愚か者は夢の中
神聖国ルリジオン。その名の通り、神に縁のある国で、最も神への信仰心が高いと言われている国。
そんな国の首都の住宅街の一角にて、常人ではありえないレベルの魔力が渦巻いている。
そんな魔力現象を引き起こしているのは……
「ふははははははは!どうした!俺程度では、お前には敵わないんだろ!?ならば、もっと攻めてこい!」
「……」
【魔人王】アルデッドと、リーリエの戦闘だった。
両者共に魔法を主軸として戦う二人。それにより二人から漏れた魔力が周囲一帯に充満しているのだ。
そんな中、二人は衝突する。
アルデッドが放つ魔力波を、多種多様な魔法で防ぐリーリエ。
異次元の戦い。この戦いを見た者は、皆そう言うだろう。
傍から見れば、どちらが優勢かわからない。だが、辛うじてこの戦いを見ることが出来るものならば、きっとこう言うだろう。
アルデッドが優勢だと。
「"魔人波"!どうだ!手も足も出ないだろ!」
アルデッドは、攻撃を放ちながら、高笑いをする。
実際、この戦いは自分が勝利すると確信していた。この戦いに勝利し、改めて魔王軍幹部入を希望する!そう思いを胸に、アルデッドは、リーリエに向かって魔法を放ち続ける。
しかし、リーリエには、一度も魔法は被弾していなかった。
「……"疾風"」
移動速度が上昇する魔法を用いて、的確にアルデッドの攻撃を回避し続ける。
アルデッドは、ただ愚直に魔法を放つだけ。
無論、それはリーリエにもわかっている。わかった上で、相手を挑発するかのように、回避しているのだ。
「無駄だ!今は回避に徹しているようだが、いずれ貴様の体力やMPは底をつく!その時が、貴様の最後の時だ!」
そうして、アルデッドは、一度に複数の"魔人波"を放つ。まるで、先程までは手加減していたと言うかのように。
「さぁ!これが貴様の最後の時だ!」
そうして、アルデッドが放った魔法の全てが、リーリエに向かって一直線に突き進む。
(あぁ……)
その攻撃を見て、リーリエは
(下手だなぁ……)
辛辣な評価を下した。
そして、リーリエは、その"魔人波"をなんの苦もなく結界で防いだ。
「な!?俺の渾身の魔法が!?」
驚愕しているアルデッドの懐にリーリエは素早く潜り込むと、
「……"獄炎"」
ガラ空きのお腹に向かって上級魔法を放った。
「ああああああああぁぁぁ!」
全身を火達磨にしながら、アルデッドは叫ぶ。
先程、辛うじて戦闘を見ることが出来るものならば、アルデッドが優勢になると言った。
だが、戦闘を十分に見ることが出来る戦闘のプロがこの戦いを見ればどう評価するだろうか。
答えは簡単だ。
リーリエの優勢だと。
「この……巫山戯やがって……」
アルデッドはまだ気が付かない。先程まで、リーリエが手加減していたことを。
「くたばりやがれ……」
怒りにより、周囲が見えなくなったアルデッドが、我武者羅にリーリエに向かって魔法を撃つ。
その全てを真正面から回避しながら、リーリエは、再度アルデッドに近づく。
「させるがァァァァァ!」
と、そこで、アルデッドは全身から炎を放出させ、リーリエの接近を拒む。
「はぁ……面倒臭い……"水帝"……」
だが、リーリエはその炎を膨大な量の水によって打ち消す。
雑に放たれた階級もない魔法よりも、洗練された最上級魔法が勝つのは自然の摂理とも言える。
「えいっ」
と、基本的な物理戦闘能力は一般人クラスのリーリエは、可愛らしい声で敵を殴る…………ことも無く、突き出した手のひらから、風の爆発を引き起こした。
「ああああああああぁぁぁ!俺は、俺はこんなところで……」
アルデッドは、リーリエを睨みつける。勝てると思っていた。勝てると、信じていた。実際、不利な戦闘では無かったのだ。
なのに、なぜ、先程までコケに扱っていた相手に、ここまでいいようにやられるのか。
「ああああああああぁぁぁ!」
アルデッドは、リーリエが接近戦は苦手だと予想し、接近戦を仕掛けようとする。しかし、
「"儚き夢物語"」
リーリエが、新たな魔法を放った。
またなにか……そう思って無理矢理突破しようとし、リーリエに肉発すると、その体を、簡単に吹き飛ばした
「……はっ」
やはり。所詮貧弱な妖精族。攻撃さえ当たれば簡単に殺すことができる!
そう判断したアルデッドは、次から次へと湧き出すリーリエを、順当に殺していった。
その姿を見ながら、リーリエは冷ややかな視線を向ける。
"儚き夢物語"
それは強欲の権能を用い、もしこうしていたら、というあったかもしれない可能性を、幻として、簡易的に具現化させる魔法だ。
相手を理想の世界へと引きずり込み、最終的に殺す。そういう極悪な魔法がこの"儚き夢物語"の正体だ。
「じゃあね……あなたとの戦いは、酷くつまらなかったよ……」
リーリエは、それだけ言うと、"果てなき深淵"を発動し、夢の世界諸共アルデッドを引きずり込んだ。
その時のアルデッドの表情は、酷く、狂気によって歪められていた。




