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絶望竜

 彼は、紛れもなく強者出会った。


 魔界で生まれ育った彼が同族の中でも頭角を表すのに、それほど時間を要しなかった。


 魔竜の中でも最強格の言われた彼は、更なる強さを求め旅を出た。


 最初は平凡な旅立った。

 時折邂逅する悪魔族すらも、彼の敵ではなかった。


 だが、ある日、彼は本当の強者を知った。


 見た目こそ、今まで戦ってきた者の中でも弱そうな見た目。だが、その技術、能力。その全てが圧倒的で、竜はその戦いに魅せられたのだ。


 その者は誘ってくれた。更に楽しめるかもしれないものがあると。


 その者、グロルは竜の強化すらも行ってくれた。それでも、グロルには遠く及ばなかったが。


 そしてグロルが開催した祭り。


「あなたも、見つかるといいですね。自分の探し物が……」


 自分の捜し物。それが何かはわからなかったが、竜は………………【絶望竜】ドラグは、今はそれがわかったような気がした。


『gugyaaaaa!!』


 ドラグが咆哮を上げながら己の尻尾を振り回す。


「"天蓋"!」


 美桜が創った渾身の結界も、ドラグの攻撃の前では無意味であった。


「おりゃァァァァァァ!!」


 支援魔法による強化を行った平一が尻尾を上手く回避しながら接近し、そのからだを殴りつける。


 だが、効果はいまひとつだった。


 翔と翼も続いて攻撃を仕掛けようとするが、ドラグの行動の方が速かった。


 ドラグは、体から幾つもの腕を生やすと、周囲を殴りつけた。


「!?巨大な腕……こいつも改造されてる!?」


 ドラグは最早二本の腕と足では立っていない。ドラグは、幾つもの足でその体を支えている。


 足が増えたことにより、攻撃の可動域が広がり、そして踏み込み、地を蹴る足が増えたことにより高速移動が安定して行えるようになった。


「八幡くん!?」


 翼の声を聞き、平一の方に視線を寄越すと、平一は空中で気絶していた。


「くそっ!さっきの攻撃をまともに喰らったか!?」


 その間にもドラグは動けない平一に腕を振るう。動けない今が、トドメを刺す絶好の機会だと判断したのだろう。


「させない!」


 翼は、着地すると同時に二本の剣を構えながら平一を守るための行動を開始した。


「おい、よせ!」


 翔は、美桜の結界で受け止めてもらおうと考えていたのだが、それももう遅い。


 翼は、腕を切り裂きながら前進をする。


 少しでも、ダメージを与えられるように。


「く、ぅ……」


 平一は、その間に起き上がり、前を見ると、ドラグの腕に剣を食い込ませながら前進していた翼が、その腕ごとドラグに潰される光景が写った。


「松山!」


 翼の剣は二本とも折れ、翼の体も地面にバウンドしながら空中に投げ出されていた。


 これで、直接戦闘能力を持っている者の中で、まともに戦えるのは翔一人だけになった。


 ドラグは、そこから更に翼と平一に追撃を加えようとする。


「させ、るかァァァ!」


 翔は、その手に持った大剣を平一に迫る腕に全力で投げつけ、空間拡張が施されたポーチの中から身軽に動ける剣を取り出すと、翼の元に走った。


「"絶撃"!」


 斬撃魔法を発動させながらドラグの腕を斬る。


 だが、ドラグは腕による攻撃を中断した。


 そして、すぐさま尻尾による攻撃を仕掛ける。


 さすがに直ぐに行動を切り替えることは難しい。そう判断した翔は、剣を構える。剣で防御を行うつもりだ。


 だが、当然そんなもので防御できるはずもなく、翔は後ろにいた翼諸共吹き飛ばされてしまった。


 不幸中の幸いは、翔のお陰で翼に届く衝撃がほんの少しだけ緩和されたことだろう。


『gugyakyahahaha』


 咆哮を上げながら、止められないと言いたげに、笑い声をあげる。


「くそっ……」


 平一も、悔しげだ。だが、ここにもうドラグと戦える者はいない。


「逃げ切れるかわからないけど……」


 撤退しようそう奈々が言おうとした瞬間、ドラグは、斜め上を向いた。


 ドラグの視線の先。そこには、避難所である教会が。


「させるかよぉ!」


 平一は、最後の力を振り絞りながらドラグの攻撃を止めにかかる。

 だが、その行動すらも、ドラグは阻止する。


 ドラグは、少なくとも翔たちのことを認めていた。だから光みたいに一撃で意識を狩りとらなかったのだ。


 ドラグは、改造を施される前の、以前のドラグなら、翔たちに負けていただろうと判断した。

 だから、自分がどれくらい強くなったのかを確かめる意味でも今、戦っているのだ。


 ドラグは周囲に衝撃波を放ち、妨害を防ぐ。


 攻撃を少しでも軽減しようと美桜が張っていた結界も、視界を奪おうと奈々が投げた投げナイフも、全部纏めて吹き飛ばした。


 やがて、ブレスの準備が整う。


 ドラグは、平一たちの絶望する顔を眺める。


 はじめて気がついた。ドラグは、自分が残虐であることを。


 今までの敵は、弱すぎて感じなかったその感情を。


 もう、誰もドラグを止められない。


「誰でもいいから……」


 琉奈は目に涙を浮かべながら呟く。


「神でも、悪魔でも構わないから……」


 蕾がドラグを睨みつける。


「誰か、助けて!」


 あの竜を止めて欲しい。そう願いを込めて天に向かって叫んだ。


 ドラグは、嗤いながらブレスを教会に向かって放とうとする。


 そして遂にその口からブレスが放たれる。


 瞬間、ドラグの体が吹き飛ばされた。


「………は?」


 それは誰の声だったのだろう。

 ドラグですら、何が起こったのかわからない。


 混乱している平一たちの元に、誰かが降り立った。


「よく頑張ったね、みんな………」


「リーリエ、さん………?」


 リーリエが、みんなの元に降りたのだった。


「私はみんなの傷の治療をする。それでいい?」


「大丈夫です。必ず、皆さんを助けてください」


 もう一人の声。平一達が空を見ると、そこには花恋が浮いていた。


 いつもとは違う、その覇気に、全員が戸惑っている。


「みなさんは、椿くんの大切な仲間ですから……」


 花恋は全身から魔力を迸らせる。


 その額から鬼人族の象徴であるツノを生やす。


「ねえ?黒竜さん……」


 そのまま、ドラグを睨みつけた花恋は怒気を孕ませながら言う。


「あまり、調子にのらないでくださいね?」

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