい

 魔人にだってライバルは必要だ。負けると悔しいけど。




 雷。


 雨や突風などを伴い、時として甚大な被害をもたらすこともある自然現象である。古では『神鳴り』とも呼ばれ、恐れられてきた。


 そんな強大な力を行使する魔人がいる。その名は「ソニア」




「だーもう! ずるいぞ、スカーレット! ちまちま遠距離攻撃ばっかり使うな!」



 城の一室。対戦ゲームが映るテレビの前には、二人の魔人が座っていた。


 一人は城の主である魔人スカーレット。威厳を示す二本の角と燃えるような赤い長髪がトレードマークである。本人は気にしているが、周囲からは力にそぐわない小柄な体も愛らしいと評判になっている。


 もう一人は、同じく長く立派な二本の角に金色の長髪をした女性。こちらは手入れされ光沢がある髪を、後ろでまとめている。


「ふふん、勝てば良いのよ。勝てば。ソニア、やっぱりあんた、弱いわねえ」


 ゲームのコントローラーを握りしめ、スカーレットをにらんでいる彼女こそが魔人ソニアであった。


「汚いぞ! 正正堂々と勝負しろ!」


「ちょっと、聞き捨てならないわね! どこが汚いのよ! 大体あんたが大技狙い過ぎなんじゃない!」


 わめき合う二人を見かねたじいやが仲裁に入る。


「まあまあ、お二人とも落ち着いて。お菓子と紅茶の準備ができましたので、こちらにどうぞ」


 お菓子と聞いた二人はしぶしぶ怒りを抑え、テーブルに着いた。


 今日のお菓子はじいや特製チョコレートケーキだ。友達が少ないスカーレットのため、来客がある時は彼が腕によりをかけたおもてなしをしてくれる。


「それでは、いっただきまーす!」


 二人の魔人は仲良く声をそろえると、ケーキにフォークを入れ口に運ぶ。


「おいしい! じいや、また腕を上げたんじゃない?」


「本当においしい! いいなー、スカーレットはじいやさんのケーキをいつも食べられて」


 ぱくぱくと食べ進める二人から褒められ、じいやもまんざらでもない。


「ありごとうございます。紅茶もいい茶葉が入ったのでどうぞ」


 先ほどのけんかをさっぱりと忘れ、スカーレットとソニアはしばし楽しい時間を過ごした。



のだが……。


「そういえばソニア様、魔人ランキング見ましたぞ。順位も前よりも上がっておりましたね」



 じいやのこの一言から、再び二人の小競り合いが始まった。



「ああそうだったわね。八位だっけ。すごいじゃない。まあ、あたしの方が一個上だけど」


 紅茶を楽しむ手を止め、ソニアはスカーレットをにらんだ。そして、強がるように言う。


「ふん、小動物みたいな見た目で票を稼いでいるやつに言われたくはないな」


「誰が小動物ですって! あたしは乱暴なあんたみたいに街を壊したりしないっての!」


「誰が乱暴だ! 私の魔法は制御が難しいんだ。おまえのような軟弱な魔法と違ってな!」


 また始まったとじいやはあきれたように二人を見る。これではいくら仲裁しても無駄だと悟る。


 しばらくおたがいをののしり合った後、ソニアが提案をした。


「よしわかった! それなら明日の魔物討伐、私も同行しよう。それでより成果を挙げた方が勝ち。どうだ?」


「面倒だけど乗ってあげるわ! せいぜいがんばることね!」


 こうして二人は魔物討伐へ共に向かうことになった。




 翌日。


 ソニアは朝からスカーレットの城に来た。そして二人は召喚されるのを待つことにした。


 数十分たったところで、二人同時に反応する。


「来た」


 ほぼ同時に瞬間移動し、目的地へと移動した。



 そうして召喚に応じ移動したスカーレットだったが、周りは平原で魔物の姿はない。


「あれ? もしかしてまた違うところに出ちゃった?」


 そこで彼女はスマフォを忘れたことに気づいた。いつもならスマフォの着信から召喚されるので、召喚位置は正確だった。だが、今日はソニアのせいで以前の様なおおよその位置での召喚となってしまった。


