その後
半額シール事件から3日後、俺はいつものようにバイト先のスーパーのレジを担当していた。あの事件以来レジを担当する者は商品を細かく見るようになった。この品に貼られている半額シールは時間通りに貼られているか、他店舗のシールが貼られていないか確認する。レジのスピードは遅くなってしまうが、それはしょうがない。今のところ偽物の半額シールや早めに貼られているシールは確認されていない。レジのスピードが遅くなったという文句を言う人も現れていない。
あの親子も現れていない。まぁ現れたところで店長に報告が行き、また事務所に連れていかれるだけだろう。今度こそは警察に連絡が行き、警察に身柄を任せることになるだろうが、知ったことではない。俺には関係ない話だ。
「ちょっといい、あなたに会いたいという女の子がいるの。ここ変わるからお菓子コーナーに行ってくれないかしら。その子は白い洋服にピンクのスカートをはいているから」
何人の会計をし終えた後だっただろうが。数えていないので分からないが、パートのおばさんにそう言われた。俺に会いたい女の子?誰だ。記憶になかった。
なぜですかとか誰ですかとか聞くとおばさんの機嫌を損ねかねないので、俺は何も言わずにいうことを聞いてお菓子コーナーに向かった。
おばさんが言う通りお菓子コーナーには白い洋服にピンクのスカートをはいた女の子がいた。その子には見覚えがあった。例の半額シール事件、その親子の子供だった。向こうも俺に気付いたようだ。ちょこちょこと近寄ってきた。
「お兄さん。私のママを許してほしいの。あれはね、シールを貼ってしまった私が悪いの。ママは悪くないの。私がシールを貼ったから。私が私が」
確かにシールを貼ったのはここにいる女の子だ。それは間違えない。間違えないのだが、悪いのはこの子ではなく貼るように指示をした女の子の母親だ。母親が女の子に罪をかぶせて行ったこと。子供なら許されるだろう、パートもスルーしてレジを通すだろうと思って行動した母親が悪い。
「あなたが悪いわけじゃないんだよ。あれはね、君のママが悪いんだ。ママが悪いことをしたんだよ」
「ママはね、ここのスーパーが好きなの。ここのスーパーにまた行きたいって。だから行かせてほしいの。お願いします」
女の子は頭を下げてきたが、そんなことをされても母親の出禁を解除するわけにはいかない。そもそも俺に解除する判断は出来ない。出禁を解除するか決めるのは俺ではない。もちろんパートのおばさん達でもない。店長である。
店長が判断することである。でもな、出禁は解除されないだろうな。本来なら警察に連絡するのが正しい判断なのに、店長は出禁という形で罪を軽くしてあげたのである。その軽くした罪すら取り消しにしてほしいと母親は女の子を通じて言っているのである。無茶苦茶だ。罪の意識がない。
「いくら君が言ってもねもうママはこの店に来られないんだよ。いくら君が頭を下げてもね、もう来られないんだよ」
「いくらお願いしても」
「いくらお願いしてもダメなものはダメなんだ」
「分かった。じゃあこれをあげる。ダメって言われたらママにあの人に渡してっていわれているやつ」
女の子は持っていた鞄から紙を出し俺に渡してきた。俺はその紙を受け取った。
「じゃあね」
女の子は紙を渡し終わると走っていなくなってしまった。俺は紙に書かれている文字を読んだ。読み終えた後俺は店長に会うために従業員しか入れない場所に向かった。
「店長、半額シールの親、警察に渡してください。お願いします」
店長は俺が入るなりこう言ったため少し困っていた。
「君も知っている通り、警察には連絡しないことにしたんだよ。まぁ本当は本部の指示では警察に通報するということになっているんだがね」
「店長もこの手紙を見ればその意見を変えると思います」
「手紙?」
「はい。先ほどあの半額シールの親の子が来てこの手紙を渡しに来たんです。女の子はママがまたこのスーパーに来たいから出禁を解除してくださいって俺はそんなことは出来ないって言ったんですけどね。その後その子がこの手紙を渡してきました。受け取った後その子は走っていなくなってしまいましたけど」
俺は手紙を店長に渡した。店長は手紙を読み終えた後顔色を変えていた。笑ってはいない。驚きの顔だ。
「分かった。こないだ住所を書いてもらった紙もあるし警察に連絡する。君はもう帰りなさい。それからしばらくはバイトを休みなさい。いいか、これは店長命令だよ。大丈夫、クビにはしないしシフトも誰かに変わってもらえるように手配しておくから」
「分かりました」
俺は返事をしてその部屋から出た。レジを変わってもらったパートのおばさんに店長に帰れと言われたため帰りますと一言言ってからその日は帰った。
女の子にもらった手紙、そこにはこう書いてあった。
もし私の出禁を解除しないのなら、あの若い男の子のパートに危害を加えます




