出逢い②
「しつこい。何度来ても私の答えは変わらない」
「俺も昨日お伝えしました。あなたをお連れしないと城に戻れないと」
背の高い騎士は、私の方へゆっくりと一歩ずつ近づいてくる。
もしかして…違う。もしかしなくても、この騎士昨日からずっとここにいた?
「あんたずっとここにいたの?」
「帰るところないので」
「馬鹿じゃないの。いい?もう一度言うからよく聞いて。 私は絶対に戻らない、私は城から追放されて王女ではないの。ルミナスでなく王に伝えなさい」
私は言いたいことだけ伝えると、昨日のように扉を思い切り閉めようとした。
騎士は咄嗟に足を家の中に入れて、無理矢理扉を開ける。
「お前がそう言うなら、もう猫被らなくていいよな。素でいかせてもらう」
「は?何言ってるの? ちょ、勝手に入ってこないで!」
騎士は後ろ手に扉を閉めて、私に迫る。
「なら、俺と城に来い」
「だから嫌って言ってるでしょ」
「じゃあ、俺帰るところないしここに住む」
なんか…本性を出した瞬間すごく腹が立つ。何様のつもり?
「いい加減にして。早く家から出て行ってくれる?」
「力ずくで外に出せば?」
騎士はま、無理だろうけどと付け足して、人のベッドに腰を下ろした。
むきになってしまった私は、騎士の腕を引っ張るけど…びくともしなくて。
「……っ!」
引っ張っていたはずが、引っ張られていてそのまま騎士の胸に倒れる。
すぐさま離れようとするけど、それより先に私の腰を抱いた。
気づいた時には、視界が反転して押し倒されていて…両腕がシーツに縫いとめられるようにされていたのだ。
「ねえ、なんのつもり?早く私から離れて」
「取引だ。今すぐ城に戻るなら離れる。けど、断るならこのまま俺の好きにさせてもらう」
私は黙ることしかできなかった。ついでに、もう王女じゃないって自分で言ってたもんななんて言われてしまったらなおさら。
なんてこの人は強引なのだろう。
「黙るならいいってことだよな」
私の首元に顔を埋める彼。
「……?」
そこから動かなくなった彼に私は異変を感じた。
この人身体が熱い、もしかしたら熱があるかもしれない。
覆いかぶさっていた彼を、ひっくり返してベッドに寝かせた。
「うわ、これは熱がある。…ほんと馬鹿じゃないの?私に関わるからこんなことになるのに」
私は、氷水を桶に入れてタオルを浸す。
彼の額に冷えたタオルを乗せて、キッチンへと向かった。
幼い頃、熱を出していた私に母が作ってくれた野菜スープを作りに。
煮込んでいる時間も、こまめに額に載せているタオルを取り替える。
「……ん」
「目、覚めた?」
ゆっくりと目を開けた彼は、状況を理解していないらしく、私を見つめて固まっていた。
「熱出てあんた倒れたの。 はい、昨日から何も食べてないんでしょ?」
先ほどまで煮込んでいたスープを彼に差し出す。
一口スプーンですくって飲むと、目が見開いて…
「ありがとう、美味い」
その一言を言うと、食べ終わるまで口を開くことはなかった。
熱出ているのに、すごい食欲…。これならすぐに治りそう。
「ごちそうさま。お前、意外に料理上手いし優しんだな」
「勘違いしないで。家の中で倒れられて悪化でもしたら、後味悪いでしょ」
それに、熱出したのは私が原因でもあるから。
騎士は鼻で笑う。
「素直じゃねーな」
「余計なお世話。まだ熱が下がったわけじゃないんだから寝て」
「添い寝してくれねーの?」
離れようとしたが、腕を引っ張られてベッドの端に座らせられる。
「ふざけないでくれる?添い寝しろだなんて、あんたいくつなの?」
「あんたじゃねーよ。アラン・クラーク、ルベライトの騎士団長だ」
「団長…、てことはルベライトの魔法石を手にしているのね」
この世界では、魔法石と呼ばれる魔力が込められた宝石が存在する。その宝石を手にして、自身の魔力と適合すれば、魔法石の力を扱うことができて王国騎士団長を務めることができるのだ。
そして騎士団長らは、王女であるルミナスに認められれば次代の王になる。
「そうだ。なあルチア、俺の名前呼べよ」
彼は、さらに私の腕を引っ張り鼻先が触れるほどの距離だ。
逃がさない、とでも言うように反対の手で腰を抱いた。
「なんで必要以上に呼ばないといけないの?それに熱が下がったら、お別れでしょ」
「いつまでもあんたじゃ嫌だから。ルチアには名前で呼ばれたいし、熱が下がっても俺はお前といたい」
「それは王様の命令で、私を城へ連れ戻すためでしょ?」
「それは間違いない。騎士団長として、王に逆らう権利はないからな。だが、それ以上にお前自身に興味が湧いた」
「私にとってはいい迷惑なんだけど」
「そーゆうところだ。不自然なほど人を避けるところとか」
私は改めて彼が苦手だと実感した。真っ直ぐに私を見つめる瞳。
「わかった、呼ぶから」
騎士団長なら私の不吉な噂を耳にしているはずなのに、迷いなく私に関わろうとする姿勢。
「アラン」
「ふ、いいな」
彼は満足そうに英美を浮かべて、眠りについた。
名前を呼ぶと距離が近くなる気がしたから、呼ばないと決めていたのに…。
多分彼なら、暗闇で彷徨っている私を救ってくれるかもしれない。
そんなあり得ない希望を持ったから呼んだのだろう。




