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という話  作者: 門松一里


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「調べる」という話

「調べる」という話


自分が考えたことをそのまま相手に伝えるのは品がありません。とても愚かな行為です。


なぜなら、先人の知に対して敬意をはらっていないからです。


きちんと調べることが大切です。


*****


私たちの知は、ほとんどが先入観です。先人が試行錯誤して「まあこれがマシであろう」 (最悪だが、過去のそれよりも最悪ではない) という知です。チャーチル。


私の小説にはさきほどの「チャーチル」のように、印象的な言葉のあとに人物や事象の名をあげています。どうしてでしょうか。


もちろん、関連深い人物や事象だからです。知っていれば、笑えるのです。

※チャーチルについては、前述の「「民主主義の終焉」という話」を参照してください。

https://note.com/ichirikadomatsu/n/n4c3df16d5d48


これを笑えるか笑えないかが、知性です。#blackjoke


冗談ですよ。"最悪 チャーチル"でweb検索したらでてきます。


ただし、「最悪」がどういった事象か、 "Sir Winston Leonard Spencer-Churchill" がどういった人物か、どれだけの人が知っているでしょう。


「最悪」は英国の劇作家ウィリアム・シェイクスピアに語ってもらいましょう。


"And worse I may be yet. The worst is not so long as we can say 'This is the worst.'"

King Lear 4-1

「もっと最悪になるね、これは。『最悪だ』なんて言えてるうちは最悪じゃあない」


『リア王』第四幕第一場です。こちらはリア王ではなく、異母弟に謀られ追放されたエドガーの台詞です。


『リア王』はかなり悲惨です。四大悲劇の一つですから当然といえば当然ですが。ほとんどの登場人物が亡くなります。そして誰もいなくなった。


次男に騙されて長男エドガーを追放した父グロスター伯は両目をえぐられます。そうでもされないと騙されたと気づかないのです。


本当の最悪は、何も言えなくなります。それこそ「笑わなければしかたない」状態になります。


この最悪の「笑い」はとても重要で、ブラム・ストーカーが小説『ドラキュラ』で "King Laugh" を登場させています。エイブラハム・ヴァン・ヘルシング教授が「笑いの王様」を語っています。かなり不謹慎ですが……。


ともあれ、「何もないものからは何も生じない」のです。

cf.

"Nothing will come of nothing."

King Lear 1-1


"cf." は "confer" の略で、ラテン語で「比較せよ」「参照せよ」という意味です。


こうした注釈は古典になるほど多いです。いわゆる先人の知です。


たとえば、ジョン・ミルトンの『失楽園』 (上) (岩波書店、1981年) は全443ページですが327ページからは訳注です。実に1/4が訳注です。初心者が訳注なしに読むのは不可能でしょう。


デヴィッド・フィンチャー監督の映画『セブン』にもあった "Long is the way and hard, that out of Hell leads up to light." は、第二巻四三二〜四三三にある悪魔サタンの言葉です。


訳注を見てみましょう。『アエネーイス』は古代ローマの詩人ウェルギリウスの作品で、そのウェルギリウスがダンテの『神曲』に登場します。※二重括弧『』は書籍をあらわします。


「想起せしめる」とあります。「原典はこちらだと知っていますよね」です。さて、『アエネーイス』ではシビュルラがアエネーイスの案内を、『神曲』ではウェルギリウスがダンテを案内します。『失楽園』では誰がサタンの案内を?#blackjoke


こうした知を一つ一つ、教養でつなげるのは案外簡単です。何か一つでいいですから、学んでみましょう。それは必ず私たちを助けますよ♩


そうすると、スティーブ・ジョブズのスタンフォード大学卒業式辞のドットのようにつながります。

cf.

スティーブ・ジョブス スタンフォード大学卒業式辞 日本語字幕版

https://youtu.be/XQB3H6I8t_4


*****


具体的にどう調べるか〈証拠資料 (エビデンス) や言質を集める方法〉ですが、田中泰延の『読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術』 (*) の「第3章 どう書くのか 〜「つまらない人間」のあなたへ」を参照してください。一般的なことはぜんぶ書いてあります。


*田中泰延『読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術』 (ダイヤモンド社、2019年) 第3刷


「第3章」の目次を閲覧してみましょう。


第3章 どう書くのか 〜「つまらない人間」のあなたへ

その1 つまらない人間とは「自分の内面を語る人」

その2 物書きは「調べる」が9割9分5厘6毛

その3 一次資料に当たる

その4 どこで調べるか

その5 巨人の肩に乗る

その6 感動が中心になければ書く意味がない

その7 思考の過程を披露する

その8 「起承転結」でいい

文章術コラム❸ 書くために読むといい本

注目すべきは「その3 一次資料に当たる」です。


大作家が新作を書くときに、神田神保町の書店が空になるという話があるそうです。


原典を調べるのはとても楽しいです。どう楽しいかはご自身で調べてみれば分かります。勘違いやら偶然や嫉妬や憎悪など人間性が出てしまいますが。


瀧本哲史 (京都大学客員准教授) も「原典に当たってみると、いろいろおもしろいことがわかる」と述べています。


私の経験上、原典にあたってみると、もっと良いことが書かれているということがすごくある。本当はすばらしい研究なのに、適当に省略されていたり、肝心の部分が削られていたり……。面倒ですが、原典にあたることを習慣にすると、他の人より一段上の意見を言えるようになるでしょう。

*瀧本哲史『武器としての決断思考』 (星海社、2011年) P198

なお、田中泰延オススメの「文章術コラム❸ 書くために読むといい本」の最初の3冊は必ず読むべきです。


1.ロマン・ロラン『ジャン・クリストフ』

私は高校一年のときに読みました。アマデウス・モーツァルトを愛する友人の影響でルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンを聴きだしたからです。ベートーヴェンはしつこいです。どうしてもあんなにも何度も何度も語りかけるのか。知りたくなった私はロマン・ロランの『ベートーヴェンの生涯』を読み納得しました。


「コイツ変人や!」#joke


なぜ、ベートーヴェンがあれだけ何度も何度も語りかけたのか?


