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竜の誇り

 平一たちは、あまりにも凛とした佇まいでそこにいる花恋の姿に見惚れる。


「せめて……」


 花恋の援護に。そう言おうとして、先程起き上がったばかりの翔は立ち上がろうとするも、


「はい、ストップ」


 リーリエの手によって阻止された。


「なぜ、なんだ?リーリエさんは、花恋さんが……心配じゃないのか?」


「別に?だって、花恋があの程度の敵にやられるわけがないし」


 リーリエはそう言いながら静かに花恋を見る。


『gugyaaaaa……』


 ドラグは、静かに花恋を睨むだけだった。

 当然だろう。突然現れ、不意打ちとはいえドラグを殴り飛ばしたのだ。弱いわけが無い。


 まずは小手試し。そう思って花恋を殴ろうと腕を動かしたが、


落ち着いて(・・・・・)動かないで(・・・・・)ください(・・・・)


 花恋がそう言っただけでドラグの動きは止まってしまった。


 花恋のその微笑み、その姿を見て、花恋にそう言われるだけで本能がそれを肯定してしまう。


 だが、ドラグも必死に体に命令を降す。動けと。目の前の相手を殺せと。


 だが、花恋のたった一言でその行動全てが無効化されてしまう。


『ga……gyaa……』


 念の為に警戒していたリーリエのことも既に視界には入らなかった。ドラグは、ただ花恋一人だけを見つめている。


 花恋が少しづつ近づいてくる。それだけで脳は警戒と、歓喜の感情を排出し続ける。


そのまま(・・・・)負けを認めて(・・・・・・)帰ってください(・・・・・・・)


 花恋のお願いに、ドラグは逆らうことが出来ない。ドラグの体は、花恋のお願いを受け入れ、翼を広げて魔界に帰る準備を始めた。


 下で先程まで自分が蹂躙していた者たちの顔が、姿が見えた。


 その瞬間、ドラグの動きは止まった。


 そのままドラグは魔力を高め、花恋に敵意を向けた。


「……あ、あれ?」


 花恋は動揺している。それはそうだろう。もう帰ると思っていた相手がそれを中断してこちらに敵意を向けているのだから。


 そして、その竜が敵意と同じくらい花恋に見蕩れているのだから。


「なぜ、ですか……?」


 花恋にはわけがわからなかった。


 だが、ドラグはその理由が鮮明にわかった。わかってしまった。


 花恋が全力で魅了した。その影響でドラグは危うく花恋の言いなりになるところだった。実際、異種族にも関わらず、ドラグは花恋のことが好きになってしまったのだから。


 だが、ドラグは好きな相手には笑顔でいて欲しいとも思う。笑って欲しいと、嬉しそうな顔でいて欲しいと、楽しんで欲しいとも、そんなありふれた感情も抱く。


 だが、それ以上に花恋の絶望した表情を見たかったのだ。苦痛に歪んだ顔を。苦しそうな顔も、泣き叫び、命乞いをする顔も、相手の全てを知りたくなったのだ。


 花恋はドラグを誘惑しすぎた。間違えてlikeからloveにまで昇華させるくらいには。


『gugyaaaaa!!』


 ドラグは咆哮を上げながら花恋に向かって尾を振るう。


 だが、花恋はその攻撃を片手で受け止めてしまった。


(ああ……これだ……)


