就職先でのお仕事②
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その日の業務がおわる頃、ローゼンはシィナに呼び出された。場所はギルマス部屋。
あたりは暗くなり、ギルド内のロビーが酒を片手に持った冒険者たちで賑わっている。
「どうじゃ、ギルドの仕事は。まぁそこに座ってゆっくり話せ。」
ギルマスは自分の体に不釣り合いな大きな椅子に座り、足をプラプラさせながら言う。
「じゃあここのソファに失礼します。
なんか採用後に面接してるみたいですね。
今日やった感じ、とても楽しいですよ。周りの人も個性的だけど優しいし。」
「そうじゃろうなぁ。ぶっちゃけ「双剣」にいたころに比べると明らかに暇になったじゃろうな。」
ケタケタと笑うシィナ。
ローゼンは「双剣」にいた頃、朝から晩まで暇がなかった。リクは他のクランとの会議やギルドとのやり取りなどで忙しかったが、ローゼンはクランメンバーの管理や育成などで夜まで頭を悩ませていた。
「そうですね。今は肩の荷が下りたというか、ちょっと気持ちが楽になっています。
ギルマスには感謝してますよ。」
「感謝してるのはわしもじゃよ。
今日サラスにもうっとおしいほど聞かされたわい。助けてもらったみたいじゃな。
さっそく馴染んでるみたいで安心したぞい。クズシも珍しく褒めてたしな。」
「いや、自分は大したことしてないですよ。」
「クズシが他人を褒めるなんて滅多にないことじゃ。
誇ってよいぞ。ましてや初日でこんなに評価をもらえるなんてな。採用してよかった。」
優しい目をしながらローゼンを見つめるシィナ。
ローゼンは久々に人に褒められて照れくさそうに目をそらす。
「ところで明日からはまた別の仕事もやってもらうんじゃが。」
「え?結構色々教わりましたけど。」
「大丈夫大丈夫。おぬしなら慣れてる仕事じゃ。」
「ギルドで、俺が慣れてる仕事ってまさか・・・残り物?」
戦慄して青ざめるローゼン。
残り物とは、ギルドで通称として呼ばれているもので、正式名称は長期間未着手依頼。
意味は簡単。冒険者たちがやらないめんどくさい残った依頼のことである。
そこまで重要でない依頼であれば依頼料と共に依頼主に返却するのだが、お偉いさんからの依頼や、ギルドでも重要と判断された依頼は基本的に達成することになっている。
難易度の高い依頼などはクランにギルドからの指名でお願いすることもあるが、ギルド職員が依頼をこなしてしまうことも多い。
ましてやローゼンのような一流の冒険者だった人は残り物依頼で使い倒されることが安易に想像できる。
「ほんとうに・・・採用してよかった。」
青ざめるローゼンを見ながらもう一度感謝を伝えるシィナ。
その優しく見えた笑顔は邪悪なものに変わって見えた。
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次の日、ローゼンがギルドに出勤するとサラスは既に受付で準備を進めていた。
サラスはローゼンに気が付くと手に書類を持ったまま寄ってくる。
「おはようございます!ローゼンさん。」
「早いねサラス。おはよう。」
「はい!昨日ギルマスから書類の整理を頼まれたので今日は早く来ました!
なんと・・・残り物依頼を!受けてくれる人がいるらしいんですよ!