「ああもう! 街は……、あっちね!」


 前方にうっすらと城壁のようなものが見える。スカーレットは上空に飛び上がり、全速力で向かった。


 街に近づくにつれ、魔物の群れが見え始めた。……多いな。ソニアは街に着いているだろうが、彼女の雷の魔法は街での戦闘との相性が悪い。


 雷の魔法は強力で、大型の敵に使う分には申し分ない。しかし、コントロールが難しいため、多数の魔物に正確に当てるとなると話は別だ。魔物は倒せるだろうが、街にも相応の被害が出かねない。


 城壁までの道中、魔物の数を減らしながらスカーレットは願う。


「ソニア、あたしが着くまで無茶しないでよ」




 一方で、スカーレットよりも早く街に着いたソニアは切迫した状況を聞いた。


 街に入り込んだ魔物が複数いる。兵士が対応しているが、次々に破られた門から侵入してくるという。


「わかった。手が空いている兵士は引き続き、魔物を引き付けてくれ! 戦えないものは避難を! すぐに片付ける!」


 ソニアは指示を出すと、上空に飛び上がり、街の状況を把握した。……まだ侵入している魔物は多くない。これなら一体一体倒していっても間に合う。


 深呼吸をし、慌てそうになる気持ちを抑える。……よし、行くぞ!


 ソニアは急降下し、目に着いた魔物を片っ端から倒し始めた。


 戦い続け数十匹は討伐したころ、目に見える敵はほぼ片付いた。


「ふう、やはり雷のコントロールに神経を使うな。」


 空を飛びまわり、消耗したソニアは入り組んでいる街の広場に降り立った。魔力の回復に努めるためだ。


「それにしても、スカーレットはまだ来ないのか。この勝負は私の勝ちだな……」


 くっくっくと一人でにやけていると、何かが動く気配を感じた。


 周囲を見回すと、細い階段や建物の陰からぞろぞろと魔物が現れた。


「……私が弱るまで待ち伏せていたというわけか。魔物のくせに頭が回る……」


 ここは広場だが、周囲には多く建物がある。屋上には避難している住人も確認できた。……どうする? 危険だがまとめて倒すか?



 悩んでいると、突然叫び声が聞こえた。



「ソニア様―! 魔物なんかやっつけちゃってー!」


 逃げ遅れたのか、建物の陰から小さな少女が泣きながらこちらに声援を送ってきた。


 すると、獲物を見つけたように数匹の魔物たちが少女に向かって駆けていく。


 まずい! やるしかない!


 ソニアは詠唱を省き、雷雲を呼び出した。



「サンダーボルト!」



 閃光が放たれた瞬間、バラバラに散らばっていた魔物はまとめて灰となった。ソニアは無我夢中で少女のところに飛んでいった。


「大丈夫? ケガはない?」


 抱きしめられた少女は緊張が切れたのか、先ほどよりも大きな声で泣き出した。


 良かった。無事のようだ。


 安心から気が緩んだソニアは警戒を解いてしまった。



 雷が当たりもろくなった壁が、落ちてくるのに気が付くのが遅れるほどに。



 寸前で気づいた時には間に合わなかった。少女を抱きしめ、身を挺して守ろうとする。


 だが、いつまでたっても衝撃は襲ってこなかった。つぶった眼を開けると、そこには崩れた壁を支えるスカーレットがいた。疲労困憊の顔をしている彼女は、強がりを隠すように言った。



「だから大技を狙いすぎなのよ、あんたは」




 結局、街には死人が出ることもなく、軽傷人や建物の被害だけで済んだ。


 功労者であるソニアは住人から感謝の言葉を浴びせられていたが、スカーレットとの勝負は引き分けだと譲らなかった。本当に根が真面目なのだ。


 もちろんスカーレットの活躍も大きいものだったが、彼女はひけらかすことはしなかった。



 じいや以外には。



「あたしも大活躍だったのにー。じいや、聞いてる?」


「聞いてますとも。さすがでございました」


 いつものようにウザがらみされても、彼は主人をたたえるのであった。


「ピンポーン」


 城のチャイムが響く。誰か来た。


「はいはーい。どなたですか?」


 スカーレットが扉を開くと、そこにはソニアが立っていた。


「スカーレット、勝負だ! この前は決着が着かなかったからな!」


 げんなりしたスカーレットはぽつりと言った。



「……勘弁してください」


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