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「なんという浅ましさだ。お前の母は卑怯者で、お前は娼婦か」
チネロは、まだ、セインの話す言葉が嘘だと信じたかった。しかし、結婚初夜に言っていいような嘘ではなかった。
何がいけなかったのだろう?
チネロは自問自答するけれど、答えなど浮かんでくるはずがなかった。
政略結婚ではあったけれど、セインはチネロに優しかった。そこに恋心などなくても誠意を持って接してくれた。
チネロは、自分の思いが一方的な恋心だとよく理解していた。けれど、セインと一緒に過ごせる事だけが嬉しくて、何も求めてはいなかった。
「浅ましいお前の母のせいで、私は愛する者を伴侶にできなかった。それを止めなかったお前は罪人だ。顔を見るだけで吐き気がする」
セインは婚約者だった時とは別人のような冷たい目で、チネロを睨みつけて吐き捨てた。
それは、長年彼が耐えてきた怒りだった。
セインには、愛する人がいたのだろう。しかし、チネロの母の願いのせいでその人と共に歩く道を選ぶことができなかった。
「ただ、死ねばいいだけなのに無様に、僕の母さんに助けを求めるなんて……、情けない。お前が娼婦になろうと流行病になって死のうがどうだっていい事だ」
セインのチネロを見る目は冷たくて、身体の底から冷えていくのを感じた。
「僕は母さんのお前と結婚してほしいという願いはちゃんと叶えた。これからは、僕の自由にする」
それは、どういう事なのだろうか、チネロは、愛人を迎え入れるつもりなのだろうかと瞬時に思った。しかし、セインの雰囲気でその程度の事で終わりそうにない気がしていた。
「せ、セインさ……」
チネロが声をかけようとすると「黙れ。お前の声を聞くだけで虫唾が走る」と、セインに怒鳴りつけられた。
「3年間、白い結婚が認められたらお前を自由にしてやる。私の妻になったのだから死なない程度には生活の面倒は見てやるが、それ以上は求めるな」
チネロは、これから自分がどうなるのか不安で仕方なかった。今も悪い夢だと思いかけていた。
しかし、メイドにわざと引っ掻かれた素肌が今になってジクジクと痛みだした。
それが、現実だと訴えかけるように。
「逃げようなどと思うなよ。お前の行動一つ一つ監視している。男を連れ込んだら不貞で追い出してやる。弟に迷惑をかけるなんて事はできないよな?」
セインは、手を叩いて笑い出した。
「今日ほど楽しかった日はないな。お前の天国から地獄に落ちた瞬間の顔を見れたのだから」
寝室に取り残されたチネロは、震える身体に叱咤した。
何をされるかわからない。けれど、三年自分の罪を償えばこの家から出して貰える。
逃げようとしたら、家を継ぐ予定の弟と父に迷惑をかけてしまう。
大丈夫。大丈夫だから……。
そう、自分に言い聞かせてチネロは恐怖に震えながら一晩を過ごした。