復讐は神がする〜とあるシタ女と雨の日の結婚式〜
雨の日に結婚式を挙げると幸せになれるらしい。神様が人間の汚れた心を雨で洗い流してくれるから。そんな噂を聞いた。
「あ、雨降ってきた……」
由奈は自宅の窓から外を見ていた。雨がポツポツ降り、窓ガラスが雫で濡れていく。最近はゲリラ豪雨も多く、迂闊に洗濯物も干せない。ちょうど今、洗濯物を取り込んだ所だが、運が良かった。
「そういえば結婚式も雨だったなぁ……」
洗濯物を畳みながら思い出す。数年前に挙げた結婚式も雨だった。参列客からブーイングが出ていたが、式場の牧師がこんな事を言っていた。カタコトのアメリカ人の怪しい牧師だったが。
「噂デスガ、雨の日に結婚式を挙ゲルと幸せになれるンデスヨ」
牧師の下手くそな日本語を思い出す。
「はあ……」
実際、由奈は幸せになれた。商社に勤める夫と可愛い娘にも恵まれた。郊外の一軒家に住み何不自由ない生活。
それでも今の由奈の表情は暗い。罪悪感がちくちくと刺激されていた。
由奈は結婚する前、不倫していた。相手は会社の上司だった。奥さんはメンタルを悪化し、由奈の個人情報をネットにアップし、逮捕までされた。今も精神を病み、病院に入院しているらしい。
その不倫相手とは逃げるように別れ、何としてでも苗字を変える為、婚活に励み、今の夫と出会った。由奈のそんな過去も受け入れてくれた。いわゆる理解ある彼という存在だった。顔はイケメンでは無かった。背も低く、体型も悪いが、由奈に絶対的に優しい。優しすぎるぐらいだった。
雨を降る度に思い出す。結婚式の牧師の言葉と、自分の過去。そして今の幸せ過ぎる状況も。
由奈は表面的には笑顔を作っていたが、ふとした時に思い出してしまう。
夢にも不倫相手の奥さんが出てくる事があった。その度に罪悪感に窒息しそうになり、いっそ不幸になったり、罰して欲しいと願うが、相変わらず我が家は平和。幸せ過ぎるぐらい幸せ。故に家庭を壊してきた罪をより一層感じてしまう。自分のしていた事はどれだけ酷いのか。夫や娘の笑顔を見るだけでも感じてしまう事があった。
「あ、また雨……」
翌日、娘を習い事の教室に送り届けた帰り、また雨が降ってきた。教室の近くにはチャペルがあり、誰かが結婚式を挙げているようだった。
うるさいほどチャペルの鐘の音が響き、耳を塞ぎたくなる。
「いやだ、もう神様。こんな復讐の仕方ってありますか? いっそ私を罰してくださいよ……。幸せだって辛いから…‥」
そう願うが、相変わらず何も起きない。しとしとと雨が降り注ぎ、由奈の心は痛み続けていた。