ベートーヴェンが現代のプロメテウスだからです。※私が言っているだけですが。


私にとってモーツァルトは情景です。人生の背景にあります。レクイエムでさえそう。いつもの景色。ただ、ベートーヴェンは違います。あいつ魂ノックしよる。ノックしないで♩


ウィリアム・シェイクスピアが人は夢でできているとした時代から、ルネ・デカルトによって人は神の御手を離れ、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは人は歓喜でできているとしました。


モーツァルトまでは楽しみは「人間 (貴族=ブルーブラッド) 」のものだった訳です。ベートーヴェンは楽しみを「人間 (市民=赤い血潮) 」のものにしました。それこそトーマス・クーンのいうパラダイムシフト (*) がおこった訳です。※クーンの意図する意味ではありません。


*トーマス・クーン『科学革命の構造』


それは「人間」を肯定否定する考え方が一般的になったということです。※精密には違います。


なぜなら、モーツァルトがどんなに下品なことをしても (神から与えられたギフトだから) 許せる訳です。共感しないのです。


でもベートーヴェンは違います。好き嫌いがあります。音楽が人間性をもった瞬間を私たちは知っています。ですから、同時代人でない場合、ベートーヴェンを知るには『ジャン・クリストフ』を読むのが必須になる訳です。


2.ダンテ・アリギエーリ『神曲』

別の機会にしましょう。


3.カール・マルクス『資本論』

創作『ジャン・クリストフ』は、詳しく調べた伝記『ベートーヴェンの生涯』から成り立っています。『資本論』の証拠資料 (エビデンス) は大英図書館によるものです。


突然出てくるシェイクスピアの登場人物、「マダム・クイックリー」の話など、「このたとえ話、要るか?」と突っ込みたくなる話が盛り込まれている。しかしそれにより、その長い長い経済学の古典は、読み物として成立している。

*田中泰延『読みたいことを、書けばいい。 人生が変わるシンプルな文章術』 (ダイヤモンド社、2019年) 第3刷P210

マダム・クイックリーは、史劇3作『ヘンリー四世第1部』『ヘンリー四世第2部』『ヘンリー五世』と、そのスピンオフである喜劇『ウィンザーの陽気な女房たち』に登場します。けっこう楽しいです。


他の史劇でいうと、『ジョン王』のフィリップや、『リチャード三世』のリチャード三世はとても魅力あります。


実のところをいうと、田中泰延にも突っ込みたくなる話があります。


P221に「書くことは世界を狭くすることだ」として「コンチキ号」という筏 (いかだ) の船の話があります。知らなければ「いまこの話には関係ない」のですが、筏の話は雄大でなおかつ誤った説なので「トンチキ」なジョークなのです。


「書くことは世界を狭くすることだ」ですから、本来なら狭さに対しての広さを説明すべきですが、田中泰延はジョーク一つで片付けています。しかし、筏は学説を確かめるための実験であり、学説はトンデモだったと知るとどうでしょう。つまり「調べていないとトンデモないことになりますよ」と暗に警告しているのです。

cf.

https://twitter.com/ichirikadomatsu/status/1173775460192276480


門松さんだけがわざわざあそこにヘイエルダールを持ってきたしょうもない苦労を発見してくださったwww

https://mobile.twitter.com/hironobutnk/status/1173784108394135552


確かにコンチキ号は海を渡りましたが、ヘイエルダールは「ポリネシア人は南米から来た!!」という青森のキリストの墓みたいなトンチキな仮説に基づいてそれをやったんです。

https://mobile.twitter.com/hironobutnk/status/1173787565209448448


「古典を知らなきゃ無駄に頭と時間を費やす」


は本当に知っといたほうがいい。


ある今時のヒーロー映画の評論で「なぜ主人公はこんな行動をするのか理解に苦しむ」と延々と書いてある。


ポピュラーな古典を知ってればその行動は


「モロにマクベスオマージュで類型的だが、面白い。」


の1行で済む

https://twitter.com/hironobutnk/status/1173721987283210240


『マクベス』は『リア王』と同じくシェイクスピアの四大悲劇の一つです。評論をする人間がシェイクスピアの四大悲劇を「観て」いないなどありえません。


戯曲は「読む」前に観るものです。読むのは (映画やドラマでもいいので) 観てからにしましょう。品がないです。映画『セブン』のなかでブラッド・ピット演ずるデビッド・ミルズ刑事が、シェイクスピアの『ヴェニスの商人』を"Didn't see it" (観ていない) と言っています。


「調べた上での余った知識はジョークになる」のですが、「古典を知らなきゃ無駄に頭と時間を費やす」ことになります。


では、私がどうやって調べているかお話しましょう。次から具体的な話です。


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