呪いの毒リンゴ
みんみんとセミが鳴いている。
「すいかできたわよ」
「「はーい」」
「どっちが早く食べれるか競争しようぜ」
「うんっ!」
「うぃー俺のほうが速かった」
「私のほうが速かったもん」
「いいや、俺だもん」
「ずるしたでしょ!」
「してねえし」
「した!」
「し・て・な・い」
「はいはい、けんかは止めなさいよ」
――――――――――――――――昨日あんなことがあったからだろうか。
昔は楽しかったな。よく二人でスイカ食べ競争をした。彼が変わったのはこの頃の年齢だっただろうか。
いやもしかしたらもっと後だったかもしれない。
君の笑顔はいつも私に元気をくれた。元気だけじゃない。私の幼い頃特有の「君のお嫁さんになる」ってやつも奪っていった。
あの頃はいつもが楽しかった。嫌なことがあってもすぐに忘れられた。あの頃に戻りたいなんて何度思ったことだろう。
くだらない会話も、駄菓子屋の10円ガムのアタリもどれも鮮明に覚えている。
「はあ」
「やっぱり私だけなんだよね」
私はそう独り言を言いながら学校へ行く準備をした。
思い出に頼るのは悪いことなのだろうか。秒単位で更新されていくSNSみたいに更新していくべきなのだろうか。
私はSNSがあまり好きではない。ただ私が扱いに慣れていないということもあるが、なんていうのだろう相手を誹謗中傷する道具とてしか私は思っていない。相手を痛めつけて何が楽しいのだろうか。他の人にニュースと言えばどんなニュースを思い浮かべる?と聞いたら政治家の汚職、殺人、強盗、闇バイトみたいのが上げられるだろう。どれもメリットなんてない。そんなことに時間は使いたくない。
そんなことを考えていると憂鬱な気持ちになってきた。何か楽しいことを考えよう。最近楽しかったことなんだろう。
学校祭――――――翔に一緒に行こうと言ったが断られた。
クリスマス――――翔にイルミネーションに行こうと言ったが断られた。
初詣――――――――翔に神社でおみくじを引こうと頼んだが断られた。
バレンタイン――――せっかく翔のために作ったが要らないと言われた。
全部翔ばっか。なんか嫌になってくる。
「学校行かなくていいの?」
母が呼ぶ声がした。
気づけばもう家を出なければいけない時間だった。
「もうすぐで準備終わる」
やっぱり私は不幸だ。ババ抜きでジョーカーが使われるように私もこの世の神様から嫌われているんだ。
学校に着くと翔は昨日のことなど無かったかのように椅子に座って本を読んでいた。
「…………おはよ」
「……………………」
返事が返ってくるかもと期待した私が馬鹿だった。
彼は氷の牢屋にでも閉じ込められているのだろうか。
トランプのカードから一枚抜けていてもゲーム中は誰も気づかない。そんな存在なんだ彼にとって私は。
「翔くん、おはよ」と凛々花が話しかけに行った。
「おう、おはよ」
「今日の小テスト面倒くさくいよな」
「ね、私何も勉強してないや」
「ほんとかよ」
この状況を普通の人が見たら、何も変哲もない会話だろう。しかし私にとっては大きな問題だ。
なぜ凛々花とか他の人とは普通に話すのだろう。
私が嫌われているから?私が気づいいないだけで何か彼にしてしまったのだろうか?
自分だけが追い込まれて、心が苦しくなってくる。
この心の苦しみは彼に対してだけなのだろうか?
それとも凛々花にも――――――
甘酸っぱかったのど飴も気づけば苦く、ぼろぼろになっている。