 これほどまでに強い相手を屈服させたい。そんな感情がドラグの内から溢れ出てくる。


 ドラグは全身に竜の魔力を纏い、花恋に向かって突進する。


「"天蓋"っと。なぜ途中で通用しなくなったのでしょうか……」


 これは、椿の使う"呪言"とは全く異なる技。技能による誘惑だ。


 それを断ち切るということは、ドラグがその気持ちに対して耐性ができた……と花恋は勘違いしている。


 実際はドラグの愛が歪だっただけだが。


『gagyaaaa!!』


 ドラグは上手く後方へ下がると、上空に岩を浮かべた。


「地属性の魔法まで、使うのですか……」


 そして、満を持して落とされた隕石とも言える土球は、


「はい」


 花恋が手にした刀によって楽々と切断された。


『gagya?』


 ドラグはその不可解な現象に驚き、花恋はその手に持った刀をまじまじと見る。


「これが、名刀〈閻魔〉村の人達が秘宝と言っていた理由が分かります……」


 実は、作戦前に椿からもらっていた刀。

 花恋は実戦では始めて使ったが、思ったよりも使い勝手がよさそうだと見ていた。


『gu、gagyaaaa!!』


 ドラグは再度咆哮を上げながら花恋に突進する。口をあけて、花恋を噛み砕くつもりなのだろう。


 だが、花恋はドラグが噛み付く寸前にその場から姿を消した。


『gya?』


 ドラグは気になって周囲に視線を動かすが、


「えいっ」


 そんな声と共に、衝撃は上からやってきた。


 花恋がドラグの背に蹴りを加えるだけで、ドラグはその場から地に向かって勢いよく落ちていった。


『gagagya!?』


 想像以上のダメージに、思わずドラグも悲鳴をあげる。

 そのまま、花恋は尻尾を掴むと、ドラグを投げ飛ばし、投げた先で蹴りあげたかと思うと、すぐさま地上に殴り落とされた。


 視線を上に動かすと、ドラグを見下ろす花恋の姿があった。


 その姿があまりにも綺麗で……そして、そんな彼女を倒せない自分が憎たらしくて。


『gababababa!!』


 ドラグは、禁域解放を行うと、上空に勢いよく飛び上がった。


 あまりにもあんまりなプレッシャーに、翔たちは怯むが、花恋だけは笑って受け止めていた。


 ドラグは、既に竜としての誇りも何もかも失った。


 だが、今の花恋は、そんなドラグを、真っ直ぐに竜として見てくれている。


 だから、ドラグは始めて好きになったものに、恥ずかしくないように、正々堂々と挑み、滅ぼうと決意した。


 わかっているのだ。ドラグは、この程度では花恋には及ばないと。


 だが、この高潔な少女に恥じない戦いをしようと。


 先程放とうとしたブレスすらも優に上回る威力のブレスを口から放射する。


 それに合わせ、花恋も自身の魔力を高め、手に〈閻魔〉を握る。


「花恋さん!」


 クラスメイトたちは、花恋の身を案じるが、リーリエだけは違った。


 ぶちかませ。たとえ目が合わなくとも、この二人ならこの程度の意思疎通はできる。


 まるで花恋は「任せて」とでも言うかのように、刀を抜刀術の体勢で構える。


 ドラグのブレスが直撃しようとした瞬間、その刀は抜かれた。


「閻魔一刀流ーー覇閻」

花恋が今回最初に使っていたのは、花恋の魅了による相手の意識誘導です


椿が一度深夜テンションで作り上げた技能を似合いそうな花恋に譲渡した技能ですね


この技能の第一効果として自身の魅力を何倍にも引き上げるところです。ここには昇華魔法が使われています。


そして第二効果として、相手の脳に直接働きかけ、思考能力を低下させるところです


なので、花恋の魅了さえ伝われば、あとは相手を思い通りにできる技能です


今回は、ドラグが少しおかしかっただけです


ちなみに、竜すらも魅了できないと勘違いした花恋は、今後二度とこの技能を使うことは無かったとか……



■今回の敵キャラの裏設定


【十台神官】エルザ

この子は後で


【死霊将軍】メイズ

元は人間で、虐められていた。レイスになった後は、グロルに保護され、体を譲渡された。それが今回のからだ。