今は頼む依頼の整理をしてるんです!」
ローゼンが固まる。
「いやぁ。世の中にはこんな依頼でも受けてくれる人がいるんですねぇ。
難易度こそ低いけどかなり長期間溜まってた依頼なのでおそらく大金でクランの人に依頼したんでしょうけど、これをやる人はかなり大変ですね。
ローゼンさんもそう思いませんか?・・・ローゼンさん?」
固まるローゼンの顔を覗き込むサラス。
「その依頼ってちなみに誰が受けるって書いてある?」
「あ!えーっと・・・。」
サラスはぺらぺらと書類を数枚めくる。
「うーんと、クランじゃなさそうですね。えっと、ローゼン=クリミナル・・・って。」
「「・・・」」
天を仰ぐローゼンに対して、サラスは何も声をかけることができなかった。
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「気を付けて行って来るんじゃぞ。」
ギルドの入り口でシィナはローゼンを送り出す。
心配そうな視線を受付にいるサラスから感じる。
「気を付けますけど、言うほど心配してないでしょ。シィナ ギルマス。」
「まあの。おぬしにとっちゃ赤子の手をひねる様なもんじゃ。めんどくさいがの。」
「はぁ。行ってきます。」
肩を落とすローゼンをシィナは笑っていた。
ここで今回の依頼内容を説明しよう。
依頼には採取依頼、討伐依頼、雑用と様々あるが、今回は討伐依頼である。
【ダンジョン内のモンスターが増えすぎていることによる被害発生中。モンスター討伐せよ。】
場所はギルドが管理しているダンジョン「浅い洞窟」。
ここは難度Dと低く、初心者向けとされている。
ローゼンも「双剣」にいたときはたまにここに育成のために来ていた。
「双剣」に来るような新入りは基本的にある程度の実績を持っている人ばかりだが、「浅い洞窟」には連携の重要性や魔法の使い方などを教える際に安全なこのダンジョンを使用していた。
討伐対象は「浅い洞窟」のメインモンスター、スライムである。
スライムは魔法での攻撃が有効なモンスター。そのため基本的には魔法使いしか来ない。
ローゼンはギルドを代表する魔法使いであり、今回の討伐に関しては全く心配していなかった。
ではなぜこんな簡単な依頼が長期間放置されていたのか。理由は3つある。
1、ギルド職員に戦闘用魔法を使えるものはほとんどおらず、討伐に不向きであった。
2、冒険者にとって簡単な内容すぎて面白みがなく、依頼発注当時は報酬金も安かったから。
3、しばらくして討伐対象のスライムの数が数えきれないほど増殖していたから。
付け加えるなら数が増えたことにより危険性が上がり、低ランク冒険者は受注不可になっていた。
「さて、こりゃ丸一日はかかるだろうなぁ。」
ダンジョンの入り口でぼやくローゼンはゆっくりとダンジョン内に入っていく。
そこで、ダンジョンの違和感に気づいた。
モンスターが一体も見当たらないのだ。ギルドの最新の報告では入り口から入ってすぐ大量のモンスターが現れるとのことだったが、静まり返っている。
ローゼンは嫌な予感を感じながらダンジョンの最奥へ向かうことにした。
「ほんとに・・・なんでこんなに静まり返ってるんだ?」
ダンジョンの最奥、ダンジョンコアがあるボス部屋前に着いた。
そこへ向かう途中も、スライムを一体も見ることはない。
ふとボス部屋内から物音聞こえてローゼンは中を覗き見る。
そこにはボスがおらず、ダンジョンコアが震えていた。
いつもはボスのヒュージスライムがおり、その奥にはダンジョンコアが置いてあるはずの部屋。
もちろんダンジョンコアが震えるなんてことはなく、百戦錬磨のローゼンでも初めて見る現象だ。
「まいったな。一度シィナ ギルマスに連絡するか。」
ローゼンは魔法通信でシィナへ連絡と取り付ける。
「おーローゼン。なんじゃどうした?今更やらんは無しじゃぞー。」
無邪気に笑う音声が流れる。しかしローゼンはそれに付き合う暇はない。
「何かがおかしいんだ。ちょっと報告しようと思って。モンスターもいないしダンジョンコアが震えてる。」
「はーーーーー!?なんじゃと!?
おぬし、はやくダンジョンから出るんじゃ!急げ!
おい!今稼働可能なクランを集めるのじゃ!できるだけ高ランクの!」
シィナの声から焦りが伝わる。どうやらとんでもないことが起こっているようだ。どたばたと人が走り回っている音が聞こえてくる。
ローゼンはシィナの言うとおりに急いで部屋を出ようとするが、ダンジョンコアが光出し目を奪われる。
瞬く間に周りが光に包まれ、ローゼンは何も見えなくなる。
「一体なにが起こってるんだよ!」
その時、ローゼンは不思議な声を耳にした。
男性とも女性ともとれる抑揚のあまりない機械的な声。
「ダンジョンを、進化します。」
ローゼンがギルドに勤めて二日目の出来事。
難度Dのダンジョンは、難度Aのダンジョンに進化した。
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