難度Aダンジョンへの挑戦
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ギルドはいつも通りの賑わいを見せる中、普段よりも明らかにピリついた空気を漂わせていた。
ギルド職員は走り回り、ギルド内の冒険者たちはざわざわとしている。
ギルマス部屋では、シィナが頭を悩ませていた。
「なんでよりによってこんなタイミングで進化するんじゃあ!!」
シィナは机をバシバシと叩く。その姿をみたギルド職員たちは不安そうな顔をしていた。
その中にはサラスの姿もあった。
「あの、進化ってどういう意味ですか?」
恐る恐るサラスが質問する。
「サラスは新入りだから知らんのか。いや?最後に進化が起きたのが何十年も前じゃからほとんどの人間は知らんか。
その名の通りじゃよ。ダンジョンの進化。ダンジョンがより高難易度に変わるんじゃ。
理由は分かっていないそうじゃが、これも神の仕業と言われておる。」
神。世界を作り出したとされている存在。人が魔法を使えるのは神からの贈り物とされており、そのため詠唱という名目で祈りを捧げることになっている。
たびたび人の世に干渉する神は、モンスターやダンジョンをも管理しているといわれている。
現在も明らかにされていない魔法の原理やダンジョンの存在。それらについての現象を人類は甘んじて受け入れるしかないのである。
「ローゼンさんは・・・?」
「今は連絡が途絶えてしまっておる。
ダンジョン外に出れている、もしくは進化のレベルが低ければ何とかなるじゃろう。
ただ、高レベルの進化となると・・・な。
今編成中の探索隊の到着は距離的に間に合わんしの。」
不安げなサラスにシィナがつぶやく。
その返答を聞いてどんどんサラスの顔が青ざめていく。
「わ、わたし!探索隊の冒険者たちの編成手伝ってきます!!」
サラスは走って部屋を出ていく。
手を頬に添えてため息をつくシィナ。
「相変わらず、嫌われておるのぉ。ローゼン」
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ここはダンジョン「浅い洞窟」。
光は収まったものの、ダンジョン全体が大きく震えている。ローゼンは立っていることもままならなくなり、ボス部屋を出るのが精いっぱいであった。
しばらくするとダンジョンの振動は収まり、座っているローゼンも動き出せるように。しかし、遠くからスライムの音が絶え間なく聞こえてくる。
どうやらモンスターの数が戻ったようだ。とんでもない数のスライムの音がする。
ローゼンはシィナの言葉を思い出し、ダンジョン外の出ることにした。
ふと、目の前に一匹のスライムが現れる。様子がおかしい。
いつもは青いスライムが、一回り小さく真っ赤な色になっている。しかし、ローゼンはこのスライムを見たことがあった。「双剣」時代、新規の難度Aダンジョンを探索していた時のことである。
スライムと侮った味方の一人が重傷を負い、撤退を決意した負の思い出。
「なんでこんなところに難度Aのモンスターがいるんだ?」
幸いスライムはローゼンに気づいていないようだ。ローゼンは上位の攻撃魔法を発動し、スライムの核を貫く。
スライムは必ず核を持っている。そこを破壊すると形を保ってはいられないため爆発するように霧散する。
スライムはぷるぷると震えたのち破裂したが、ローゼンの顔は浮かないままだ。
「一匹だけだといいけど、何匹もいるとさすがに魔力が枯渇するな。」
さっと立ち上がり、さっき赤いスライムの出てきた道をのぞく。
そこは、赤いスライムで埋め尽くされていた。
サッと血の気が引くローゼン。
「冗談だろ、はは・・・。」
ローゼンに気づいたスライムたちはいっせいに襲い掛かってくる。ぺちょぺちょという音が洞窟内に響き渡っているが、もはやローゼンにとっては絶望の音でもあるだろう。
もはや彼に残された道は、ボス部屋に入ることだけだった。