その体を駆使して、いじめっ子を惨殺。だが、行き場を失ったメイズは、グロルの元に帰った


元々魔法には興味があったが、人間の頃から魔法の適正は皆無であった


だが、軍団指揮用の魔法ならば使え、本人も直接戦闘よりも指揮の方が上手かったので、そちらの力を伸ばした


軍団指揮能力に特化しており、近接戦闘能力は幹部であるリボーンすらも凌駕していた


時期魔王軍幹部とも囁かれていたが、ここで敗退した



【無限再生】ベフィ

これは、作中で言ったことがほとんど


グロルをすごく慕っている



【絶対粘性】ヴェンヌ

スライムに、実験としてグロルが知性を与えた姿


知性を手に入れ、自由が聞くことになったので追加で技能を与えた


しかし、自己判断能力は低く、自分で考えることは基本ない


ただ、ヴェンヌの指示に従うだけの人形



【魔人王】アルデッド

自分こそが最強と信じて疑わないタイプの悪魔族


元々グロルが就任する前の幹部の部下だったが、その幹部が寿命で亡くなった後、後任になると信じていたが、その座をグロルに奪われた


実際、魔力も高く、悪魔族の中でもトップクラスだが、魔力操作が下手で、雑な攻撃しかしないので正直、元気な状態なら光でもタイマンで問題なく倒せる


光が元気な状態なら、わざわざリーリエが駆けつけて倒す必要も無かった



【絶望竜】ドラグ

とりあえず超強い



【戦霊】シルヴァディ

反射神経が頭おかしい


彼は強すぎて集落からは迫害を受けていた


だが、集落が強力な魔物に襲われた時は、彼一人に強制的に戦わせ、相打ちになったあともぞんざいな扱いをしてから雑に死体を放置された


そこをグロルにアンデッドとしてだが蘇生された


一応生への未練はあったので、救われたことは感謝している


椿と戦うまでの間、戦士としても、一般人としてもそれなりに生を謳歌していた


思い残すことは、もう何も無い



今回なんか後書き多いけど、気にせず前日譚


これは、椿が花恋に〈閻魔〉を渡すまでの物語。


その日、椿はもうすぐ教皇が開催する祭りまでの準備をしていた。


「椿くん」


「花恋か……どうした?」


「いえ、その……わたくしもそろそろ新しい武器を見繕いたいのですが、椿くんが持っている武器の中でわたくしに似合いそうな武器はありますか?」


花恋の珍しい願いに椿は「わかった」と言って、荷物の中を確認する


そういえば、と思い、椿は荷物の中から雑に鬼人族の集落で貰った〈閻魔〉を取り出して花恋に渡した


「はい」


「これって……〈閻魔〉ですか?」


さすがに花恋も見たことがあったのか、その刀をまじまじと見ている。


「そうそう。元々鬼人族の集落にあったものだし、花恋が持ってた方がいいと思うしな」


だが、〈閻魔〉は刀に認められないと力を発揮できない代物だ。椿はその高いステータス故に無理矢理従えている。


「これって、危険ではないですか?」


「うーん……多分大丈夫だろ。そんなに心配なら一回試してみるか?」


と、言うことで二人は人気のない場所まで適当に転移してきた。


「じゃ、適当に振ってみてくれ」


「わかりました!えいっ」


花恋が軽く振るうと、椿が振るった時よりも、高い威力の斬撃が出た。


「……うそぉ」


そして花恋を見ると、何事もないように〈閻魔〉を見ていた。


「うっそぉ……」


今度は別の意味で驚いた椿であった。


「これが、閻魔ですか……確かに凄い力ですね……」


花恋はまじまじと〈閻魔〉を見ているが、おそらく、きっと、そういうことなのだろう。


「なぁ、花恋……」


「?はい」


「その刀、多分お前が持ってる方がいいから、お前にあげるよ」


そうして、〈閻魔〉はあっさりと花恋に譲渡された



ということで、花恋はしっかりと〈閻魔〉を手懐けることができてます


花恋なら、繊細なコントロールも可能なので、閻魔一刀流の中でも、大技に分類される剣技しか出せなかった椿と違い、細かい技も出せるので、これから花恋の戦術の幅も広がります

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