追放 そして③
続きです。
もたもたしてごめんなさい。
さらっと読んでいってください。
路地裏から離れたローゼンはダンジョンに来ていた。
どうせ今頃シィナがローゼンの自宅前で仁王立ちしていることだろう。
ならば彼女が帰るまでダンジョンで内なる鬱憤を晴らそう。というわけだ。
「このダンジョンも久しぶりだな。」
ローゼンが訪れたダンジョンは、シィナがマスターをしているギルドが管理している難度Aのダンジョン「深き森」である。
過去「双剣」が最初に踏破し、クランが大きくなった功績の一つでもある。
最初に「深き森」を踏破したとき、「双剣」はリク、ローゼンを含め5人だけであった。
当時だれも倒すことのできなかったダンジョンボスを無名クラン、それも少数のクランが討伐したことにより、知名度は跳ね上がった。同時にスカウトによって「双剣」を離れたものもいたが、いまでは「双剣」は誰もが知る大御所のクランである。
「あの頃はただ戦うばかりだったなぁ」
周囲は木に囲まれた森になっている。
ダンジョンは様々な形で存在する。自然が起こした奇跡ともいえる神秘的なものだ。
洞窟であったり、天空の島であったり、海に沈む神殿であったり、森であったり、、、。
それらをどうダンジョンと見分けるのか。それは出入り口の数により見分けられる。
神殿のような建築物は周りの土地ごと、森は森の中の一部がドーム状の見えない壁に覆われ、数か所の限られた出入り口が設けられる。
また、中央に行くほどモンスターは強くなり、中心にはダンジョンボスが存在する。
ローゼンがダンジョンに踏み込んでしばらくすると、無数の狼型モンスターが突如として現れ彼を囲む。
「さて、、、と」
ローゼンはただひたすらに寄ってくるモンスターをせん滅していく。
ボーっとしながら暫く狩りをしていると、遠くのほうから少女と思われる甲高い悲鳴が聞こえる。
ローゼンはふとその方向に目をやるが、すぐにモンスターへと目を戻し攻撃を再開した。
しかし、
「放っておく訳には、、、いかないよなぁ」
気が付くとローゼンはモンスターへ向けた視線を再びすぐ悲鳴のほうに向け、真っ直ぐと身体強化をかけた身体で向かっていった。
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「やっぱり無理だったんだよぉ」
「ごちゃごちゃ言うな!今は生きることだけを考えろ!」
どうしてこんなことに、と嘆く若い駆け出しらしき少女と、同じく若く駆け出し感のある少年が声を掛け合う。
どちらも革製の装備を身に着けた茶髪で、少女はナイフ片手に動きやすそうに縛ったツインテールをオドオドしながら揺らしており、少年は片手に盾を、片手に剣を持ち活発に動き回っている。
周りにはローゼンのときと同じように狼型モンスターが多数おり、二人組は明らかにぎこちない連携でなんとかモンスターをさばいていた。
「きゃあぁぁ!!」
狼型モンスターの飛びつきにのけぞり、しりもちをついてしまう少女。
モンスターの牙をナイフで抑えてはいるが、上を取られてしまっている状態だ。
「アンナ!」
少年はアンナと呼ばれる少女をかばうために上に乗っているモンスターを盾で押し飛ばす。
しかし、押し飛ばした背後から先程まで戦っていたモンスターが襲ってきており、背中を切られてしまう。
アンナは横たわる少年に駆け寄るも、少年の呼吸は荒く乱れて苦しんでいる。
「ジーク!!うそっ!!」
アンナがジークと呼ばれる少年を手で支えると手にべっとりと温かい液体の感触がして声を失う。
苦しそうなジークは小声でぼそぼそとアンナへ逃げるよう伝えるが、アンナはそこを動かない。
一斉にとびかかるモンスター。
恐怖で目を閉じるアンナ。
「だれか!誰か助けて!!」
アンナが目を開くと、そこには倒れているモンスターと見知らぬ一人の男の姿しかなかった。
もちろんローゼンである。
「大丈夫?ってそこの彼はまずそうかな、、、」
アンナへ声をかけようとしたところ瀕死のジークに気が付き、腰からポーションを取り出すローゼン。
ローゼンはジークにポーションをかけ傷がふさがるところを見ると、安心したような表情を見せアンナへ話しかける。
