第1章 第3話 死神ちゃん、家に帰る。
朝。
茜の体を使う死神ちゃんは、ひとりで玄関を出た。
家の中は静まり返っていて、両親の気配はない。
死神ちゃん(心の中)「今日も留守。朝はいつもこんな感じ、と」
学校へ向かう道すがら、茜の意識は内側で小さく縮こまっている。
昨日のことが頭から離れない。
教室に入ると、空気が少しだけ違っていた。
あからさまな嘲笑はないが、距離を取る視線は残っている。
昼休み。
七海が、少し迷った様子で近づいてきた。
七海「……あの、茜。今日、一緒に帰らない?」
茜の心が揺れる。
茜(心)『……なんで……急に……』
死神ちゃんは一瞬だけ七海を見て、軽く首をかしげた。
死神ちゃん「いいよ〜」
七海は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑った。
七海「ほんと? よかった」
帰り道、当たり障りのない話をしながら歩く。
七海は無理に踏み込まず、ただ隣を歩いていた。
茜の内側で、言葉にならない感情が膨らむ。
茜(心)『……怖い……けど……嫌じゃない……』
別れ際、七海は小さく手を振った。
七海「またね」
死神ちゃんは同じように手を振り返す。
死神ちゃん「またね〜」
その声は、少しだけ柔らかかった。
⸻
夕方。
家に帰ると、珍しくリビングに明かりがついていた。
父と母が、ソファに並んで座っている。
茜の体が一瞬、強張る。
茜(心)『……なんで……いるの……』
父「……ああ、おかえり」
母「おかえりなさい」
ぎこちない空気。
沈黙が落ちる。
死神ちゃんは靴を脱ぐと、少し大げさに腕を組んだ。
死神ちゃん「ねぇねぇ」
両親が顔を上げる。
死神ちゃん「今日さ、三人で出かけない?」
父「……え?」
母「……急にどうしたの?」
死神ちゃんは頬を膨らませる。
死神ちゃん「え〜、たまにはいいじゃん。ずっと家バラバラだし」
茜の内側がざわつく。
茜(心)『……やめて……そんなこと言わないで……』
だが、死神ちゃんは引かない。
死神ちゃん「アイスでもいいし、公園でもいいし! ねぇねぇ!」
父と母は顔を見合わせた。
父「……昔は、よく三人で出かけたな」
母「……そうね。いつぶりかしら」
少しの沈黙のあと、母が立ち上がった。
母「……じゃあ、少しだけ」
父「……俺も、行くか」
死神ちゃんはぱっと笑顔になる。
死神ちゃん「やった〜! 決まり!」
茜の胸の奥が、じんわりと熱くなる。
茜(心)『……なんで……こんな……』
外に出て歩きながら、父と母の距離は少しだけ近づいていた。
父「……茜、楽しいか?」
死神ちゃんは軽くうなずく。
死神ちゃん「うん! 楽しいよ!」
その言葉を聞いて、茜の意識が震えた。
茜(心)『……私も……楽しい……』
夜風の中、三人の影が並んで伸びる。
死神ちゃんは、内側の茜にだけ聞こえる声で囁いた。
死神ちゃん(心)「ね? まだ壊れてないでしょ」
茜は答えなかった。
でも、その沈黙は、昨日より少しだけ軽かった。




