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災いを齎す女



✳︎✳︎✳︎


アランが熱を出してから、数日が過ぎた。

彼はすっかり元気になり、本調子に戻っている状態だ。


彼のしつこさに私の気持ちが折れていて、追い出す気力も無くなっている。



「おい、どこ行くの?」

「買い物だけど」



扉に向かうと腕を掴んで引き止められた。

さすがに何日も外に出ていなかったから、食料が底を尽きている。



「俺も行く。荷物持たせて」

「勝手にすれば。どうせ嫌って言っても来るんでしょ?」

「よくわかってるじゃん、俺のこと」



彼は薄い唇を片方に吊り上げて、嬉しそうに笑う。別に、彼の喜ぶことを言った自覚はない。


町へ着くと周囲の視線を感じる。

これは、私が不幸を呼ぶから警戒の眼差しだ。


なぜここへ来たとでも言うような冷たい視線。


最初は辛かったけどもう慣れた。悲しんだって私が不幸を呼ぶ以上、この現実は変わらない。

私が生きている限り永遠に。


私はいつものようにトドという名のおじいさんのところへ向かう。

トドおじさんは、10年前の事件の時に倒れていた私を、拾ってここまで育ててくれた命の恩人。

そして、母の最後を看取った人でもある。



「そろそろ来る頃だと思っていたから、用意しておいたよ。はい、いつものね」

「ありがとう」

「どういたしまして。 今日は人を連れてどうしたんだい?」



トドおじさんの視線は、私から外れて一歩後ろに立っていたアランに向けられた。


「アラン・クラークだ。訳あって一緒に行動させてもらってる」

「正確には勝手についてきたの」



いつの間にか私の隣に移動していた彼は、その後続けてデタラメを言いそうだったから、私がすかさず一言付け足す。



「おい、今はそれ言わなくていいだろ」

「何よ、本当のことじゃない」

「ははは!ルチア様が誰かと言い合っているなんて珍しい。よっぽど、気が許せる相手なんだな」



それまで黙って私たちをの話を聞いていた、トドおじさんが声を上げて笑った。

いつも周りが穏やかになるような笑顔だが、こんなにも大きな声で笑うところは初めて見る。



「トドおじさん、また来るね」


しばらく話して、私はその場を離れた。

だから、アランが立ち止まっていたことも…



「なあ、あんた本当にここで商売やってる人か?」

「そうだが…」

「なら、いい。俺の勘違いだ、顔見知りにちょっと似ていてな」



そんなアランとトドおじさんの会話も知らなかった。



◇◇◇◇



買い物をして家へ戻ろうとした帰り道に事件は起こった。



「きゃあああああっ!」


ーガシャンガシャンー



甲高い悲鳴と同時に、何かが壊れた音が響いた。


ドクンと心臓から変な音がして、苦しくなる。



「ルチア?」



嫌な予感がした私は、音がした方向へ走って向かう。

アランが私を呼ぶ声を無視して。


向かった先では小さな男の子が、野菜を売っている屋台の下敷きになっていた。



「……っ」


また…だ、また、私のせいで…っ!



「ルチア!俺がこの屋台を持ち上げるから子供を引っ張れ」

「う、うん」


彼の声にハッとして、急いで男の子を引っ張り出した。

男の子は1人で歩けないほどの怪我をしている。


…今は、まだ太陽が昇っているけど少しなら。



ムーンシャイン(癒しの光)



両手を胸に当てて光を集めて、その光を怪我をしている足に当てる。



「なんでお前が魔法石を…?」

「ムーンストーンよ。たまたま拾ったの」


彼が驚くのに無理はない。本来魔法石は、7種類しか存在しないから。


私の持っている月の石ムーンストーンと、まだ見つかっていない太陽の石、ペリドットは7つの魔法石よりも貴重なもの。


私の石は月の光で傷を癒す力。大切な人を守りたいと強く願う想いが通じて現れた。

実際、私の存在自体が不幸にするからこの力は無意味なのだけど。

本当に大切な人を守ることできない。



「なぜ、ここにいるのですか!?あなたがいるせいで、うちの子が怪我したじゃない」

「そうだそうだ!あなたがいるとこの町に不幸が増えてしまう」

「用が済んだのなら早く帰ってくれ」

「あなたはルベライトの騎士団長ですよね?その方に関わることはやめておいた方が身のためですよ」



男の子の母親らしき人が、顔を赤黒く染め怒声を上げる。

周りにいた人も便乗するように、強く私を非難した。



「おい、今起きたのはー」

「アラン!!やめて、行くよ」


正義感が人一倍ある彼は多分、さっきの状況に反論しようとしてくれた。

けど今更、彼らに何を言っても変わらない。


もう、慣れた。私は大丈夫、私が悪い。



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