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ダンジョンはボスを倒すとクリアである。
その暁には高価なドロップ品や宝箱などが期待できる。
さらに、ボスを倒すとダンジョン内のモンスターが一時的に消滅する。
ローゼンの頼みの綱はこれだけである。ボスを倒すことでしか助からない状況。
おそらくシィナが組んだ探索隊は赤いスライム立ちに苦戦しボス部屋までたどり着くことはないだろう。
ローゼンは覚悟を決めた。
ボス部屋の大きな扉を開いて中に入ると、外のスライムたちを締め出すように扉を閉める。
中はとても開く、天井も高い。物はダンジョンコアが奥に置いてあるだけで他に何もなく、ただ広いだけの部屋である。
「あれが、ボスか?どうなってるんだ。」
本来、「浅い洞窟」のボスはヒュージスライムといい、4m近いサイズの大きいスライムである。
しかし、そこにいるのは赤い人型のスライム。スライムは核を中心として生成されている存在のため、球体に重力を加えたような形状をしているのが普通である。
人型のスライムは直立し、動かない。崩れる様子もなければ、こちらを攻撃してくる様子もない。
「先手必勝だな」
ローゼンは通常スライムに使う貫通力の高い魔法を使用し、人型スライムの頭部を打ち抜いた。
スライムは貫通力の高い魔法でなければ内部まで魔力が届かず攻撃にならないためである。
バシャっと音がしてスライムの頭が弾ける。
直後、再生して頭部が元通りに戻った。
「やっぱダメか」
ローゼンは手ごたえのなさを感じていた。というのも、人型スライムにはスライムとして大切なものがなかった。
核である。
核を弱点とするスライムの核がないとは、攻撃するすべがないのと同然である。
ローゼンは人型スライムを観察するが、どこにも核のようなものは見当たらない。
濁った水が人型を形成しているようにしか見えないのだ。
突如スライムの前がきらりと光る。
「!?」
ローゼンは反射的に体を動かす。頬からは血が滴っている。
後ろの壁には槍で刺したような跡が残り、その下が濡れていた。
人型スライムの攻撃である。高圧の水の槍がなんの予備動作もなくローゼンの頭めがけて飛んできていた。
まるで、先ほどのローゼンの魔法のようである。
「冗談じゃないぞ。このスピード、ほんとに難度Aのボスクラスじゃないか。」
何発も放たれる水の槍をよけながら文句を言うローゼン。
過去何度も討伐してきたモンスターと比較しながら頭を働かせる。
ダメもとで心臓めがけて貫通魔法を放つものの効果はない。
「これならどうだ?」
高温の炎魔法を放つローゼン。もちろん貫通力はないが、水を蒸発させるほどの高温が人型スライムを襲う。
スライムとは体のほとんどが水でできているモンスターであり、核から粘液を出して周囲の水分をまとわせている。そのため、高温の炎魔法は効率こそ悪いもののスライムの周囲の水分を蒸発させ、弱体化させる手段として周知されていた。
炎が人型スライムを覆い、ローゼンへの攻撃がピタリと止んだ。
それに伴いローゼンも立ち止まる。その額には大粒の汗が伝い、疲労の表情を浮かべていた。
通常、水モンスターを蒸発させるなどという行動はありえないことである。周知の事実ではあるものの、水を蒸発させるには膨大な熱量を必要とするため、魔力を大量に消費する。
ましてや今回の相手は人型であり、大人一人分の体積の水を蒸発させるだけの魔法を発動させるのはローゼンでさえ骨が折れる。
やがて火が消えるが、そこには多少小さくなった人型スライムの姿が残っていた。どうやら多少の効果はあったようだ。
「しんどいが、もう一発撃てればやれるか・・・?」
希望が見えたのもつかの間、人型スライムは元のサイズにジュクジュクと戻っていく。
戻りきると、頭上に特大の水の塊を浮かばせ始めた。
まるで先程のローゼンの攻撃のように。
「嘘だろ・・・」
どうやら先ほどのローゼンの攻撃は効果がなかったようだ。人型スライムはそれを模倣した攻撃準備をしている。
