表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第1章 第4話 死神ちゃん、返却条件を提示します

 夕暮れの屋上は、風が冷たかった。

 街のざわめきが、ずっと下のほうで小さく鳴っている。


 茜はフェンスの内側に立っていた。

 あの日と同じ場所。

 でも、あの日とは違って――足は、前に出ていない。


 その隣に、死神ちゃんがいる。

 ジャケットのポケットに手を突っ込み、空を見上げながら、いつもの軽い調子で口を開いた。


死神ちゃん「はいはい。お試し期間、終了でーす」


 茜の胸が、きゅっと縮む。


茜(心)『……じゃあ……私……生きるって言えば……それで……』


 言葉は、最後まで続かなかった。


 死神ちゃんは、ちらりと茜を見る。


死神ちゃん「あー。うんうん。そう思うよね」

死神ちゃん「でもさ。それじゃ、ダメなんですよ〜」


 屋上のフェンスにもたれ、にこっと笑う。


死神ちゃん「私はね、悪い悪い死神なの」

死神ちゃん「人生を売るって行為、そんな簡単にチャラにはならないんだな〜これが」


 茜は、息を呑んだ。


茜(心)『……じゃあ……どうなるの……』


死神ちゃん「決まってるでしょ?」

死神ちゃん「倍額で買い戻してもらいまーす♡」


 軽い声。

 でも、その言葉は、ずしんと重かった。


茜(心)『……倍……』

茜(心)『そんなの……無理……』


死神ちゃん「うんうん。無理だと思うよ?」

死神ちゃん「だから面白いんじゃないですか〜」


 死神ちゃんは、フェンスから身を離し、茜の前に立つ。


死神ちゃん「生きるって選んだ以上、借金は残ります」

死神ちゃん「返せるかどうかは、あなた次第」

死神ちゃん「返せなくても……まあ、長生きはできると思うよ?」


 冗談みたいな口調だった。


 茜の頭の中に、学校の廊下が浮かぶ。

 靴箱のゴミ。

 机の落書き。

 それでも、声をかけてくれたクラスメイト。

 ぎこちないけれど、増えた家の会話。


茜(心)『……私……ちゃんと……返せるかな……』


死神ちゃん「さあ?」

死神ちゃん「でもさ」


 死神ちゃんは、指で茜の胸を、つんと軽く突いた。


死神ちゃん「返そうとしなきゃ、始まらないよ」

死神ちゃん「それに――」


 一瞬だけ、声が低くなる。


死神ちゃん「返す気もない人は、そもそも契約しないでしょ?」


 茜は、何も言えなかった。


 そのとき。


 ――ぐぅ。


 静かな屋上に、はっきりと音が響いた。


 茜の腹が鳴った。


茜(心)『……え……』


 不思議だった。

 最近、空腹なんて感じていなかったのに。


 死神ちゃんが、吹き出す。


死神ちゃん「あはは!」

死神ちゃん「いいねいいね〜。ちゃんと生きてる証拠!」


 茜は、頬が熱くなる。


茜(心)『……帰り……何か……食べよ……』


死神ちゃん「うん。それ大事」

死神ちゃん「借金持ちは、まず腹ごしらえからだよ」


 死神ちゃんは、くるっと背を向ける。


死神ちゃん「じゃ、私はこれで」

死神ちゃん「またどこかで会うかもね〜」


 次の瞬間、自転車が現れた。

 死神ちゃんは軽々とまたがり、ペダルを踏む。


 自転車は、地面を離れ、空へ。


死神ちゃん「あ、そうそう」

死神ちゃん「ちゃんと見てますからね〜」


 ひらひらと手を振り、夜空の向こうへ消えていく。


 屋上には、茜ひとり。


 胸の奥に、不安と――ほんの少しの熱。


茜(心)『……借金……返さなきゃ……』


 茜は、フェンスを背に、空を見上げた。


茜(心)『……でも……帰り……何食べよ……』


 そのまま、ゆっくりと階段へ向かって歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