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老科学者の空虚な日常

エイリアン・サピエンス

作者: 一飼 安美

 ……オレは、帰り道で車を飛ばしていた。大学の、友人と言うほどでもない友人が年寄りの学者の元を訪れて、なかなか帰ってこない。必要な資料を持っていきやがったから、手の空いているヤツが取りに行く羽目になった。土曜日の夜に動けると言っても用事がなかったわけではない。くそ。とっくの昔に学会を追い出されたという老いぼれは、友人に語るついでにとオレにも聞かせた。聞くのもバカらしい話。追い出されるわけだ、と一人納得していた。


 エイリアンとは。考えたことはあるかね?何かの冗談かと思えば本気で言っているらしい。宇宙人が円盤に乗ってやってくるなんて言い出せば痴呆症かと疑われる年齢。真剣に聞く友人の、気が知れない。この話だけ終わったら、すぐに帰ろうと思っていたら、逆に耳についてしまった。


 エイリアン。それは宇宙人だ、と一般に言われている。無論辞書を引けばそう書いてある。エイリアンとは、宇宙人だと。……同時に、いくつかの見解が描いてあるはずだ。その一つに、こうある。「異質なもの」。自分たちとは異なる存在は、エイリアンという言葉で表現される。そしてこれが宇宙「人」の話である以上、それは人間。異質な人間を、エイリアンと呼ぶ。ならば、異質な人間とは何なのか。よそ者?仲間はずれ?異教徒?いくらでも見解はあるが……これを論じるためには、「人」とは何か、を考える必要がある、と老いぼれは語った。


 人間の体は、重なっている。二つの違うものが、同じ空間に存在する。それは誰しも変わらず、程度の問題だという。人類の起源は二つが重なったこと、立って歩き道具を作り火をつける。霊長類の大半を占める猿の肉体には、必要のないことだという。何が重なったというのか、神様の悪戯か?と聞けば、いたずらにしては、おいたが過ぎると老いぼれは語った。これは、欠損。生物の欠陥構造が作った、異常であるという。


 大昔、まだ蜥蜴が世界を支配していたときなら、こんな欠陥構造を持てば即日食われていなくなる。だが、霊長類の生息環境において、その限りではない。そして、欠陥を持った霊長類は、同種を増やしたのだという。神様の悪戯とやらは、猿が真似すれば簡単にできるものだという。欠陥構造は、増えに増えた。維持できない範囲まで。そしてどこかで、臨界点を超えたという。


 やりすぎたのだ、と老いぼれは言っていた。かつては猿だった、今も猿と変わらない人間の体は、欠陥構造に支配された。かつてはホモ・サピエンスと呼ばれていた猿たちは気がつけばこの状態、生まれ落ちて物心ついたときには自分が人間ではなかったなどとは誰も考えない。エイリアンのいくつかのテンプレートの一つ、ブラックアイ・キッズと呼ばれるそれは神経系を支配した欠陥構造、異次元からの侵略に例えられる……申し訳ない、とオレは遮った。時間がないのも事実だったが、聞いていられなかった。


 まったく、ろくでもない日だ。オレは助手席に乗った初めて会う男に、話していた。あっちまで乗せるだけで300ドルなんて話はなかなかない。金持ちは、時間の方が大事ってか。男は、誰に聞いたのか、とカバンを探りながら聞いた。老いぼれの名前は、覚えていない。友人の名を言っても仕方あるまい。老いぼれの家は、もう80キロも離れていて教えるのも手間だ。人の家だしな。カバンから拳銃を取り出した黒い目の男は、笑って引き金を引いた。

今日、僕はお酒を飲みました。おいしかったです。

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