特大サイズの水の塊は先ほどのローゼンが放った炎の大きさに勝るとも劣らない大きさだ。
(よけられない)
瞬時に悟ったローゼンは人型スライム頭上の水の塊めがけて先ほどの魔法を再び放った。
水の塊は消滅したもののローゼンの魔力はすでに限界である。
汗をたらし、息を切らす。
人型スライムは再び水の塊を少しずつを浮かばせ始める。
「最近はみんなに任せてばっかりだったからな。」
クランのサブリーダーとして働いていたローゼンはほとんど自ら戦うことも減り、魔力量もブランクと共に減少しつつあった。
当然現状でも他のクランメンバーを上回る魔力量をもつが、全盛期には程遠い。
目を閉じ、動くのを辞めたローゼンに向かって、人型スライムは特大の水塊を投げつける。
直撃し、飛び散る水滴。しかしそこにローゼンの姿はない。
「くらえっ!」
人型スライムの背後に現れたローゼンは右手をスライムの体に向け魔法を放つ。
ローゼンが人型スライムの背後をとったのは、幻影魔法によるものである。
発動まで時間がかかること、発動までにかけた時間によって幻影の完成度が変化するためあまり実戦向きではないが、スライムが出そうとした魔法に時間がかかっていたことをローゼンは見逃さなかった。
特大の水の塊を連続で発生させるのには難度Aのモンスターといえど骨が折れたのだろう。
爆発が起きローゼンは後ろへ飛ばされるが、体勢を整えた状態で着地する。
煙の中には再び身体が小さくなったスライムの姿があったが、それも束の間、元のサイズに戻っていく。
(やっぱりそうか)
ローゼンが人型スライムに近づいた際、あることに気づいた。
無数の核があったのだ。
一つ一つは小さく、遠くからでは視認できないが近くに寄ると体のあちこちに小石のようなものがちりばめられている。
通常スライムは分裂により増殖する。
それぞれ一つずつ核を持ち、核が2つになると体もそれぞれの核を中心に分裂するのである。
しかし、人型スライムは一つ一つの核が小さく、核同士の距離が近いため分裂を起こしていない。
このスライムの最も恐ろしいところは、核が残ってさえいれば分裂により無限に再生できること、そしてダメージなどの外的要因に合わせて核分裂を自在に操れることだったのだ。
ローゼンは息を整え、覚悟を決めた。
「これしかないか」
両手を人型スライムへ向け、詠唱を始める。
「神を恐れぬもの。消滅を望み、世界を正しい形へ戻すもの。謳え。全て。
抹消。」
ローゼンの両手から灰色の光が現れる。
光は人型スライムを包むと、人型スライムごと消えていった。その場には水一滴すら残っていない。
「はぁはぁ。くそ。限界だ。」
ローゼンはふらりとよろめくと、意識を失って倒れるのであった。
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ローゼンが人型スライムを撃退する前、「浅い洞窟」ダンジョン入り口。
シィナ率いる探索隊は入口付近に大量にいる赤いスライムに囲まれ、足止めを食らっていた。
「まさか難度Aとはのぉ。
ローゼンが心配じゃ。」
「ギルマス!!ぼやくのはあとでいいから戦ってください!!」
探索隊の一人、ランク7の男性は戦闘しながらギルマスへ叫ぶ。
「なんのためにおぬしを呼んだと思ってるんじゃ。はよせい。ローゼンが心配じゃろうて。」
どこか余裕を感じるシィナ。それをみて益々機嫌が悪くなる男性。
「死んだらギルマスを呪いますからねぇ!!」
男性は杖を振りかざす。
その瞬間。周りのスライムたちが消滅した。
「え?」
男性や他の探索者たちの頭に?が浮かぶ。
ニヤリと笑うシィナ。
「やりおったか。相変わらずバケモンじゃのう。ローゼン。
間違いなくあやつは抹消を使っておる。おぬしら!ボス部屋へ急ぐぞ!!」
周りのメンバーがざわつく。
「ここからは、お楽しみタイムじゃ」
満面の笑みになったシィナは、小躍りでダンジョン最奥部へと向かった。
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