新教皇エルザ
この日、神聖国ルリジオンに新たな教皇が生まれた。その名も
『エルザ様!!!』
国民からの声が国中に轟く。
その声を教会本部にて一身に受け止める少女。彼女こそが新教皇エルザである。
その姿は、先日までの嫌々といった雰囲気はなく、寧ろ堂々としていて、その座を誇りに思っているほどだ。
ちなみに、エルザを教皇にするにあたって、流石に十台神官は揉めた。それはもう。
真実を知らない神官達は、エルザが継ぐことに不満はなく、寧ろ反応は良好だった。
だが、真実を知る十台神官からしてみれば、裏切り者がトップに立つなど言語道断。あってはならぬ事だった。
それは光達勇者一行も同じ気持ちで、何も言わない椿や、花恋、リーリエに加え、エルザと直接戦ったエミリーにも止めないのか言ったくらいだ。
だが、エミリーとユウリはエルザが教皇になることは賛成だった。
エミリーはエルザの気持ちをわかったから。ユウリはエルザの気持ちに気付いていたから。
だから二人は十台神官と光達を説得したのだ。
その結果、十台神官と光達は、なんとか納得したのだった。
だが、エルザがこれほどまでに堂々としているのは、前日に椿と話したからだ。
□■
「よう」
椿はその日、グロルと対面した丘の上まで来ていた。
理由はただ一つ。
「………なんですか?」
エルザと話しに来たのだ。
「お前と、話しに来たんだよ………」
そう言って椿はエルザの隣に立つ。
暫く2人の間に沈黙が続いたが、エルザが口を開いた。
「………ダメですね、私」
「何がだ?」
「あれほど、グロル様が傷ついていたのに、ずっと傍に居たのに………私は、何もしてあげられませんでした………」
エルザは俯きながら涙を流す。
「ユウリに………教皇になることを勧められて、なると言いましたが、私には、やはり無理です………恩人一人、真面に救えない私なんて………」
妙に自分を卑下するな。それが椿の感想だった。
(まあ、生まれ育った環境を考えると、そうなるか)
自分勝手な親によって教皇が歪まされ、その教皇の元で育った子供。
ずっと近くにいたのに、救ったのが別の人間となると、そうはなるだろう。
「確かにそうだな。お前はグロルを救えなかった」
「っ………」
エルザが俯きながら少しだけ悔しそうな声を出す。
「だが、グロルを救ったのは俺でもない」
「………え?」
エルザは素っ頓狂な声を出した。それはそうだろう。グロルを救ったのは、ずっと椿だと、エルザはそう思ってたのだから。
「俺はあいつの本当の気持ちを曝け出す手伝いをしただけだ」
椿がみせた都合のいい夢。それがグロルを救ったのだ。
そして夢の中で現れたグロルの元カノがグロルの本心を暴き、グロルを救った。
「なぁ、エルザ。これでもまだ、お前を縛るものがあるのか?」
エルザの心は、もう縛られていない。いや、元から縛られていない。
エルザが勝手に、自分の心を縛っていただけなのだから。
「お前は、もっと素直に生きてもいいんだぞ?あいつも、そうし始めたんだからな」
椿の言うあいつがエルザには誰か、すぐにわかった。
(グロル様………)
ずっと傍に仕えていた主君。だが、その関係は終わった。だから、
「私は………悲劇が少ない国を作りたいです………」
グロルが未完成ながらも、達成しようとしていた目標。それは悲劇のない国。
だが、それはグロル自身が壊した。元より、悲劇のない国なんて作れはしない。だから、
「たとえ困難が待ち受けても、みんなで解決出来る………そんな国に」
それが今のエルザの最終目標だった。
「そうか………」
椿はそれだけ呟くと、静かにエルザの頭を撫でた。
「何するんですか………?」
急に乙女の頭を弄った椿にエルザはジト目を向ける。
「悪い悪い」
椿はそう言いながら歩いていった。
「なあ、エルザ」
最後に、
「帰る手段が見つかったらさ、帰る前にこの国に寄っていくから………いい国にしとけよ?」
それだけ言って去って行った。
それが、グロルを失ったあとの支えになるような気がして………
「ありがとうございます」
エルザは胸の中で、小さく感謝を告げた。
□■
そして今は戴冠式。戴冠式を務めるのは、なんと椿だった。
「なんで俺が………」
椿は嘆くが、これには理由があった。
グロルと上空で戦っていた少年。それが本当に味方であることを国民に知らせるため。後、エルザの要望だ。
「なにはともあれ………」
これで全部終わった。
そうして無事にエルザが教皇に就任して、椿は一足先に宿に戻る。
「さて、次の準備でも始めるか………」
そうして椿は荷物を纏めようとして
「………は?」
足元が光出した。
椿はすぐさま転移で逃げようとするも、その瞬間に魔法陣から蔦が伸びて椿の足を軽く拘束した。
その間に光はより一層強くなり、ついに椿を飲み込んでしまった。
「椿くん………エルザさんからお礼として差し入れが………」
そんなことを言いながら部屋に入ってこようとした花恋すらも置き去りにして。
光が消えると、見たことも無い場所にいた。
周囲は石出できていて、洞窟などではなく、整備されているようだ。そうして
「かかったぞ!これが、私たちの新しい種馬だ!」
褐色の女たちが椿を囲んでいた。
そんな中、椿は一言。
「取り敢えず、状況説明してくんない?」
というわけで、かなり中途半端ですが、これにて2章は終了です!
いつも読んでいただき、ありがとうございます!
そしてここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!
今回で神聖国編は終了です
1章が椿メインに対して、2章は全員にスポットライトが当たるように頑張りました
ですが、実際にできたことは取り敢えず全員が戦闘に参加する!なんですよね………
次回からは3章なのですが、3章は短い予定です
まあ、プロットなんてないんですけどね笑
ですが、2章もプロットなんてなかったですし、案外なんとかなると思ってます
最近はストックもできてきたので、何かあっても更新は途絶えないと思います
というわけで、ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
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