再生vs回復
神聖国ルリジオン。その上空で2つの影がぶつかっては離れ、ぶつかっては離れを繰り返す。
その影の正体は、椿とグロルだった。
お互い手には具現化した聖なる剣を装備して、数度ぶつかり合う。
グロルの手の剣は未だに無事であるが、椿の持つ剣は既に刀身がボロボロだ。
「素晴らしいですね……」
グロルは、一度距離をとり、椿にそう言った。
「まだまだ、あなたの底が、まるで見えません」
だが、椿には、その言葉が嫌味にも聞こえた。
「それはお前も同じだろ?」
椿はボロボロになった剣を捨てながら言う。
「全部見せてみろよ」
言外に、そうしないと勝てないぞと言った。
だが、
「確実に、言えることが一つありますよ」
グロルは自らの姿を徐々に変形させながら言う。
「あなたに対する私の有利。それは手数です」
グロルの体が変形する。背中からは翼が。体からは無数の手と、化け物の頭部が生えてくる。更には背中から何かの触手も生えていた。
「それは、地上での戦いでも同じこと……」
グロルの変形を見た椿は、楽しそうに笑みを浮かべながら、剣を具現化し、攻撃を仕掛けたのだった。
□■
「教会を守れぇ!」
神聖国ルリジオンの首都、アルネブにある教会本部の前にはこの街を拠点としている冒険者が集まっていた。いや、冒険者はここ以外にも集まっていた。
それぞれが己のために、市民のために必死になって突如現れたアンデッドと戦っている。
「皆さん!教会本部だけはなんとしてでも死守してください!」
教会前にはギルド職員たちもいて、冒険者に物資の支給や、指示などを送っている。
ギルド職員がいることにより、冒険者は安心して戦え、冒険者が必死になって戦っているからこそ、避難所に集まった人々も協力している。
みんなが、明日を生きるために、頑張っているのだ。
「ここが突破されれば、何もかもお終いだ!野郎共!なんとしてでもここを守りきるぞ!」
この街で現在最もランクの高い冒険者が率先して戦っているのも大きい。
「全員で、明日の朝日を見るぞ!」
『うぉぉぉぉおおおおおお!!!』
冒険者達が、決死の覚悟でアンデッドに襲いかかった。
□■
「はぁぁぁぁ!」
翔は、両手に短刀を装備し、ヒットアンドアウェイ戦法で自称猫に攻撃を仕掛ける。
このうさ耳をつけ、熊の胴体を持ち、豚の顔で兎の鳴き声をする怪物は、尻尾だけは猫だったのだ。
この化け物は、【無限再生】の名に恥じない再生能力を保持している。
翔が幾度となく攻撃を仕掛けるも、その全てを瞬間的に再生。
今のことろ、他の武器でもそれは同様だった。
「かけるん、一旦退避、しよ?これに、誰も襲わせ、なかったら、上里くんなら、対処できるから……」
花恋でも、リーリエでも、この怪物には対処できると考えたが、自分たちでは無理だと優花は半ば諦めていた。だが、
「それだけは、出来ないな」
普段は冷静な翔自身が、それを否定した。
(どうするのが、最善か。それは俺が一番わかってる。だが……)
翔の正しい選択は、椿が来るまで退避や奇襲を交えつつ、耐えることだ。だが、それは翔のプライドが許さなかった。
(こんなところで逃げちまったら……)
翔は武器を持つ手の力を加える。
(もう、二度と上里に近づけなくなる!)
翔は、そう思いながら、優花をチラリと見る。
(それに、惚れた女にそんな姿見せられるかよ!)
翔はベフィに向かって歩を進める。
『kyuuuuu!!』
ベフィは、咆哮を上げると、手に大剣を装備した。
「ようやく、本気で戦う気になったか……」
翔は再度攻撃を仕掛ける。
翔が持つ短刀は、王国の鍛治職人に、椿が付与魔法を与えた国宝級の品だ。
よっぽどの事がない限り壊れず、斬撃の威力も高いときた。
それが2本。翔は贅沢な使い方をしながらベフィにラッシュを与える。
「ああああああああぁぁぁ!!」
『kyuuuuuuu!!』
翔はベフィが振るう大剣を短刀で紙一重で捌くか、或いは回避している。
翔は蕾みたいに未来感知が使える訳でもないし、椿や花恋、リーリエみたいに未来が見える訳でもない。だが、
『kyuuu!!』
「太刀筋は、わかりやすい!!」
翔は大振りの大剣を回避すると、カウンターとしてベフィの胴体に傷をつける。
『kyuuuuu!』
「おっと」
翔は振るわれた大剣を短刀で受け流しながら距離をとる。
正直、リーチもある大剣相手に、短刀で戦う翔が距離をとるのは愚策としか言いようがないが、今はこれでいいのだ。
翔は離れた場所からベフィの傷口を観察する。
『ふむ。ようやくわかったか。俺の恐怖を。絶対に勝てないという絶望を……』
ベフィは大剣を地面に差し込み、翔を試すようにそう言った。
だが、翔は答えない。傷口の再生を見ているだけだった。
『ふん。言っておくが無限再生の名の通り、再生に限界はない。MPを消費しているわけでもないので、MP切れを待つのは無駄だ』
ベフィはそう言うが、翔はそのまま観察を続け、
「……見えた、突破口」
勝ち筋を見つけた。
「優花!」
「は、はい!」
翔は一瞬で優花の元まで戻ると、耳元で何かを囁いた。
「本当に、それで、大丈夫なの?」
「確証はない。だが、やる価値はある」
翔はそう言いながら優花にMP回復薬を与える。
「俺が足止めをする。その隙に決めろ」
翔はそう言うと、短刀を装備しなおし、ベフィに攻撃を仕掛けた。
『何度やっても無駄と、わからないのか!kyuuuu!』
ベフィの出鱈目な太刀筋に対し、翔は正確に捌き、受け流し、攻撃を決め続ける。
優花は、そんな中、ある魔法の詠唱をしていた。
優花はその魔法を使ったことはなかった。自分には必要ないとすら思っていた。だが、今はこの魔法にかけるしかない。
翔は何も言わなかった。だが、それは信頼の証。翔は信じていたのだ。
優花ならやってくれると。
「!準備、できたよ!」
優花がそう叫ぶと同時に、翔はベフィから距離をとった。
『?回復役に、何が出来る!?kyuuuu!』
ベフィの敗因は1つ。
「お前は、回復役を舐めすぎなんだよ!」
翔がベフィにそう言った直後、その魔法は開放された。
「"堕天"」




