ある丘の上で
彼女は一人でその場所に立っていた。
「グロル様………」
彼女の名前はエルザ。先日、グロルの作戦に加担して国に対してテロ行為を行った人物の一人だ。
もっとも、純粋な人間は彼女一人しかいなかったが。
「私は………」
どうしたらいいのだろうか。それがわからなかった。
グロルは敗れた。そしてエミリーの下に着いた。
「好きにしなさいと………そう言われましたが………」
グロルも、やっと自分の居場所を見つけた。ならば、グロルの負担にならぬように自分も何かをしなくてはいけない。
職を探すのもいいだろう。それまでの軍資金が心もとないのを除けば。
エルザは十台神官として過ごしていた頃の給金は、全て教会に置いてきた。なので現在エルザは無一文だった。
「はぁ………」
折角生き残ったとしても、この状態ではやる気も削がれる。
エルザがエミリーの元に行くという選択肢はない。今更、グロルと同じ場所にはいけない。
エルザがグロルのことを避けているのではない。だが、気まづいのだ。
「………行きますか」
エルザはギルドに行くことを決めた。冒険者ギルドならば、素性を詳しく調べられることもない。今のエルザならば、A級冒険者くらいにはすぐに到達できるだろう。
「ずっと俯くのは………」
ダメだと思い、顔を上げると
「あっ。やっと顔を上げてくれましたね」
ユウリが立っていた。
「………なんの用ですか」
エルザは今から職を探しに行くのだ。
「用事ならば、ありますよ」
だが、ユウリはしっかりとエルザの顔を見ながら言う。
「私は、エルザ。あなたを教皇に推薦しに来ました」
突然そんなことを言い出したユウリに、エルザは絶句する。
「何を、言っているのですか………?」
「何って………教皇になって欲しいって」
「冗談の、つもりでしょう。ですが、冗談にしてはタチが悪すぎますよ」
エルザはギロリとユウリを睨みつける。
「冗談じゃないんだけどなぁ。信じてくれなさそうだし、私がエルザを教皇に推薦しに来た理由を教えるね」
まず、今の十台神官には、教皇にふさわしいと思える人材がいないこと。そしてこの国の、この民の苦しみを理解してる人こそが時期教皇にふさわしいと考えたからだと、もう二度と同じ誤ちを繰り返さないためにも。
「だからって………」
確かに、他にも人材はいたかもしれない。だが、
「私は、エルザにやってほしい」
それは、ユウリの紛れもない本音だった。
私情もあるだろう。神官としては許されざる行為だろう。だが、他の誰になんと言われようとも、
「私は、今、エルザに教皇になって欲しい」
苦しめる為じゃない。下を向いてしまった友人を前を向いて歩かせるためだ。
「誰もが、あなたを認めてくれる………」
ユウリはそう言いながら手を差し伸べた。
「やって、くれますか?」
それでも、エルザの中には葛藤があった。
本当に、自分なんかがそんな重大な立ち位置にいてもいいのか、と。
だが、気がつけば………
「全く、しょうが、ないですね………」
その手を、握っていた。
その瞬間、神聖国ルリジオンに、新たな皇が誕生したのだった。
□■
「この街も、随分活気を戻してきたな………」
「はい!結局、あのテロ行為では誰も死にませんでしたからね」
「まあ、最終的にアンデッドを掃討したのは椿だったけどね………」
椿は現在、花恋とリーリエと一緒に街を歩いていた。
神聖国ルリジオンの街は活気に満ちている。
三人は露天で軽食を買いながら街を見て回っている。
「テロ行為が終わって、今から何かをしようと考える人はいないみたいだしな………」
もっとも、教会は今現在は、黒幕を倒した化け物がまだ国に滞在していると言っているので、その影響もある。
「それにしても、全員が見てる前でだなんて………椿くん、やりすぎたのではないでしょうか?」
花恋が心配そうに聞いてくれる。だが、
「大丈夫だろ。これからの抑止力にもなるしな………」
「なるほどね………今回の戦いを、魔王や神が見ている可能性があるとすれば、椿の実力の一端を見せておくのは悪い考えじゃないかもね………」
椿の神や魔王に対する牽制。
これで椿に手を出さないでくれるといいのだが、
「まあ、そんな簡単にはできないだろうな………」
椿は難しそうな顔で考える。
全く、事件が終わっても考えることは山積みだ。
「ところでさ、椿はエスポワール王国に帰ったあと、どこに行くつもりなの?」
帰ったあと。事件も落ち着いた。ならば、新たな九つの試練を求めて別の国まで赴くのもありだろう。だから………
「今度は、獣人の国にでも行ってみようかな………」
次の目的地への思案を始めるのであった。




