五人の戦場
「リーリエさん、大丈夫かな……」
光は、教会へ走ってる中、際ほど戦った相手、そしてそれを引き受けたリーリエの姿を思い出す。
いくらリーリエが強くとも、あの【魔人王】には……
「大丈夫に決まってんだろ」
だが、隣で走る平一が光の思考を途中で止めた。
「……なんで、そんなこと言えるんだ?」
「決まってんだろ。俺は、全員を信じることにしたんだよ!光はどうなんだ?どっちにしろ、全員がこの戦いに勝てなきゃ、この街は終わりなんだ」
平一の言葉を聞き、思い直した光は、
「悪い、平一。目が覚めた」
「おうよ。たく、お前は勇者に選ばれたってのに、いつまでもくだらねぇことに悩みやがって……」
と、二人が走ってる中、巨大な影が二人を覆った。
「……?なんだ?」
二人は疑問に思い、上空を見ると、
『ggyaaaaa』
巨大な黒竜がそこには居た。
□■
「えいっ!はいっ!せやぁー!」
奈々が投げる投擲ナイフが、細かく分裂するヴェンヌの体を捉えるが、それも全てではなかった。
「急がなくちゃ!分裂したらまた面倒に……」
現在、ヴェンヌは結界の中に閉じ込められている。美桜が結界を閉じ込めるために展開し、その中で戦闘は行われている。
少女たちがこれまでの戦いでわかったことはひとつ。分裂した体を、再集結する前に倒すか、合体した本体を一撃で倒すことだ。
だが、ヴェンヌは、分裂すると、倒しやすくなるが、数が多くて面倒。集結していると、単純に強くて倒せない。
だが、ここまで戦えているのも、5人が協力しあっているからだ。
琉奈が、全員の単純な能力を底上げし、美桜が逃げようとするヴェンヌを閉じ込め、戦闘範囲を制限している。奈々は、正確無比なナイフで分裂したヴェンヌを確実に仕留め、蕾は不意打ちを事前に感知し、分裂したヴェンヌの居場所もすぐさま感知する。そして最も戦闘力のある翼が集結したヴェンヌを攻撃する。
5人とヴェンヌは、これでなんとか拮抗を保っている状態だ。
『pthipthipthi』
ヴェンヌは、鳴き声を上げながら、再集結をする。
蕾は、その隙にMP回復薬を服用する。
「やっぱり、分裂中に仕留めるのは難しい……」
翼は、再集結するヴェンヌを見て、そう判断する。だが、
「でもでも、私の支援魔法があっても、一撃で仕留めるのは無理じゃない?」
琉奈の言う通り。いくら翼でも、一撃で耐久力も備えているヴェンヌを倒すのは至難の業だ。
「わかってるわ。だから、作戦を考えたの」
翼は、作戦を説明しようとするが、
『ガッタイカンリョウ。フンッ!』
ヴェンヌは、そう言って腕を振るうと、"天蓋"を破壊した。
「ああ!?私の結界が!」
美桜は叫んでいるが、蕾と翼にとっては、この程度は想定内だ。
「次!」
「美桜!」
「くっ!"天蓋"!」
そうして、結界という檻が無くなったヴェンヌが、再度分裂しようとするが、今度はヴェンヌのみを閉じ込めるように結界を展開した。
実は、この分裂自体は強くない。
攻撃手段が体当たりしかなく、その体当たりの威力もかなり低い。ただ、見つけにくいのと、やられたらそれなりに面倒なだけである。
それに比べ、集結した姿は違う。攻撃手段こそ殴る、蹴るの二つだけだが、それが脅威なのだ。
よって、
「琉奈。私に最大限の支援魔法を……」
「了解!翼の作戦。信じてるからね!"英雄の導き"!」
最上級支援魔法"英雄の導き"。これは単独にしか効果は無いが、人一人を、超強力に強化することが出来る今の琉奈が出せる最大限の魔法だ。
『コザカシイ……ヌンッ!』
ヴェンヌは、そう言いながら"天蓋"を破壊した。
「美桜!もう一度閉じ込めて!」
「了解!"天蓋"!」
そして、歩を進めようとするヴェンヌを再度閉じ込める。
「翼。周囲に人の気配は無いよ!」
「存分にやっちゃって!」
「蕾。奈々……ありがとう」
翼は、そう言うと、高速詠唱を始める。
『ウットウシイ!ハァァァ!』
ヴェンヌは、痺れを切らし、"天蓋"を再度破壊すると、美桜に向かって突進を始めた。
『オマエサエ、タオセバ……』
だが、ヴェンヌの弱点として、知能が低すぎることがあった。
そして、ヴェンヌは、その弱点を、身をもって味わうこととなる。
「準備が出来たわ。消えなさい……"終焉の永久凍土"」
その瞬間、ヴェンヌの体は凍てついた。




