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神官vs王女

 ギィィン、と。金属同士が衝突する音が響き渡る。


 エルザによって行われる剣祭を、己の技術によって、捌き続けるエミリー。


 だが、純粋なる身体能力や体格差もあり、エミリーの肌には細かな傷が刻まれ続けている。


 再度、エルザによって繰り出される斬撃を、受け流し、一度距離をとり、手のひらをエルザに向けるエミリー。


「"大炎球"」


 椿に、詠唱破棄の技能を貰ったとはいえ、未だに未完成な技術。咄嗟に発動できるのはまだ中級までだった。


「……温いですね」


 だが、エルザは、中級魔法程度が通じる相手では無い。

 エルザは器用に"大炎球"を回避すると、再度エミリーの元に接近した。


 エミリーは、具現化系神聖魔法によって剣を創り出すと、エルザの攻撃を真正面から受け止める。


「うっ……」


 だが、ここでも辛くなるのはステータスの差だ。

 単純なステータスならエルザの方が上。エミリーの方が小回りがきくのだが、これほどまでに正面からぶつかり合っていれば、それも関係がない。


 このまま、攻撃を受け止めても、いずれエミリー自身のみが危うい。そう直感したエミリーは、後ろに跳ぶことによって、僅かながら衝撃を受け流した。


 そうして、受け止める対象がいなくなったことにより、バランスを崩したエルザに向かって、エミリーは、その場から、足元に向かって"風爆"を使用して、その勢いのまま突き技を繰り出す。


 だが、エルザも、すぐにバランスを取り直すと、エミリーの攻撃を紙一重で回避してしまった。


 お互いが、少し離れた場所から、再度睨み合う。


「……流石ですね」


 エルザは、先程までのエミリーの対応、そして今のエミリーの姿を見て、そう言う。


「一切油断のない構え、達人の域に到達しつつある剣術、そして剣術と同等レベルで扱える魔法……そしてそれらを状況に併せて扱えるその判断力と技術……そのレベルで扱えるようになるまでに、類まれなる鍛錬を積み重ねたことでしょう……」


 エルザは、感心したようにそう言う。

 実際、エミリーは、並々ならぬ努力をした。


 民のために、少しでも強くなるために。その純粋なる思いだけで、ここまで辿り着いたのだから。


「なぜ、あなたは直ぐに帰還しなかったのですか?」


 そもそも、エミリーは今回の騒動を予め予想していたのだ。ならば、逃げるなり、隠れるなり出来たはずだ。なのに、正面から、正々堂々とそれを打ち破りに行く姿は、エルザにはよくわからなかった。


 エルザの質問に、エミリーは少し考える。なぜ、残ったのか。


 エミリーとしては、逃げる選択肢など始めから無かった。同盟国の人々が、危険に犯されそうになっているのに、それを見過ごす理由は無かった。


 なら、なぜ臣下を呼ばなかったのか。なぜ、自分もこの戦に加わろうとしているのか。


 その答えはきっと……


「あの人のことが、好きだから……」


「ほう……」


「あの人のことが好きだから。ですが、ずっと背中で隠れ、守られているだけなのは嫌だったんです……」


 エルザは、それだけでエミリーが誰のことを言っているのかわかった。


 エミリーは、頬を少し赤らめながら言っている。完全に恋した乙女のそれだ。


「……お互いに、負けられませんね」


 エルザは、手に持った具現化系の神聖魔法の剣をシュゥゥゥという音を出しながら蒸発させた。


「!?これは……」


 そしてエミリーの周りを囲むように出来た霧。


 エルザは、きっとこれで持久戦をしつつ、エミリーの体力切れとMP切れを狙うのだろう。


 と、エミリーが警戒していると、霧の中から槍が飛び出してきた。


「!?」


 何とか受け流すが、それだけで剣は刃こぼれし、使えなくなった。


「たった一撃で……」


 きっとこれこそがエルザの奥の手。


 相手を撹乱する霧。強力な威力を誇る武器の放射。エルザの消耗は避けられないが、それでも強力だということは一目瞭然。並の敵ならば簡単にやられてしまうだろう。


 その後、霧の中から連続して発射される数多もの武器。

 槍だけでなく、剣、短剣、矢も飛ばされ、時折頭上から大剣が振り下ろされる。


 それら一つ一つを防ぐために、剣を具現化させ、刃こぼれさせる。魔法では威力不足で、逆に突破されエミリーの身が危ない。


(エルザは徹頭徹尾……きっと私の消耗を待つだけ……)


 エミリーは、エルザの作戦が読めていた。だが、それを防ぐ術は今はない。それに……


(今は、その作戦にのってあげましょう……)


 エミリーは、あえてその作戦に乗ることにした。だが、それはかなりの賭け。第一段階が成功しても、タイミングが悪ければ、きっとエミリーは殺される。


 だが、そんな時こそ冷静になれと、椿に習った。


 エルザは、霧の中からエミリーの様子を見ていた。


(綺麗だ……)


 エルザには、エミリーの姿は眩しすぎた。

 きっとエルザには、エミリーみたいな生き方は出来ないから。だが、


(潮時……ですね)


 既に、エミリーのMPの残量は無い。あと一度神聖魔法を発動させるだけでエミリーは倒れるだろう。


 エミリーの身につけていた服も少しずつ破れていく。途中から、致命傷となる攻撃は受け流し、それ以外は回避するだけでかすり傷は加えられている。


「せめて、最後くらいは……」


 私自身の手で……


 そう思い、エルザは自ら戦場に身を投げ入れ、エミリーにトドメを刺そうとした。


 だが、エミリーは、胸元から飛び出していた椿に借りていたペンダントを握った。それだけで、エミリーのMPの六割が回復した。


「な!?」


 突然の出来事に、エルザは反応出来ず、


「限界突破!」


 奥の手である限界突破を発動し、剣を具現化すると、エルザの胴体めがけ、横に斬り払った。


「がはっ」


 エルザの口から空気が漏れ出す。だが、その瞬間にも、エミリーは容赦なく攻撃を加える。


 飛ばされたエルザの体を、今度は下から切り上げ、エルザの体を空中に投げ出す。


「はっぁ……」


 エルザでは、エミリーの行動は視認出来ない。今や、ステータスは完全にエミリーが上だ。エルザも限界突破を使わなければ敵わないが、エルザはそもそも限界突破を使えない。


「がぁ!」


 エルザは、血反吐を吐きながら、新たな剣を具現化し、次のエミリーの攻撃に備える。


「偽・閻魔一刀流……」


 エミリーは、エルザが見たこともない構えをとる。


 しかし、エルザは気にしている余裕はない。ここでやらなければ、倒れるのはエルザだ。


「月虹乱舞」


 エミリーの攻撃により、エルザは吹き飛ばされた。

偽・閻魔一刀流は、椿の閻魔一刀流を、自分なりにアレンジしたエミリーオリジナルの剣技です


月虹乱舞は、エミリーが創り出した偽・閻魔一刀流の技名です

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