「無事でよかった。ポーションで応急処置はしたけどかなり出血してるから早く治療しに行ったほうがいい。ダンジョンの出口まで、、、いや、一緒に行こう。」
ローゼンはアンナの装備を見て考えを改める。革装備は機動性こそ良いものの防御力に欠ける。難度Aのダンジョンに軽装でくるのは上級者かよっぽどの初心者、もしくはよっぽどの間抜けである。
アンナたちはダンジョンの入口付近で苦戦していたことからも初心者だと分かるが、もちろん私服でダンジョンに来ているローゼンは間抜けである。
「あ、ありがとうございます。実は私たち、、、」
「いや、話はダンジョンの外で聞こうかな。危ないからね。」
アンナの発言を制するとローゼンはジークを背負い、三人はダンジョンの外へ向かった。
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ダンジョンから抜け出し、都市に戻りはじめたあたりでローゼンは口を開いた。
「で、どうして難度Aのダンジョンに君達のような駆け出しがいたの?」
ビクッとしながらローゼンの方を見るアンナ。
「やっぱり、駆け出しってわかっちゃいますか?」
「まぁ、一目瞭然だったかな。(俺の場合は「双剣」の頃の指導経験もあるからな)」
「私たち、二人でパーティを組んで冒険者になったばかりなんです。
ランクもまだ2になったばかりで、、、。」
「そうなんだ。ランク2になったばかりならなおさらなんでこのダンジョンに来たの?」
実は、冒険者8,9,10ランク以外はランクアップのたびに講習がある。
ランクアップした者の心構えからそのランクに見合った仕事やダンジョンまで、懇切丁寧に教わるのだ。高ランク冒険者に講習がないのは、教える側の立場の人間がほぼいないからである。
「わかってます。分不相応なことは。講習でも2人パーティのランク2冒険者は難度Dが限度だって言われましたし。でも、、、」
ちらっとジークに目をやるアンナ。
ローゼンはなるほどといった表情をする。
「この子が原因ってことか」
「そうです。自分はもっと活躍して、「双剣」みたいに偉業を成し遂げるんだって聞かなくて。
あっ、「双剣」っていうのはとても大きいクランで、さっきのダンジョンを少人数で攻略したり、最近もギルド本部から直々の指名を受けたりですごいクランで、、、。」
手をわちゃわちゃとさせながら説明するアンナ。自分がせわしないことに気が付いたのか、ハッとした表情を浮かべ、顔を真っ赤にしてテヘヘとうつむく。
「難度Aのモンスターを倒せるぐらいの方だったら知ってますよね。こんな事、、、」
「ま、まぁね。「双剣」は有名だから、、、。
ところで、君の名前を聞いてなかったね。俺はローゼンっていうんだ。」
ローゼンにしても自分が褒められて嬉しいやら恥ずかしいやらで絶妙な表情を浮かべ、話題を変えるために話を逸らす。
「ローゼンさん。私はアンナです。その背負ってるのがジーク。ランク2になって、ギルドにパーティ登録してからまだ討伐系の依頼もほぼ受けていない状態なんです。」
「そうか。なら尚更止めるべきだったな。アンナはジークと組んでるんだから。
お互いに命を支え合う存在だからこそ絶対に避けるべき道は閉ざしてあげないと。
俺も人のことを言えるほどの人生送ってないけど。」
恥ずかしそうに頬をかくローゼン。
アンナは意外そうな顔でローゼンを見る。
「ローゼンさん程強い人でもそんな苦戦するようなことがあったんですね。」
「もちろん。その時は自分じゃなくて友人を危険にさらしたんだ。今回のジークのように。
幸い友人は元気にやってるけど、あの時のことはいつまでたっても思い出すよ。」
しばらく話をしていると、シィナナのギルドがある町「カンネル」の病院についた。
「本当にありがとうございました。このご恩は必ず。」
「いや、そんなことは気にしなくていい。ただ、道中言ったことは必ずジークにも伝えてほしい。
またどこかで会えることを願ってるよ。」
ずっと頭をさげているアンナに背を向け、歩き出すローゼン。外は日が落ちもう暗い。
もうそろそろシィナナも家から離れているだろう。
はい。まだ職に就きません。
次の話も是非読んでください。宜しくお願い致します。