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目覚めと現状

「どこだ?ここは……」


 翔は気がつくと、何も無い空間に座っていた。


「そっか……俺はあの神父と戦って」


 負けたのだ。きっと殺されたのだろう。特に最後の攻撃なんて傷ついた体では避けようがなかったし、奇跡的に誰かが間に合っても、回復手段なんて無いに等しいだろう。


「優花には、悪いことをしたな……」


 彼女である優花のことを考える。何も言わずに勝手に教会に侵入して、強敵と対峙してそして殺された。


 きっと優花は泣いて怒るだろう。他のクラスメイトも悲しんでくれるだろうか。


「上里は、俺からの伝言を受け取ってくれるだろうか……」


 気がかりはいくらでもあるが、死んでしまってはそんなことを気にしても仕方がないと割り切る。


「さて、そろそろ行くか」


 翔はそう言うと、立ち上がって歩き出そうとした。

 何も無い空間のどこかへと。


「ーーー」


 ふと、声が聞こえた。


「!?」


 翔は驚愕しながら周囲を見るが、何もなかった。


「なんだ、気のせいか……」


 翔はそう結論付けて再度歩き出そうとしたが、


「ーーー!」


 また声が聞こえた。

 今度こそ翔は声がした方向に視線を移すと、その方向には白い空間だけでなく、光輝いていた。


 その光を見た瞬間に、翔はなにが起こっているのか大体の予想ができた。


「たく、折角人が覚悟決めたっていうのにな……」


 でも、悪い気はしなかった。

 翔は「今行くよ」と言うと、その光に向かって歩き出した。


「ん……んんー」


 翔が目を開けると、見覚えのある天井があった。


「宿の、天井か……」


 翔がそう呟くと同時に、周囲に異常なほどの人の気配を感じた。


「う、う……」


「な、なんだ?」


 翔は慌てて体を起こすと、そこには翔のベッドの周りを椿以外のクラスメイトが囲っていた。


 クラスメイト達は翔が起きたのを見ると、


『宇都宮が起きたァァ!!』


 全員が一斉に抱きついた。


「おわ!なんだ全員急に!」


 翔は慌てて逃げようとするが、


「痛っ」


 体から激痛が発せられた。


「なんだ、これ?どうなってるんだ……」


 翔が不安そうに自分の体をみつめていると、


「だって、しょうがないよ?かけるん、身体中穴だらけで、無事な場所が、ほとんどなかったって聞いたよ?」


 翔の身を案じてあえて抱きつかなかった優花が教えてくれた。


「そっか。そんなことが……」


 翔は改めて自分の体を見る。

 体の穴をここまで完全に防げるのは1人しかいない。優花にそんな力はないので……


「俺は、また上里に助けてもらったのか……」


 翔は改めて椿との差を痛感する。

 すると、扉が開いて誰か入ってきた。


「お、宇都宮。起きたか」


 椿がそう言いながら花恋とリーリエとエミリーと一緒に入ってきた。


「上里と、花恋さんとリーリエさんとエミリー様か。ああ。おかげさまでな」


「まあな。にしてもよく生きて目覚めたな。ほとんど奇跡だったぞ」


 椿が感心するほどの奇跡。翔はそれがふと気になってしまった。


「……ちなみに、上里が治癒するまでの俺ってどんな状態だったんだ?」


「ん?そうだな、お前の体は攻撃されてからそれなりの時間は経っていたが、死亡してから二分を少し過ぎたくらいの時間に俺が宇都宮を発見した感じだ」


 悲報。宇都宮翔。いつの間にか一度死んでいた。


「は?え?俺、一度死んだのか?」


「ああ。正直、あの傷であそこまで生き抜いたのはお前の生きたいという心が、意思が強かったからだろうな」


 翔があと少しでも早く死んでいれば。椿が試練から出るのがあと少し遅ければ。翔は死んでいたのだ。


「さすがにあの傷で、しかも死んでいたからな。再生魔法を使ったし、直ぐに起きてよかった」


 ちなみに、現在はあの戦いから一日しか経過していない。


「はい。それでは私としては教会を守ってくださった翔さんを盛大に労ってあげたいのですが……」


 エミリーはそう言いながら椿の方を見る。椿はポーチから血で汚れたシャツを取り出した。


「ああ。俺はこのお前が血で残した遺言の内容が知りたいな」


 翔に血で汚れたシャツを渡した。


「それで、なんて書いたの?かけるん。なんとか私への遺言は、読み取れたけど……」


「いや、そんなん書いてないよ。書く時間も無かったしな」


「……え?」


 優花は絶望した表情をするが、


「俺への、遺言だろ?」


 椿はワクワクした表情で答えを促した。


「話してくれ。お前をそこまで追い込んだ敵の情報を」


 そうして、翔は対峙した神父の情報を話した。


「自分のことをキメラと名乗り、体を変幻自在に変化させ、神聖魔法を使った、ですか?」


 エミリーは翔の情報を疑っている。


「有り得ません。それでは、神が魔物に神聖魔法を授けたと同義……」


「違うな」


 エミリーの思考を、椿は無理矢理断ち切る。


「神は恐く魔物に神聖魔法を授けたんじゃない。授けた対象が自分の体を後に改造したんだ」


 椿の言葉に、エミリーやクラスメイトは絶句した。

 当たり前だ。いくらなんでも自分の体を改造するなんて発想。中々できない。そして、それを実行する勇気もないのだから。


「実際、そいつは変形している。エミリーのさっきの言葉が本当なら神は人間の範疇を逸脱した相手には神聖魔法を授けないはずだから、そいつはもらった後に改造したことで間違いないはずだ。そして、それほどのやつが自分以外を改造しない理由は無いはずだ」


 椿の言葉を誰もが理解した。いや、誰も理解したくなかったが、理解せざるを得なかったのだ。

 つまり、神父はまだまだ手駒を残している。


 そこでエミリーが「あっ」と言葉を零した。


「そういえば、下水道で最後にとても強いアンデッドと戦ったのですが、何故か神聖魔法が効きませんでした」


 神聖魔法はアンデッドに対する特攻だ。だが、それを防ぐということは……


「おそらく、そのアンデッドも神父絡みだろうな。神聖魔法に対する耐性を極限まであげていたんだろう」


 つまり、その謎神父はそのアンデッド程の実力を保持しているということだ。


 光と平一とエミリーの3人でなんとか倒した相手と同等の力を持った敵がまだ複数。そして謎神父。


「なんにしても、かなりやばいな」


 状況は何も好転などしなかった。

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