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一緒に行こう

今回の話。

正直、聖魔魔法を出したかっただけ

「聖魔魔法……」


 椿が呟いた瞬間、アンデッドはそこから飛び退いた。

 本能で理解したのだ。あれはやばいと。


「"邪光"」


 瞬間放たれたどす黒い光。それによって、アンデッドの体を覆っていた神聖魔法による防護は破られてしまった。


『ーーー』


 アンデッドは"風爆"による牽制を行い、離脱しようと試みるが、


「【鎮まれ】」


 椿のその言葉だけで"風爆"の爆風は解かれてしまった。


 アンデッドはその事実に、一瞬硬直し、椿はそれを狙って近づいた。


「吹き飛べ」


 椿はそう言いながら、アンデッドの腹(に値する部位)を殴り飛ばした。


「聖魔魔法"大黒天"」


 次に椿がつぶやくと、椿の背後に槌を持った聖と魔の二つの属性を組み合わせた巨大な牛が具現化された。


 椿が作り出した聖魔魔法。それはエミリーの神聖魔法をベースに、天使族に対しても特攻を持てるように作り出した完全オリジナル魔法だ。


 巨大な牛はアンデッドを狙って槌を薙ぎ払う。それを風魔法と超反射でなんとかかわしきるアンデッド。


「ふむ。エミリーが言ってたように、確かに魔法を使ってるな」


 椿は適当な下級魔法を放ちながらアンデッドの動向を見る。


「魔法が使えないはずのアンデッドが魔法を使う。実に興味深いな……」


 そう言って、腕を払うと、"大黒天"が再び動き出す。


 アンデッドは、その様子を離れた場所から見やる。そして理解した。あれは正真正銘の化け物だと。


 アンデッドは、一人死んで行ったレイスが、強力な力を持った元冒険者の死体に乗り移ったものだ。

 しかし、ただ乗り移ったからと言って、直ぐに簡単に、戦える訳では無い。

 体を提供してくれた、大恩人。主様の仲間と戦闘訓練を日々積んできた。


 そして強くなった今ならわかる。自分を救ってくれた主様の圧倒的な力を。だが、それを知ってなお、椿の放つプレッシャーは異常だった。


(出鱈目だ……!)


 アンデッドは、心の中で悪態をつく。だが、それは無理もない。

 嫌だ、帰りたい。そんな感情が、思いが、アンデッドの心の中を駆け巡る。そして、最後に主様の顔を思い出して、体の震えを止める。


(そうか……)


 そうして、アンデッドは


(わかった……)


 その目で椿の姿をしっかりと捉え、


(僕は、こいつを殺すことこそが、主様への最大の恩返しなんだ!)


 自分の存在意義を見出した。

 その瞬間、アンデッドは、椿に向かって飛びかかる。

 それと同時に"大黒天"も、槌を振るうが、アンデッドは、それを紙一重で回避して、"大黒天"の腕を走り抜ける。


 具現化系の神聖魔法、及び聖魔魔法の、聖属性の効力は、触れるだけでは効果を発揮しない。攻撃して、ダメージを与えて、始めて特攻となるのだ。


 だがら、アンデッドが"大黒天"の体を走っていても、なんら問題は無い。


 再度"大黒天"が振るった腕によって、アンデッドは一度落ちるものの、


『ーーー』


 風の魔法で攻撃が被弾しないように、再度"大黒天"の体に戻り、走る。


 だが、そこに椿は"大黒天"に改良を加えた。

 なんと、"大黒天"の腕が、合計八本に増え、その全てに槌を装備させたのだ。


 アンデッドは、なんとか被弾しないように回避するも、そのうちの一つが右腕に当たってしまった。吹き飛ばされる前に、右腕を斬り飛ばし、さらに風魔法で軌道を修正する。


 そうして、左手に全力で魔法をチャージして、椿の近くになんとか接近したアンデッドは、椿に向かって魔法を放った。


(やった!)


 さすがに、殺してはいないだろうが、多少の手傷を与えることはできた。

 そう、思っていた。

 だが、現実は残酷で、結界で防御していた椿には、なんのダメージもなかったのだった。


(あぁ……)


 絶望しているアンデッドの元に、結界を解除した椿は、接近すると、蹴り飛ばした。

 直線上に蹴り飛ばされたアンデッドは、壁にぶつかると、そのまま地面に倒れてしまった。


 倒れて、動かなくなったアンデッドの元に、椿は歩み寄る。


「よし、ようやく動かなくなったな」


 そう言いながら、椿はアンデッドに再生魔法を使う。

 再生魔法により、腕が治っていくのを見て、アンデッドは驚愕する。


「こんなもんでいいだろう。あとは……」


『ーー僕を、どうするつもり?』


「どうって……記憶を覗いたあとは……」


 椿はそこまで言うと、言葉を止めて、アンデッドを見て、


「え?お前って、喋れたの!?」


『え!?あ、うん。一応……』


 椿は驚愕しながら、アンデッドの体を触る。術式でも、見てるのだろう。


「いやー。本当にどうなってるんだ?レイスと死体の相性でも良かったのか?」


 椿の疑問として口に出した言葉で、アンデッドも、納得する。きっと、主様は、相性が良好な死体を持ってきてくれたのだと。


「もっと、お前のことを知りたい」


 椿はアンデッドに手を差し伸べた。


「一緒に行こう!」


 アンデッドは、その事実に、涙を流す。

 レイスは、それは悲惨な人生を送った。肉体は、英雄として讃えられたが、レイスの方は、いつも虐められ、虐められている途中で殺されてしまったのだった。


 だが、アンデッドは椿をもう一度見る。

 きっと、椿に立ち向かうことに比べれば、この世の理不尽なんて、もっとずっと……簡単だったはずだから。


 アンデッドは、迷わずにその手を取る。

 それだけで、アンデッドの心は救われたような気がした。


 だけど、椿について行くことは主様への裏切りになると思うから……


『主様を……お願い……』


 アンデッドは、これだけ言うと、肉体に仕込んでいた神聖魔法の術式を起動して、自分の肉体と魂を浄化した。



 □■



 ここは、地下深く。

 残りの作業をしていたグロルは、不意に手を止めた。


「……?どうしたしたか?」


 そばで手伝っていた女は、グロルにそう問いかけた。


「いえ、少し気になったことが……」


 そう言うと、グロルは、再度魂の繋がりを確認して……


「ああ……【戦霊】シルヴァディが倒されましたね。今度こそ確実に」


 断言した。

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